『愛なのに』 (2022) 城定秀夫監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

城定秀夫と今泉力哉によるコラボレーション企画「L/R15」。城定と今泉が互いに脚本を提供し、R15+指定のラブストーリーとなる劇場映画を監督する同企画として製作されたもので、本作は今泉脚本、城定監督作品。城定脚本、今泉監督作品は『猫は逃げた」。二作にストーリーのつながりはないが、共通点は猫(オセロ)と熊(広重役の毎熊克哉)。その「二役」は『猫は逃げた』では主役級だが、本作では脇に控えている。

 

どうしても二作を比較してしまうが、『猫は逃げた』は今泉作品としてはイマひとつだったのに対し、この作品は断然面白かった。

 

古本屋の店主・多田。彼が営む古本屋に足しげく通う女子高生の岬から突然に求婚され、それ以降一途な愛の告白を受け続ける。しかし多田は、かつてバイト仲間だった片想いの相手一花のことが忘れられずにいた。その一花には婚約者がいたが、その亮介は日々結婚式の準備に追われている一花の目を盗んで、ウェディングプランナーの美樹と密かに男女の関係になっていた。

 

脚本が絶妙で、まさに今泉ワールド。観始めて「あれ、これって今泉監督作品だったっけ」と思ったほど。その本のよさに、城定監督演出のセンスが光った感。ピンク映画出身だけにその手のシーンの見せ方はお手のものだし、オープニングの二人の疾走からの水を手渡す緩急のつけ方などぱしっと決まった感があるのは城定監督ならではだったか。

 

純粋な多田と女子高生の岬のプラトニックな恋愛から、不倫関係、そしてその見せしめのリベンジ的なセックスからの「初めて気持ちよかったセックス経験」と様々な男女の関係がリアルに描かれ、その度ごとに「分かるわー」「そりゃないだろ」と突っ込みを入れたくなる。映画は基本、劇場で観るのがベストだが、これはできればシーンごとに意見を交わせる環境で観たくなるような作品だった。

 

不倫は笑いのネタにはしにくいのだが、そうさせたのが「セックス下手」の設定。亮介演じた中島歩には悪いが、セックス下手の役がハマっていた。

 

終盤近くまで面白おかしく観ていたのだが、それが一転するのが岬の親が多田の家に怒鳴り込んできてから。多田が親にも警察にも岬をかばう態度だったのはよかったが、それでも「こうなっちゃうのも仕方ないか。でも残念だな」と思って観ていた。それを吹き飛ばすのが、岬が最後に多田に言った言葉。「愛なのに」は多田の気持ちだったのだろうが、それを全肯定する岬の言葉は、若者ゆえの無敵感から来るものとはいえ愛の真実を突いているように感じた。

 

今泉力哉と城定秀夫という才能が相まみえていいシナジー効果を発揮した良作。

 

★★★★★★ (6/10)

 

『愛なのに』予告編