『クリード チャンプを継ぐ男』 (2015) ライアン・クーグラー監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~



「ロッキーの伝説が40年ぶりによみがえる」と言われても、それほど食指は動かされなかった。ロッキー・シリーズは1作目以降、作品を重ねるごとに輝きを失っていき、酷評された5作目の後、『ロッキー・ザ・ファイナル』で若干持ち直した時点で完結したはずだったからである。しかし、この作品のあまりの評価の高さに半信半疑で観ることにした。

結論から言えば、これはロッキー・シリーズの続編として観るよりも、独立したスピン・オフとして観るべきである。そして、今観るならば『ロッキー』よりも優れた作品と言えるほど、自分にはアップサイドのサプライズだった。

『ロッキー』の作品自体、そして脚本を書き、自ら主演したシルヴェスター・スタローンの成功はアメリカン・ドリームそのものだった。その内容は、今観れば単純なサクセス・ストーリーだが、そのシンプルさゆえに、全世界の人々に熱狂的に受け入れられたのだと思う。

この作品は、それほどシンプルではない。まず主人公のアドニス・ジョンソン(マイケル・B・ジョーダン)は、『ロッキー』『ロッキー2』でロッキーの宿敵だったアポロ・クリードの私生児である。彼が生まれる前にアポロは死に、また母親も出産時に死に、幼少時を施設で過ごした彼は、アポロの正妻に引き取られるところから話は始まる。

ロッキーの逆境は貧困だった。ところが、貧困は現代ではストーリー性がないということなのだろう。アドニスは、アポロの妻に引き取られ、彼の遺産ゆえに経済的には恵まれているが、彼の逆境は、父の名前を語れないという出自の卑屈さである。そして、愛人が生んだ子供を引き取って育てた母親のドラマも陰には隠れている。

アドニスの恋人になるビアンカ(テッサ・トンプソン)は進行性難聴でいずれは耳が聞こえなくなるミュージシャン。アドニスとビアンカのお互いを支え合う恋愛もよく描けている。

ロッキーは癌に侵されるが、最初化学療法を拒絶する。そのロッキーを病気と闘うように奮い立たせるのがアドニスであり、ロッキーはリングで戦うことはないものの、やはりこの映画でもファイターであり、戦う相手は病苦であり心の弱さである。

そのように、ボクシングのリング上の戦いよりも、ロッキーやアドニス、そして彼らの周りの人間が、いかに人生に立ち向かっていくかという人間の生き様を描いたディープな作品になっている。

勿論、お約束のボクシングの試合シーンはクライマックスにあるが(相手役の“プリティ”コンランを演ずるのは、元WBC世界ライトヘビー級1位で29戦26勝のプロ・ボクサー、トニー・ベリュー)、マンガのように出来過ぎたボクシング・シーンは刺身のつまでしかないと言えるほど、それ以外の人間ドラマがよく出来ていると感じさせた。

『ロッキー』との差は、『ロッキー』では泣けないが、この映画では泣ける(実際、近くの席のおばさん?は大泣きしていた)。

アポロ・クリードはオフィシャルにはロッキーと2度対戦しているが、『ロッキー3』のエンディングで、観客のいない中で彼ら二人だけの拳を交わすシーンがある。この作品では、その3度目の対戦の結果をロッキーが語るといったファン・サービスもあるが、ロッキー・シリーズを観ていなくても十分に楽しめる内容。

一つ付け加えるならば「お前の強さは目を見れば分かる」とロッキーがアドニスに言うシーンの字幕翻訳で、「お前は「トラの目」を持っている」というのは頂けなかった。

シルヴェスター・スタローンってこんなに演技ができるのかと思わせるほど、彼の演技はよかった。『ロッキー』ファンではない人は観ないかもしれないが、それはあまりに惜しいと思わせる出来だったと言っておこう。

★★★★★★★ (7/10)

『クリード チャンプを継ぐ男』予告編