『シビル・ウォー アメリカ最後の日』 (2024) アレックス・ガーランド監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

日本の公開時期はトランプ第二次政権発足前の大統領選さなかであり(2024年10月)、全米公開から半年遅れだったタイミングはむしろよかったと言える。アレックス・ガーランド監督は、この作品が分断を助長しないようにと、内戦を連邦政府 vs 複数の州連合とし、最後に大統領府を襲撃する勢力を「WF (West Forces)」と名付けたテキサス州とカリフォルニア州の連合組織とした。テキサス州はレッド・ステートの代表格であり、カリフォルニア州はブルー・ステートの代表格であることから、「共和党 vs 民主党」という現実の分断の構図を避けたことが伺える。そしてこの物語の大統領が、憲法を改正して三選され、FBIを解体したり長期間メディアの取材を忌避していると設定することで、独裁権力を批判する内容であり、イギリス人でアンチ・トランプのガーランド監督にはトランプが念頭にあったことは明らかである。

 

公開当時の初見ではそれほどいい印象はもっていなかったが、ガーランド監督の新作『ウォーフェア 戦地最前線』鑑賞前に再鑑賞。すると初見時とは少し違ったテーマが見えてきた。

 

再鑑賞して、映画の内容が「このままでいくとこの作品で描いたような分断、そしてその行きつく先は内戦だぞ」という警鐘であるというのはフックのように感じた。しかしそのフックがあまりに強烈であるため、この作品の重要なテーマが隠れているように感じた。初見時にあまりいい印象を持たなかったのは、その描かれた分断がバカバカしいおとぎ話と思ったわけではなく、逆に「こうなってほしくない。嫌なものを観てしまった。これがあり得る現実だと感覚がマヒしたくない」と感じたのではなかっただろうか。しかしその感覚のマヒは、先日ミネアポリスで起こったICE(移民関税執行局)によるアレックス・プレッティ氏射殺事件を見ても確実に起こっている。かつてであれば、公権力執行が市民を白昼堂々と殺害するような事態であれば政府は転覆したであろう。その点では、この作品を多くの人が評価した理由であろう「将来を予見した作品」は当を得ていたということになる。

 

再鑑賞して自分がそれよりも重要だと思ったテーマは、「ジャーナリズムの正義とは」というものだった。主人公の二人は女性戦場カメラマン。ベテランフォトジャーナリストのリー・スミスを演じるのはキルステン・ダンスト、駆け出しのフォトジャーナリストのジェシー・カレンを演じるのはケイリー・スピーニー。彼らのモデルとなったと言えるのは、作品中でも名前が挙がったモデルから戦場カメラマンに転身したリー・ミラーや、取材中に失明し眼帯がアイコニックな女性ジャーナリストのメリー・コルヴィンだろう。しかし、自分が思い出した名前はケビン・カーターだった。

 

南アフリカのフォトジャーナリストのケビン・カーターは、スーダンで餓死寸前の少女を映した「ハゲワシと少女」でピュリッツァー賞を受賞したが、ニューヨーク・タイムズに掲載された写真には、絶賛と共に「なぜ助けなかったのか」と批判も殺到し、「報道か人命か」というメディアの姿勢を問う論争に発展した。そしてケビン・カーターはピュリッツァー賞受賞2ヶ月後に自らの命を絶った。

 

この作品は、二人のフォトジャーナリストを描いたロードムービーだと理解した。ロードムービーは、旅を主軸として移動中に主人公が経験する出来事を通して、その主人公が内面的に変化・成長することを描いたもの。この作品は、まさにリーとジェシーが、ニューヨークから戦火の中ワシントンDCのホワイトハウスに向かう中で経験した様々なことを描き、彼女たちの変化を描いていた。

 

象徴的だったのは、ガソリンスタンドに寄るシーン。民兵が略奪者をリンチにかけて吊るしているのを見て、ジェシーは何もできないのに対し、リーはカメラを取る。その彼らが、旅の終着点であるホワイトハウスでは立場が逆転したように、リーはジェシーを助けようとして銃弾を浴び、そのリーの姿をジェシーがカメラに収めている。

 

ガーランド監督は、内戦で戦う勢力のどちらが正しいかを問わないように、ジャーナリズムの「報道か人命か」にもどちらが正しいかを問うてはいない。人間性を取り戻したかのように写真が撮れなくなったリーと冷静にシャッターを切るジェシーのどちらがあるべきかを断じていない。その中立性がガーランド監督の意図したものだろう。

 

ただ個人的には、銃弾を浴び倒れたリーをジェシーが立ち去る際に振り返るだけ、ニューヨークから同行している記者ジョエルに至ってはジェシーを大統領室に促してリーに一瞥もくれないという演出には違和感があった。もう少し人間の温かみを感じさせる「揺らぎ」があってもよかったのではないだろうか。

 

ニューヨークからワシントンDCへの道程では、印象的なシーンがいくつもあったが、その中でも緊張感が高まったのは、民間人と思われる大量の死体を遺棄している所属不明の兵士達に捕まってしまうシーン。赤いサングラスは標的を背景から際立たせる狩猟用らしいが、ジェシー・プレモンスは自分で見つけて用意したらしい。実生活の伴侶であるキルステン・ダンストに「これどう思う?」と聞いて、「いいじゃない!」と二人で盛り上がってガーランド監督に進言して採用されたであろう場景が目に浮かぶ。

 

★★★★★ (5/10)

 

『シビルウォー アメリカ最後の日』予告編