『黒い雨』 (1989) 今村昌平監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

井伏鱒二の原作を読んだのは(多分)高校時代。さすがに内容の細かなところは覚えていなかったが、原爆投下当日からしばらくの描写の印象が強かった。しかし、映画化作品を観て、この作品の重点はいかに原爆が非人道的な兵器であるかは「従」であり、被爆者差別が「主」であることを理解した。

 

そうであればこそ、この作品の今日的な価値は高いと言える。東日本大震災に伴う原子力発電事故を憂えるがあまり、原発反対の気持ちは分からないでもないが、だからといって殊更にいまだに福島では放射線被爆のリスクが高いという言説をつい数日前にフェイスブックで拡散されているのを見たばかりだからである。その言説こそが、三四半世紀前に広島の被爆者を差別した言説と全く相似であることを理解していないと思われる。

 

ほかの作品では、人間のたくましさを強く感じる作品が多い今村昌平監督。1963年の『にっぽん昆虫記』しかり、1983年の『楢山節考』しかり。しかしこの作品では、人類の歴史上最悪最凶の兵器の圧倒的暴力の前に、人はなすすべを知らない無力な存在であると描かれているように感じる。たくましく生きようとしても、それは無残にも踏みにじられ、そして立ち上がることすらできないのが現実である。

 

『黒い雨』の元々のタイトルは『姪の結婚』というものだったという。この作品のストーリーが、まさに姪の結婚にまつわるものだからなのだが、その姪を演じているのが田中好子。それなりの数の映画作品に出演している彼女だが、その演技を意識したことはなかった。しかし、この作品での彼女の演技はすばらしい。ただ彼女の髪の毛が抜けるシーンで見せる力弱い笑顔(と言っていいのだろうか)は、そういうものなのかと考えさせられた。いつかは来ると思っていた「ピカ」がとうとう自分にもという瞬間の人間の見せる表情として、あれはありなのだろうか。

 

少々抑揚に欠ける展開ではあるが、単調とは言い切れない重さがある。モノクロの映像の効果でもある。

 

こうして考えると、原爆を扱った作品はそれほど多くないことに気付く。ただ単に被害者感情をむき出しにした作品ではとてもない、原爆を扱った作品としては、非常に良質の作品であると言える。

 

★★★★★★ (6/10)

 

『黒い雨』予告編