『小さき麦の花』(2022) リー・ルイジュン監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

舞台は2011年、中国北西部に位置する農村。貧しい農民のヨウティエは四男で、三男の家で暮らしている。三男にとっては、中年になっても独身の弟に家にいられては体裁が悪い。そこで、体に障害がありやはり家族から厄介者扱いされているクイインとの見合いを持ちかける。ヨウティエとクイインはこうして出会い、夫婦となる。

 

低予算ながら中国で公開されると若者を中心にヒットし、アクションや特撮が売りの愛国ヒーローものやコメディがヒットの定石になっていた中国映画市場に起きた「奇跡」と呼ばれた作品。「これが現代?」というほど貧しい生活の二人が主人公だが、当局からの覚えはよくなかったらしく、劇場公開及び配信が中国本国では突然打ち切りとなったという事情がある作品。そして中国国内では共産党政府が宣言した「貧困ゼロ」を信じ、映画で描かれる貧困はフェイクだと思っている人がいるのもまた中国の現実らしい。

 

お互い望み合って結ばれたわけではない二人が、徐々に愛を育む姿は清々しかった。映像は美しく、自然な光が印象的。その光が印象的で好きだったシーンは、クイインが外出したヨウティエの帰りを寒空の外で待つランプの明かりとヒヨコを孵化させる段ボール箱に開けた穴から漏れる明かり。

 

純粋な愛は物質主義(マテリアリズム)とは相容れないとするならば、ある程度は物質的な充足を求めないではいられない現代社会に生きる者としては少々物悲しい気もするが、やはり何が真実の愛かを考えさせる力のある作品だった。それが中国の若者に訴求したことは想像に難くない。普遍的なテーマを描いた作品とも言える。

 

エンディングの展開はあまりに悲しく、彼らのささやかな幸せを観ていたかった観客を暗澹とした気持ちにさせる。鑑賞後の余韻が残る良作。観て損はない。

 

★★★★★★ (6/10)

 

『小さき麦の花』予告編