ハーセプチン+パージェタ+ドセタキセル ファーストラインの欠点② | the east sky

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いつの日か、すべての進行乳がん(切除不能乳がん・転移乳がん・再発乳がん)が根治する日を願っています。

ハーセプチン+パージェタ+ドセタキセルでは、ほとんどのHER2タイプ切除不能・転移・再発乳がんで完全寛解まで到達する事が出来ません(完全寛解率5.5%)。

完全寛解まで到達し得た5.5%の方のうちには、おそらく根治されたであろう幸せな方が含まれていると思います。


ここで完全寛解まで到達されなかった94.5%の方々は標準治療では、次にカドサイラ(trastuzumab-emtansine, T-DM1)かエンハーツ(trastuzumab-deruxtecan, T-DXd)が投与される事になるかと思います。


ハーセプチン(trastuzumab, トラスツズマブ)とカドサイラ、エンハーツの関係は以下の如くになります。


カドサイラは、トラスツズマブにリンカーでエムタンシンを結合した複合体です。


同様にエンハーツは、トラスツズマブにリンカーでデルクステカンが結合した複合体です。



カドサイラのリンカーは強力な結合能があり、ほぼトラスツズマブから外れる事はありません。


従って、エムタンシンの抗がん剤としての副作用はほとんど出にくく、基本的に脱毛もありません(ただし、急激な血小板減少は注意が必要です)。



これに対してエンハーツのリンカーは結合が緩く、外れやすいため、ほぼ脱毛が生じますし、間質性肺炎が10%以上と高率に起こります。

時には致死的な間質性肺炎が起こる可能性があるため、特にその点は注意が必要です。



たとえ、ハーセプチン+パージェタ+ドセタキセルで完全寛解まで到達しなくても、それに続くカドサイラやエンハーツで完全寛解にまで到達出来れば、それはそれで良いと思います。


しかしながら、ここでとても重大な事実があります。

以前にブログで書きましたが、ハーセプチン+パージェタ+ドセタキセルに耐性を獲得した乳がんは、ハーセプチンに耐性となっている(ハーセプチンが乳がん細胞に結合出来なくなっている)可能性がとても高い、と言う事です。

つまり、その様な乳がん細胞に、既にカドサイラもエンハーツも結合出来ません。

結合出来なければ、抗がん作用を発揮する事はありません。


「ハーセプチン+パージェタ+ドセタキセルをファーストラインに使用する」と言う事は、切除不能・転移・再発乳がんをほとんど根治させられないだけでなく、「その後のセカンドライン、サードラインの治療への反応性を著しく損なう可能性がある」と言う危険性をはらんでいます。