『ベイビー・ドライバー』 (2017) エドガー・ライト監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

ブラボー!『ショーン・オブ・ザ・デッド』 『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』 『スコット・ピルグリム VS 邪悪な元カレ軍団』と、エドガー・ライトらしいオフビートなコメディの良作の後(特に『ショーン~』は傑作)、前作『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』はそのひどい邦題並みにがっかりする作品だった。しかしこの作品は、コメディ路線一辺倒だったエドガー・ライトがアクション・クライム・ムービーに挑戦したもので、その試みは大成功を収めている。

 

映画は、これまでの数々の作品の中でも最高にクールなカー・チェイスのシーンで幕を開ける。やはりCGなしはいい。冒頭の銀行強盗のシーンは、エドガー・ライトが2003年にMint Royaleというマンチェスターのエレクトロ・ポップ・グループの『Blue Song』という曲のPVを監督した時のアイデア。彼が長年、構想を温めていたことが伺える。

 

Mint Royale 『Blue Song』

 

それに続くオープニング・クレジットは、ボブ&アールの『ハーレム・シャッフル』(ローリング・ストーンズのカバー・バージョンの方がポピュラーかも。アルバム『ダーティ・ワーク』収録)に合わせて道を歩くシーン。このシーンでは、『サタデー・ナイト・フィーバー』のオープニングで、トニーがペンキ缶を片手にウィンドーのシャツを取り置いたりピザを食べながら歩くシーンを思い出した。

 

というように「つかみはオッケー」の後、ノンストップで音楽+アクションが続く。主人公のベイビーは子供の頃に、両親を車の事故で亡くしているが、同乗していたその事故の後遺症で耳鳴りが止まず、その耳鳴りを消すために常に音楽を聴いているという設定が生きている。彼の聴いている音楽が常に映画のバックに流れている。そして彼がiPod(盗んだ車の持ち主のものでいくつも持っている。サングラスも)のイヤホンを外しているシーンでは、かすかに耳鳴りの音が背後に響いている。音楽は古めのソウルやロックで、かなり渋めの選曲。それがかなりセンスよく、シーンにマッチしている。最近では『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のように、あるいは以前ではタランティーノやソフィア・コッポラの一連の作品のように、監督の趣味を存分に反映した選曲のサウンドトラックが重要なポジションを占めている作品と言える。

 

アクション・クライム物だが、メインテーマは若い二人が逃避行を夢見る物語。二人が度々口にする"It's just us, music and the road."のセリフ通り、ドリーミングな物語である。

 

秀逸なのはラストシーン。郵便局強盗の下見のシーンで、局員の女性がベイビーに語る"Everybody wants happiness, nobody wants pain, but you can't have a rainbow without a little rain."が伏線となっていたことが分かる。二人が全く年齢を経ていないことから、それが想像なのか実際に起こったことなのかは観客の想像に委ねられているのだろう。

 

主演の二人は『きっと、星のせいじゃない。』のアンセル・エルゴートと 『シンデレラ』のリリー・ジェイムズ。アンセル・エルゴートは『きっと、星のせいじゃない。』の時はまあまあといった感じだったが、この作品には彼の魅力が溢れている。怒った顔がキュート。ヒロイン役は当初エマ・ストーンが予定されていたが、彼女が『ラ・ラ・ランド』に出演するため、リリー・ジェイムズに。数度会っただけなのに犯罪者と逃避行という、少々非現実的な設定なのだが、彼女のふわふわした感じがその非現実味をやわらげていた。少々ドスの効いたエマ・ストーンよりは合っていたと思う。この二人もよかったが、それと同じくよかったのが、銀行強盗実行犯のバディ役のジョン・ハム。テレビを中心に活躍している役者であり、映画では『ミリオン・ダラー・アーム』くらいしか印象がないが、恋人を大切にする悪人というクールな役をばっちり決めている。彼とベイビーのクライマックスの「車での決闘シーン」(このシーンでは、クイーンの『ブライトン・ロック』がBGM)は見もの。

 

聴力障害のゲッタウェイドライバーが主人公の作品らしい、クールなカー・チェイス・シーンと、音楽が満載のエンターテイメント。今年のベストの数本に入ることは間違いない。観るべし。

 

★★★★★★★★ (8/10)

 

『ベイビー・ドライバー』予告編