『遥かなる山の呼び声』 (1980) 山田洋次監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

1970年の『家族』、1972年の『故郷』と合わせて、倍賞千恵子演じる民子を主軸とする家族劇のいわゆる『民子三部作』の最終話。三部作としてはストーリーはつながっていないものの、この作品は『故郷』の後日譚を思わせるもの。舞台は『故郷』の終着である北海道の中標津だし、民子の夫・精一は故郷を捨てて北海道での酪農に新たな希望を見出すという設定だった。この作品では、民子は夫と死別したことになっており、彼の名前は精一ならぬ精二。

 

北海道中標津にある酪農地。風見民子は一人息子の武志を育てながら、亡き夫の残した牧場で牛飼いをしている。ある春の夜、激しい雨の降る中に一人の男が道に迷ったと言って訪れ、一夜の宿を求めた。その晩に牛のお産があり、男はそれを手伝うと翌朝には去っていった。夏のある日、その男が再び働かせて欲しいと訪ねてくる。男手がなかった民子は警戒心を解かなかったが、結局彼を雇うことにする。

 

山田洋次監督の最高傑作は『たそがれ清兵衛』で間違いないが、この作品も山田洋次作品の中では一・二を争うほど人気のある作品。それはやはり「健さん節」によるところが大きいだろう。

 

民子三部作の前二作と比べると実にそつなくまとまっていた。高倉健・倍賞千恵子という山田洋次作品の看板俳優を擁し、脇役に『幸せの黄色いハンカチ』の武田鉄矢や、『男はつらいよ』シリーズの渥美清を配したこの作品は、ゆるやかにつながりを持たせた三部作の最終章を飾るにふさわしい完成度だった。

 

しかし途中まで不満だったのは、高倉健演じる田島耕作が人を殺して逃げ回っているという設定。もう少しおとなしい、心を寄せやすい設定にできなかったものだろうか。あと、武志に田島耕作が警官に連れて行かれるシーンを見せるのは余りに残酷ではないだろうか。それが『シェーン』の「シェーン!カムバック!!」というシーンのオマージュだとしても。

 

『シェーン』はそこで終わるのだが、この作品にはそれに続くラストシーンがあり、そのラストシーンはそれまでの不満を吹き飛ばす鮮やかな逆転だった。邦画史上に残る名ラストシーンと言ってもいい。

 

「男は泣いてはいけない」と言い、父親が死んでも涙を見せなかった男に男泣きをさせ、その手に黄色いハンカチを握らせる。つまり、この作品の終わりは『幸せの黄色いハンカチ』のエンディングにつながってもいいという、まさに山田洋次監督の真骨頂が伺えた。このラストシーンでのハナ肇もとてもよかった。

 

完成度も高く、そつがないのだが、田島耕作と風見民子の恋愛はきれい過ぎないだろうか。あるいは、高倉健が終始かっこよ過ぎると言ってもいい。個人的な趣味なのだが、三部作の中では『故郷』の方が好みであり、山田洋次監督作品としては、『たそがれ清兵衛』『幸せの黄色いハンカチ』や『息子』を上に取りたい。しかし、ラストシーンだけなら山田洋次監督のベストかもしれない。

 

★★★★★★ (6/10)

 

『遥かなる山の呼び声』予告編