これまで重苦しい印象で見逃していた作品。確かに死を扱う題材だけに、シリアスなシーンもあるが、それは映画に引き込まれた後であり、前半はむしろコミカルに進展していく。この辺りの展開の妙は、エンターテインメント系の作品(『病院へ行こう』『陰陽師』ほか)を多く撮ってきた滝田洋二郎監督ならではであろう。

 

納棺師という職業があることをこの作品を観て初めて知った。葬儀屋がやるものだと思っていたが、葬儀屋の少なからずが専門業者に委託しているらしい(病院での臨終が多くなっている今日では、病院の看護師がやるケースも多いらしいが)。作品の中でも、父の遺体をぞんざいに扱われているのを見て、本木雅弘演じる納棺師の小林大悟が自ら納棺を施すシーンがあり、これを専門とする職業があるのも当然だと観ていて納得させられる。

 

小林大悟は、東京の管弦楽団で働いていた元チェロ奏者。しかし、所属楽団が興行不振で解散してしまい、自分の技術に限界を感じる大悟は妻を伴って山形への帰省を決意する。そして求職中、求人広告の内容を誤解して応募したことをきっかけに納棺師として働くことになる。はじめは納棺師という仕事に戸惑いを感じていた彼だったが、次第に誇りを持って仕事をするようになる。

 

想像するだけでも精神的にハードな仕事であり、離職率も実際に8割と高いらしい。この作品に描かれている、納棺師という仕事の一つのハードルが死を扱う職業に対する忌避や偏見。幼なじみの親友は、オーケストラ奏者としての大悟は誇りに思うが、彼が納棺師であることを知ると「もっとまともな職につけ」と言う。そして一番きついのが、オーケストラ奏者であることを辞めることを決意した時も、山形に帰省することを決めた時も、文句ひとつ言わずに付き添ってきた妻が辞めてくれと言った時だろう。体に触れようとする彼の手を振りほどいて「汚らわしい!」という言葉は、あまりに残酷であり、職業に貴賤はないというのはきれいごとなのだと思い知らされる。大悟は妻が実家に帰り、仕事を辞めたら迎えにきてと言われても、妻を説得するようでもなく納棺師を続けるという展開なのだが、実際に自分だったらどうするだろうと考えた。

 

人一人の死にはそれぞれのドラマがあるのだが、その死に際してただ単に傍観するだけではなく、寄り添いながらもプロフェッショナルに仕事をこなす主人公。その所作には様式美すら備わってくる。そして彼が、楽団から離れてからはしばらく手にしていなかったチェロの演奏を再開することで心の安定を取り戻すというストーリーもよかった。

 

本来原作となるはずだった青木新門著『納棺夫日記』を読んで感銘を受け、映画化を掛け合ったという本木雅弘の演技がフレッシュ感があってよかった(脚本を読んだ青木新門は、物語の結末の相違や本人の宗教観が反映されていないことから映画化を拒否)。

 

観るべき作品の一つであろう。

 

★★★★★★★★ (8/10)

 

『おくりびと』予告編