50歳代でルミナルタイプ、局所進行乳癌、多発肝転移、骨転移、ステージⅣの方が来院されました。
近県の総合病院で1年以上治療を受けておられました。
原発巣、転移巣共に著明に縮小しており、出来れば治りたい、また小さいうちに原発巣の切除をして欲しい、と願われていました。
しかし主治医からは、
「治ることはない。」
「原発巣も切除出来ない。」
と告げられたとの事でした。
他の病院にもあたられたそうです。
しかし、返ってくる答えは同じだったと仰られていました。
私の所にお越しになられた時に、肝転移、骨転移共に遺残していると判断したことより、確かに今すぐ原発巣を切除する事は、お勧め出来ませんでした。
またこのままの状態が維持されると、やがて薬剤耐性を獲得してくる事が予想される事より、さらなる転移巣の縮小および消失を目指した治療に切り替えました。
骨転移はCT画像で再骨化(一部空洞化あり)を確認し、完全寛解あるいはそれに近い状態と判断しました。
PETですべての骨への異常集積の消失、またさらに骨シンチグラフィでも、異常集積の消失を確認しました。
骨シンチグラフィ画像です。
向かって一番右端と右から三番目が治療変更から3ヶ月後ですが、AIでの検出がゼロになっています(最下部の数値)。
治療変更により、造影CT画像上肝転移巣は不明瞭あるいは消失しました。
しかし、造影MRIおよび造影USで肝転移の遺残が疑われる部位を同定し、マイクロ波焼灼術を行いました。
マイクロ波焼灼術後の造影CT画像です。
マイクロ波焼灼術前のMRI画像と比較し、良好に焼灼されている事を確認しました。
遠隔転移巣が無病状態 (no evidence of disease)に到達しても、原発巣が遺残していると再度転移巣を形成してくる可能性が残ります。
よって、この方にこの時点ではじめて原発巣切除をご提案しました。
原発巣の最終病理診断の結果は以下の如くでした。
切除した原発巣、腋窩リンパ節共に、そこに乳がんが存在していた痕跡は残っていましたが、乳がん組織の遺残はありませんでした。
つまり、切除標本内のすべての乳がんが消失していました。
再燃するかどうかは分かりません。
しかし、この方は無病状態に到達されました。
今後は出来るだけ楽な治療でメンテナンスしながら、永らく無病状態を維持し、やがて根治に到達出来ればと願っています。
ご本人、ご主人様に「おめでとうございます。」とお声がけさせていただきながら、それぞれと握手をさせていただきました。
おふたりの目には光るものがありました。
これまで二人三脚で治療にあたられ、ここに到達された喜びを噛み締めておられるご様子でした。