トム・ホランド=スパイダーマンの4作目。監督は前三作のジョン・ワッツに替わってデスティン・ダニエル・クレットン。彼の作品では、ブリー・ラーソンが問題を抱えるティーンエイジャーのためのグループホームのケアマネージャーを演じた2013年の『ショート・ターム』が素晴らしかった。続く『ガラスの城の約束』 (2017)、『黒い司法 0%からの奇跡』(2019)も水準以上の作品。マーベル作品では『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(2021)を監督している。スパイダーマン・シリーズの前作『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』がジョン・ワッツ三部作だけではなく、これまでのスパイダーマン・シリーズを総括する完成度の高かった作品だけに、「新章」と銘打った今作には期待と共に不安があったが、その不安は監督の選択から杞憂であることが自明だった。
『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』では、世界中に正体を明かされることになったスパイダーマン。そして『ノー・ウェイ・ホーム』では、制御不能に陥ったマルチバースの侵蝕を止めるため、その中心にいる自分の記憶をすべての人々から消し去ることを選んだスパイダーマン。
この作品は「新章」らしく、ゼロからの再構築がテーマとなり、孤独であったスパイダーマンが街の人々から愛される存在であることを確認する物語となっている。そうしたテーマであれば、この作品がサム・ライミ版をイメージさせる作品であることは必然だろう。そして、自分がなぜスパイダーマンのキャラクターが好きかを確認することができた。
自分がMCUのファンではないのは、スーパーヒーローごった煮が好きではないことに加え、ストーリーの規模が大き過ぎることに気付かされた。スパイダーマンが日々戦っているのは、ニューヨークで起こる日常的な犯罪行為が中心であり、「地球・世界のヒーロー」ではなく「ニューヨークのヒーロー」。そして彼にはMJという愛すべき人がいて、ネッドという親友もいる。同級生が恋人、親友という等身大の「街のヒーロー」がスパイダーマンであり、それが魅力であることを確認した。それゆえエンド・クレジットのニューヨークの場景の美しさが際立つ。
またこれまで、スーパーヒーロー物はヴィランが邪悪、凶悪であればあるほど主人公であるスーパーヒーローが際立つと思っていたが、この作品ではその方程式が成り立たないことが新鮮だった。それほどサイオニック能力をもったミュータントのジーン・グレイのキャラクターは魅力的だった(この作品の時代設定は現代なので、XーMENの主流メンバーがX-MENに加入する以前の物語というのは時系列的に矛盾はないのだろうか)。
『スパイダーマン:ホームカミング』で初共演した二人が結婚していたことが今春スクープされただけに、彼らの恋人役は言うまでもなく説得力があった。キスのシーンで「王子のキスで魔法が解ける」のは「ディズニーか!?」と思わせたが、その後の展開がソニーとディズニーの微妙な関係(マーベル映画化作品で、スパイダーマン・シリーズだけはディズニーではなく、ソニーが版権を所有)を揶揄しているようで「やられた!」と思った。
この作品のよさが原点回帰にあるとすれば、MCUとの関連をうかがわせる描写はノイズ。ブラック・ウィドウもパニッシャーも、ハルクですらいらないと感じた(ハルクはパワー・インヒビター装置の説明のためには必要なのかもしれないが)。
アクションは控え目ながら、スパイダーマンがビルの合間をウェブを使って飛び回るシーンはスパイダー目線での迫力があった。これは過去作と比較しても映像技術的に進化している点。
マーベルはディズニーに買われてからディズニープラスのドラマとの連携があり(今作でのパニッシャーのように)、ドラマの予習が必要だとするのは映画しか観ないファンを軽視するものだと感じるが、この作品はその点においては許せるレベル。ソニーにはなるべくディズニーと距離を置いて、スパイダーマン・シリーズを続けてほしいというのがファンの願い。
★★★★★★★ (7/10)
