この治療に耐性となった場合、残った乳がんは、以下のいずれかになっています。
すなわち、
①ハーセプチンに耐性を獲得した。
②パージェタに耐性を獲得した。
③タキサン系抗がん剤(ドセタキセル or パクリタキセル)に耐性を獲得した。
④ ①-③の複数に耐性を獲得した。
のいずれかになります。
決して必ずしも、3剤すべてに耐性になる、と言う意味ではありません。
①か②の場合、以下のいずれかの機序により耐性を獲得すると考えられています。
①ハーセプチンに対する耐性を獲得する機序
赤丸の部分が確認されているハーセプチンの耐性機序です。
「p95HER2」とは。
本来HER2タンパクは、細胞外ドメイン、膜貫通部分、細胞内ドメインに分かれています。
このうちハーセプチンは、細胞外ドメインに結合出来ます。
他の部分には結合出来ません。
p95HER2タンパクは、細胞外ドメインが欠損した(無い)タンパクです。
ところが、増殖シグナルの活性は、正常のHER2タンパクと同様に持っています。
つまり、ハーセプチンがくっ付けない(効かない)、増殖活性を普通に持ったHER2タンパクです。
もう一つはMUC4タンパク産生です。
このタンパクはHER2の細胞外ドメインを覆ってしまう事によって(HER2タンパクが言わば帽子をかぶってしまう事によって)、ハーセプチンがくっ付けない(結合出来ない)状態にしてしまいます。
もしかしたら、他にも新たな耐性機序が既に確認されているかも知れません。
いずれにしても、ハーセプチン + パージェタ + タキサンを先行投与してこのどちらかが生じると、ハーセプチン
は乳がん細胞に結合出来なくなってしまいます。
カドサイラはハーセプチンにエムタンシンと言う抗がん剤が結合した薬剤ですし、エンハーツはデルクステカンが結合した薬剤です。
よって、ハーセプチン + パージェタ + タキサンを先行投与して、完全寛解しなかった場合、その後のカドサイラ、エンハーツにも既に耐性を獲得している場合がある、と言う事です。