『ブラック・クランズマン』 (2018) スパイク・リー監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

レンタルビデオがポピュラーではなかった大学時代(正確には存在していたが、自分の生活圏内では渋谷と下北沢に1軒ずつ。1泊1000円。しかもVHS。DVDレンタルが始まるのは2000年頃からなので、その15年前後前の話)、映画は劇場で観るものだった。その大学時代に観た映画で衝撃的だった作品を挙げろと言われれば、ジム・ジャームッシュの『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984年制作、日本公開1986年)とスパイク・リーの『シーズ・ガッタ・ハヴ・イット』(1985年制作、日本公開1987年)を挙げるだろう。

 

そのスパイク・リーも、追っかけたのは振り返ってみると1999年の『サマー・オブ・サム』まで。今世紀に入ってから観た作品といえば『オールド・ボーイ』(2013年)だけだった。本作は、それ以来の日本における劇場公開の作品。

 

1979年、コロラド州の警察署で初の黒人刑事として採用されたロン・ストールワース。署内の白人刑事たちから冷たくあしらわれながらも捜査に燃えるロンは、新聞広告に掲載されていたKKKのメンバー募集に勢いで電話をかけ、黒人差別発言を繰り返して入団の面接にまで漕ぎ着けてしまう。KKKと対面できないロンは、同僚の白人刑事フリップに協力してもらうことに。電話はロン、実際に会うのはフリップが担当して2人で1人の人物を演じながら、KKKの潜入捜査を進めていく。

 

スパイク・リーが自身、アカデミー賞名誉賞を受賞した2016年2月の授賞式を「白過ぎるアカデミー賞」と批判して出席を拒否して以来、ハリウッドも大きく変わってきた。そして、2018年には黒人差別を扱った秀作がいくつか生まれた。『ムーンライト』でアカデミー賞作品賞を受賞したバリー・ジェンキンス監督の『ビール・ストリートの恋人たち』、作品賞を受賞したピーター・ファレリー監督の『グリーンブック』、そして本作である。

 

結論から言えば、エンターテインメント性は『グリーンブック』>『ブラック・クランズマン』>『ビール・ストリートの恋人たち』だが、ポリティカリー・コレクトネスから言えば、『ブラック・クランズマン』>>>『ビール・ストリートの恋人たち』>『グリーンブック』。黒人差別をテーマとしながら一昔前の白人優位主義的観点から描かれた『グリーンブック』よりも、そして白人全体を憎悪のターゲットとした『ビール・ストリートの恋人たち』よりも、これまで一貫してこの問題を扱ってきたスパイク・リーの切り口は断然冴えていた。彼のうまさは、差別する側として白人全体をターゲットとせず、KKK、ネオナチ、トランプ政権といった極右をターゲットに狭めたこと。彼らを攻撃する矛先の鋭さを保ちながら、白人でも彼らを嫌う者が少なからずいることを計算に入れている。

 

本作では、冒頭『風と共に去りぬ』(1939年)のシーンが使われ、途中ではD・Wグリフィスの『国民の創生』(1915年)のシーンが使われている。共に名作とされながら、黒人差別主義的作品としてスパイク・リーがやり玉に挙げている作品。特に後者は(自分は未鑑賞だが、D・Wグリフィスの代表作『イントレランス』(1916年)がたまらなくつまらなかったので観なくてもいいかなと思っている)スパイク・リーがニューヨーク大学在学中に「最も差別的な映画のひとつだ」として、それを批判する『The Answer』という作品を作り、それが大学側の神経を逆なで、大学を退学させられかけている。KKKの黒人虐待をモチーフの一つとしながらも『国民の創生』は、クローズアップやクロスカッティングを効果的に使用し、映画表現を基礎づけた作品として映画史的に高く評価されている。1998年にアメリカン・フィルム・インスティチュートが選んだアメリカ映画ベスト100の中に選出されているから驚きである(44位、但しその10年後に「10周年エディション」として再選出した際には選外となっている)。

 

予告編ではコメディタッチの作品と思わせるが、作品を観てみると、かなりヘビーな政治色の強い作品。その主張は「アンチ・トランプ政権」といってもいい。その作品が、カンヌ国際映画祭でスタンディングオベーションを得、アカデミー賞でも脚色賞を受賞する(自分は、大方の予想のアルフォンソ・キュアロン監督の監督賞受賞ではなく、作品賞=『ROMA/ローマ』、監督賞=スパイク・リーを予想していた)という、映画業界を取り巻く政治情勢は理解しておくべきだろう。そうした作品が、日本で理解され、受けるかということに関しては大きな疑問があるが、政治に勘どころのある人は観ても損はないと思われる。

 

スパイク・リーが今作りたい作品であることは伝わってきた。個人的にスパイク・リーのベスト3である『クロッカーズ』(1995年)、『シーズ・ガッタ・ハヴ・イット』(1986年)、『サマー・オブ・サム』(1999年)を越えるものではないが。

 

★★★★★★ (6/10)

 

『ブラック・クランズマン』予告編