『EO イーオー』 (2022) イエジー・スコリモフスキ監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

愁いを帯びたまなざしのロバ・EOは、心優しい女性カサンドラに愛され、共にサーカスで暮らしていた。しかしサーカス団を離れることを余儀なくされ、紆余曲折の放浪の旅はポーランドからイタリアへと至る。

 

ロバを主人公としたロード・ムービー。物言わぬロバの視点を通して人間の愚かさや醜さを淡々と描いた作品。それ以上でもそれ以下でもないのだが、この手の作品でありがちなのが、動物を擬人化した表現。ディズニー映画なら、動物が人間の言葉を話して彼らが感じるところをダイレクトに表現するところ。しかし、この作品では全くそれがない。つまりEOの感情は全く伝わってこない。それもそのはず、ロバの感情など人間には分かりようがないから。唯一EOの感情らしい表現があるとすれば、EOがカサンドラを思い出すかのような、EOがカサンドラと過ごした時間の回想シーンが幾度か挿入されていること。それがEOの感情であると想像するのは勝手だが、それ以外の描写ではEOの感情は全く伺い知れない。それがこの作品のいいところでもあり、限界だと感じた。

 

ロバの目から客観的に見た人間の姿の描写には、それら人間の深い感情の描き方が少々物足りなかった。人間ドラマとしては紋切型であり、動物が無垢であるなら、人間はおしなべて愚かだと言わんばかり。まあそうなのかもしれないが。

 

エンディングは牛と一緒に食肉として処分されたと解釈したが(はっきりとは描かれていない)、それですら牛や豚を日常的に食べていることから、これで悲しむのは矛盾だなと思って観てしまった。その矛盾を突き付けることが監督の狙いなのだろう。犬や猫のような愛玩動物とは違う動物を主人公にしたことは元ネタ(『バルタザールどこへ行く』)があるにしろ、興味深い設定だった。

 

テーマの掘り下げ方は少々不満が残るが、映画の表現方法としては、ヴィジュアルの斬新さや音楽のセンスのよさは高く評価できるもの。アート・ムービーだと思って鑑賞した方がいいかもしれない。

 

2022年(第95回)アカデミー国際長編映画賞にポーランド代表としてノミネート。受賞作のドイツ代表『西部戦線異状なし』よりはいい作品だと思うが、自分の好みはベルギー代表『CLOSE クローズ』でありアイルランド代表『コット、はじまりの夏』だった。

 

★★★★★★ (6/10)

 

『EO イーオー』予告編