『ジョーカー』 ★★★★★★★★ (8/10)
2009年以降、アカデミー賞作品賞にノミネートされる作品数はそれまでの5作に限定されなくなったが、ノミネート作が増えることで、毎年「なぜ、この作品がノミネートされるのか」と疑問に思わないでもない作品が入ってきがち。ただ、2019年のアカデミー賞作品賞候補に関しては、駄作と言えるものがなかった粒ぞろいの年と言える。その中では、個人的には『ジョーカー』が断トツ。
アメコミのヒールを主人公にしたキャッチーな設定ながら、扱っているテーマは差別や社会から疎外されることの孤独感といった深遠なもの。そしてコメディ出身のトッド・フィリップス監督らしいペーソスは、アーサーがチャップリンの『モダン・タイムス』を観ているシーンに象徴されている。チャップリンの名言にある「人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ」が、この作品の精神性と言えるだろう。
受賞作の『パラサイト 半地下の家族』も優秀な作品だが、個人的に「1955年の『マーティ』以来、64年ぶりにアカデミー賞作品賞とカンヌ映画祭パルム・ドールのW受賞」とまでは評価できないのは、階級差別の怨嗟が、衝動的とは言え、「半地下を脱出するチケット」をむざむざ破り捨ててまでの殺人の動機となり得るのだろうかという違和感。それを乗り越えることが、ポン・ジュノ監督言うところの「この作品は、韓国人以外には100%理解することは難しいだろう」という意味だろう。そのディープな理解がなければ、人の命を奪うという行為が安っぽく描かれることになる。この作品が、上質な「火サス」でないことは言うまでもないが、自分には韓国社会の階級差別のリアルな肌感覚がなく、「100%理解することはできない韓国人以外」の一人だったと言わざるを得ない。