『American Honey (原題)』 (2016) アンドレア・アーノルド監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

清新な感覚のロードムービー。主人公はスター(Star)が本名という18歳の少女(この作品が映画初出演のサッシャ・レーン)。母親は男をつくって家を出て、幼い弟と妹に食べさせるため、スーパーの廃棄食料を漁る毎日。父親からは性的虐待を受け、彼女の生活はどん底だった。そんなある日、たまたま出会ったジェイク(シャイア・ラブーフ)から、彼らのグループに入って仕事をしないかと誘われる。それは雑誌の定期購読会員を勧誘する訪問販売員の仕事だった。彼らはバンに乗って街から街を移動し、享楽的に生きていた。息の詰まる毎日から飛び出すように、スターはそのグループに入って、彼らと一緒に街から街へと旅をし、ジェイクに惹かれていく。

 

家出少年少女に働かせてリベートをピンハネするシステムに組み込まれ、毎日のように1台のバンで移動、夜はモーテルで雑魚寝、ドラッグ+アルコールが常にある享楽的な環境というのは、間違いなく破滅的に映るのだが、彼らがそのシステムから抜け出したところで元の環境は更に過酷で劣悪なのだろうということが背景にある。社会的な問題(貧困、育児ネグレクトetc.)と必要悪の存在を目の当たりにする。

 

そして、スターとジェイクのお互いを求め合いながら、周りに流されていく恋愛の形はあまりに痛々しい。例えば、オイルパッチの街での出来事。そこには一獲千金を狙う男たちがたむろしているが、彼らに半ば色仕掛けで雑誌購読を勧誘するがうまくいかない。そしてその中の一人に「雑誌を購読する$50で一晩付き合えよ」と言われると「$1000ならいいわ」と切り返すスター。そしてその男はそれを受け入れる。その晩、帰ってきたスターにジェイクはブチ切れる。

 

結末らしい結末はなく、明るい未来が描かれるわけでもない。しかし映画の中で、「夢は何?」と聞かれたスターが「今までそんなこと聞かれたことはなかった」と答え、少しずつ前向きに生きることができることが伺えた。

 

スターが、プールに落ちた蜂や窓から逃げられない蜂を捕まえて逃がすシーンがあり、それはどん底の生活の中でも優しさを失わない彼女を描くと同時に、閉塞的な状況から解放されることもあるという可能性を暗示しているようだった。

 

2時間43分という長尺の中で、何かが起こると言ってもそれがどうなっていくのか、結局分からずじまいという、いかにもロードムービーらしい展開。そして、ふっと放り出されたようなラストシーンも印象的。かなり好き嫌いは分かれるだろうが、雰囲気に浸れればはまるはず。

 

★★★★★ (5/10)

 

『American Honey』予告編