『ディア・ファミリー』 (2024) 月川翔監督 | FLICKS FREAK

FLICKS FREAK

いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

1970年代、小さな町工場を経営する坪井宣政。二女の佳美は生まれつき心臓疾患を持っており、医師から余命10年の宣告を受ける。日本中の医療機関へ行っても治すことができない現実を突きつけられた宣政は、人工心臓を自ら作ろうと立ち上がる。

 

難病もののお涙頂戴作品かと思いきや、これが案外『下町ロケット』的な町工場社長の奮闘記で思いのほかよかった。そしてこれが実話に基づくということには驚かされた。それほどモデルとなった東海メディカルプロダクツ創業者の筒井宣政の不屈の闘志は胸熱だった。8億円をかけて動物実験まで成功させた人工心臓だったが、それ以上の開発には臨床試験ほかに莫大な資金が必要となり、娘の体も「たとえ明日人工心臓ができたとしても手術には耐えられない」ということで、人工心臓の開発を断念。普通ならその時点で諦めるところ、娘の「私の命は大丈夫だから。ほかの人の命を救って」という言葉で再度奮起する。その言葉は実際にあったものらしい。そして人工心臓の技術を応用したIABP(大動脈内バルーンポンピング)バルーンカテーテルの開発に成功し、国内産の日本人に合ったIABPバルーンカテーテルがその後多くの人の命を救うことになった。

 

現時点で、恒久的に使用できる人工心臓が開発されていないということはこの映画を観て知ったのだが、せっかく映画の中で「IABPバルーンカテーテル」というテクニカルタームを連呼しているのだから、もう少し人工心臓やバルーンカテーテルに関わる医学的な基礎知識を知識がない一般観客に解説するような動画なり説明なりが挿入されていてもよかったのではないだろうか。心臓外科に関する知識を得るには絶好の機会だけに。

 

実話が元になっているとはいえ脚色はされているのだろう。光石研演じる東京都市医科大教授が実に嫌な奴なのだが、実在の人物ではないと想像する。実在であれば非難轟轟であることは間違いない。松村北斗演じる富岡医師が、医局で認可していないIABPバルーンカテーテルを独断で使用したことも「あり得るのかな?」と気になってしまった。

 

また満島真之介演じる医師が、IABPバルーンカテーテルを東京都市医科大で使えない以上、自分たちは使えないと最初断った医療業界ならではの事情が理解できなかった。大したことではないのだが。

 

邦画はテーマ曲を誰が歌っているかでセンスが伺えるが、それが今話題のMrs. Green Appleであることは興味を持つきっかけになった。泣くことはなかったが、諦めないことが大切だとポジティブな気持ちになれる作品だった。

 

★★★★★★ (6/10)

 

『ディア・ファミリー』 予告編