『コヴェナント/約束の救出』 (2023) ガイ・リッチー監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

ガイ・リッチー監督最新作はアフガニスタン紛争を舞台にした作品。これまでエンターテイメント系の作品をつくってきた監督だけに、政治色の拭えない作品を作ったことは意外だった。

 

アフガニスタン紛争は、9.11事件をきっかけにテロの首謀者であるアルカイダの活動拠点の破壊とアルカイダの庇護者であるとされたタリバン政権の転覆を意図してアメリカ+同盟国軍がアフガニスタンに侵攻して始まった。タリバン政権の崩壊と傀儡政権樹立により、一旦はアメリカの勝利かと思われたアフガニスタン紛争は、その後タリバン勢力がテロやゲリラ戦といった非対称戦争を繰り広げ、2021年バイデン大統領はアフガニスタン撤退を決定。その後タリバンはアフガニスタンに政権を取り戻す結果となり、ベトナム戦争を5か月越えるアメリカ史上にとって最長の戦争経験となった。

 

今なお続くイスラエルのガザ侵攻の状況を見ても、自由主義国 vs イスラム圏の戦いのどちらに正義があるかは非常に複雑な歴史的背景があり、自由主義国に住む我々に届く情報はバイアスがあることが容易に想像できる。映画もしかり。この作品の評価は、この作品がアフガニスタン紛争でのタリバンを極悪人とするプロパガンダであるとするかで大きく分かれるだろう。

 

アフガニスタン紛争でアメリカに協力したとされるアフガニスタン人は約18,000人。彼らが「(タリバンからすると)祖国を裏切る」ことの目的は、アメリカへの特別移民ビザ(SIV)取得があっただろう。しかし実態は、SIV取得が認められたのは約半数であり、残りはタリバンから報復の標的となっている(認められない理由は「協力が不十分」だとか「スパイ容疑がある」とからしい)。

 

この作品は、アメリカ特殊部隊の曹長ジョン・キンリ―とアフガニスタン人通訳アーメッドの二人の物語。前半は彼らの脱出劇、後半は残されたアーメッドのジョン・キンリ―による救出劇となっている。

 

アフガニスタン紛争を舞台にした脱出劇(+救出劇)には、実話を基にした『ローン・サバイバー』(2013)という秀作がある。あの絶体絶命感には及ばないものの、この作品でも「脱出できるのか?救出できるのか?」のハラハラドキドキ感というアクション映画としての要素は十分に楽しめるもの。それに、宗教、人種を越えた「No One Left Behind.」の精神に基づいて正しいことを行う倫理観、正義感に裏打ちされた二人の絆という感動要素が加えられている。

 

後半の救出劇では、アメリカ軍の全面的協力を得られないジョン・キンリ―が民間警備会社と契約してアーメッドを救出しようとするのだが、その民間警備会社の装備がハンパないハイテク重装備で興味深かった。

 

エンディングロールで、アメリカ軍に協力した通訳のうちアメリカ移住がかなわなかった者300人がアメリカ撤退後にタリバンに殺害され、今なお数千人が身を潜めているというメッセージが流れる。そうした紛争の犠牲者を生んだ責任はアメリカにもあるという批判精神がこの作品にはあると感じ好ましく思えた。

 

アーメッドがあまりにも善人で超人的な活躍(3週間ほとんど飲まず食わずでどうしてけが人を120Kmも手押し車で山道を移動できるのか)が少々出来過ぎだが、単なるアクション映画ではなく、この紛争の背景や様々な影響を考えさせるきっかけになる作品ではあった。

『ロック・ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(1998)、『スナッチ』(2000)のデビューからの2作があまりにも素晴らしいため、その2作と比較すると残念な作品が多かったガイ・リッチー監督の作品の中では良作の部類。

 

★★★★★★ (6/10)

 

『コヴェナント/約束の救出』予告編