根治を目指す場合のアバスチンを変えるタイミング | the east sky

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いつの日か、すべての進行乳がん(切除不能乳がん・転移乳がん・再発乳がん)が根治する日を願っています。




以前アバスチン (bevacizumab) + パクリタキセル (paclitaxel)を早急に変更する事は、患者さんの寿命をかえって縮めてしまうのでは無いか、と言うご質問をいただきました。




それに関して、むしろ引っ張りすぎる事の方が、患者さんの寿命を縮めてしまう可能性につき、以下の記事に書かせていただきました。



私は、以前に日本の最高峰の研究施設の一つで、がん細胞を扱った基礎研究をさせていただいていた事があります。



その為でしょうか、目の前の患者さんの病状、血液や画像の検査データ等を見る事により、患者さんの身体の中で今、一体何が起こっているのかが、細胞や組織レベルで目の前に明確な画像として浮かんで来る事を多く経験しています。



それが正しいのかどうかは分かりませんが、それを踏まえて治療を組み立て、今現在80%以上のde novo (無治療の)Stage Ⅳ乳がんを無病状態に導いています。



例えば、腫瘍マーカーが最底値を付けた後に上昇に転じた時、転移巣で何が起こっているかを考えた際に、様々な事が頭に浮かんで来ます。



基礎医学的には、以下の現象が思い浮かぶ事の一つです。


これはアバスチンを投与した際の効果と、耐性獲得機序を説明した図です。

腫瘍は通常、増大に伴って、中心へ行けば行く程、低酸素状態に陥っており、悪性化して多剤耐性化し、転移能を発現して転移して行きます(EMT:上皮間葉移行、一番左側の図)。



アバスチンを投与した際には、腫瘍内の異常血管が取り除かれ、腫瘍内圧が低下します(中央の図)。


すると、圧迫されて潰れていた正常血管の血流が戻ってきます。


血流が戻って来た所に居るがんの多くは、大人しい薬剤感受性の高いがんに戻り(MET:間葉上皮移行)、また血流が無く届かなかった治療薬が、その領域へ届く様になり、がんを死滅させて行きます。


しかし、あまりに大きながんは(原発巣・転移巣に関わらず)、それだけではどうしても中心に低酸素領域が残る事が多くなります。


するとやがて、アバスチンにより低下しているVEGF以外の、様々な血管新生因子が多数産生される様になり、その刺激によって、やがて再び異常な毛細血管網が転移巣の中に構築されます(一番右側の図)。



こうなればまた、血流の無くなった領域には、どんなに良い治療薬を投与しても、届かなくなります。



また、低酸素領域の乳がん細胞は、再度悪性化して多剤耐性化してくる為、たとえ薬剤が届いたとしても、治療抵抗性を示す可能性が高くなってしまいます。



こうなってからでは、多くの転移巣で(私の治療戦略では)、根治を望めなくなってしまいます。



なので、アバスチン + パクリタキセルの効果を最大限引き出しながら、なおかつ引っ張り過ぎて、次の治療が効き辛くなる前を見極めて治療を変更する事を、私はとても大切にしています。



そのタイミングが、たとえ同じ治療法を行ったとしても、根治を目指した場合と、緩和・延命を目指した場合とで、全く異なります。



そのタイミングを正しく見極められる様になった医師が、(私の治療戦略で)多くの転移乳がんを無病状態にまで導ける能力を身に付けられる、と私は考えています。