『アンダーカレント』 (2023) 今泉力哉監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

今泉力哉と言えば長回しのショットとその中でのリアルな会話の妙。そしてテーマは「恋愛あるある」が自家薬籠中の物といった印象。そしてそのよさはオリジナル脚本で際立っている。彼の作家性はオリジナル脚本でこそではあるが、原作があるものでも職人気質を発揮したうまさを見せてきた。角田光代原作の小説を基にした『愛がなんだ』(2019)しかり、劔樹人原作のコミックエッセイを基にした『あの頃。』 (2021)しかり。恋愛群像劇を得意とする彼にとって前者は同じ路線だが、後者は「オタ活」「推し」の世界に生きる男たちの友情物語と違った作風を見せてくれて新鮮さを感じた作品だった。

 

本作は豊田徹也の同名マンガを原作としている。そしていつもの飄々とした雰囲気の今泉作品とは異なり、かなりシリアスな印象。

 

夫婦であればほかの誰よりも相手のことを理解しているはずだが、実はその相手のことを何一つと言っていいほど知らなかったという設定はホラーでしかない。それはスタンリー・キューブリック監督の『アイズ ワイド シャット』に通じるもの。ただキューブリックのそれは終始震撼とさせる内容だったが、今泉作品はどこかほっとさせる希望があった。

 

それを感じたのは、まずはかなえと悟の再会シーン。あのスカーフにはやられた。あれだけの仕打ちにあっても憎み切れないかなえの悟への愛情を感じさせるものだった。そしてエンディング。同じ事件で深い心の傷を負ったかなえと堀の再生を思わせるものだった。

 

細かな点では、自分が感心したのは衣装が効果的だったこと。リリー・フランキー演じる探偵の怪しさ(本来怪しいリリーの怪しさを増し増し)や井浦新演じる掘の地味な生活感(本来生活感を感じさせない新のイメージを変える)は衣装の与える印象の影響が大きいだろう。

 

今泉らしいかと問われれば「否」だが、真木よう子始め出演陣の気合が感じられる良作。それを引き出した今泉監督の作品の中ではよい出来。

 

★★★★★★ (6/10)

 

『アンダーカレント』予告編