T君の事を嫌いになってきて、自分の中でT君を過去に出来てきた頃、私は次の恋愛を探してました。T君との楽しかった擬似恋愛の味が忘れられずに、もう一度、あのドキドキや温もりを感じたくて、誰かと密接に繋がっていたくて・・・。


チャットのお仕事でお客さんと話していても、前は相手のステータスなんかどうでも良かったくせに、気が付くと独身で独り身の男性ばかりを選んで話してました。男に飢えてたのかな。。。辛い思いをしなければ、相手なんか誰でもいいって思ってました。



その頃に知り合った男性、チャットのお客さんのMさんがいました。

Mさんは47歳で独身。彼女いない暦47年の会社員でした。


MさんはT君と違って、「俺はブサイクだから」と顔写真は見せたがりませんでした。私は、「ブスとブサイクならお互い選べる立場じゃないし丁度いいかも」と思っていて、とりあえずの心の拠り所をMさんにしようと決めました。だって、顔のいい人はT君みたいに選り好みするけど、顔の悪い人は妥協する・・・なんとなくそう思ったから。


心の拠り所にしようと決めたくせに、私はなかなかMさんへの恋愛感情が湧きませんでした。何度もチャットしたのに、優しい言葉を掛けてもらったのに、胸がときめく事は全く無かったんです。


私の誕生日の少し前、Mさんは私の住所を聞いてきて、当日に贈り物を送ってくれました。真っ赤な薔薇とフェンディの華奢な腕時計・・・。こんな贈り物を貰って、私はMさんの事を好きになろうと思い始めました。自然に惹かれるんじゃなくて、無理矢理に好きになろうと。。。


クリスマスが来て、Mさんは初めて私をデートに誘いました。

私はT君との事を全てMさんに話してたので、私がどんな容姿なのかは写真を見なくても分かっていたと思います。でも、それを知った上でMさんは、私に会いたいと言ってくれました。

T君との恋が終わってからも、私の周りにはT君がたくさん溢れていました。


T君が好きな色・・・黄緑色のパーカーと食器類。

T君が好きなミュージシャンの着メロ。CD。

T君が私と行きたいって言ってたタイの旅行ガイドブック。。。


もう思い出すだけで辛いから捨ててしまいたかったけど、そんな簡単に捨てれるほど軽い物じゃなくて・・・。これを買った時の心の高ぶりとか、そんな事を思い出すと、自分の外見だけじゃなく心まで否定してしまいそうで・・・。



T君と縁が切れてから、私は仕事に没頭しました。仕事してないと、誰か他の男と話してないと、寂しさや苦しさに耐え切れなかったんです・・・。私はこんな外見だけど、すごく男の人の温もりが恋しくって、強い憧れを持ってるんです。



1ヶ月が経ち・・・2ヶ月が経ち・・・


私の心は割と落ち着いてきました。

もうT君を思い出しても苦しくないし、恋しいって気持ちも薄れてました。


それどころか


「よくもあんな目に遭わせたね」とか

「女を外見だけで選ぶ最低な男だ」って


憎む気持ちが出てきてしまって、T君との思い出は後味の悪い嫌な思い出になりました。終わった恋を自分の中でどう処理するかで、これからの在り方が変わってくる・・・って何かの本に書いてあったけど、私はT君への恨み辛みばかりを残すように処理してしまったので、自分でもそれが少し嫌でした。

初対面の日に届いた「おやすみ」から、T君からの連絡は途絶えました。

電話も、私から掛けても出てもらえませんでした。


パケ死するほど毎日密に連絡を取り合っていたのは、まるで昨日の事のようで、もう二度と戻れない遠い過去になってしまったのです。それもこれも、私の容姿が悪いから・・・。


それでも私はT君への想いを断ち切る事ができずにいました。1年近くも強く深く思い続けてきた人を、将来を語った恋を、簡単に忘れられるわけがありませんでした。

私はT君からの決定的な決別を突き付けられない限りは、まだ終わりではないと勝手に思い込むようにしていたのです。時間が経てば、考え直したT君が戻ってくるかも知れない・・・そんな無謀な事も考えました。


初対面の1週間後、せめて映画に行く約束くらい果たしてもらおうと、前日の夜にメールをしました。


「明日、一緒に映画行くって約束、守ってくれるよね?

私の事が嫌いでも構わないから、一緒に来てほしいよ。

先の事とかは期待しないから、普通に友達として会ってほしい・・・」


メールに書いた通りの気持ちでした。

嫌われてもいい。

ただ、いなくなるのだけは嫌・・・。

T君を失えば、今の私には何も残らなくなる・・・。


でも、T君からの返事はありませんでした。



翌日、約束を守ってくれる事を心のどこかで期待していた私は、一方的にT君にメールを送って、勝手に待ち合わせの時間と場所を指定して待ちました。


指定した時間を30分過ぎ・・・1時間過ぎ・・・2時間過ぎ・・・3時間過ぎ・・・


日が暮れる頃に私はやっと諦めました。

T君からは、断りのメールもお詫びのメールも、何もありませんでした。

見事にスルーされてしまいました。



私は寂しさと悲しさのあまり感情的になって、T君に長いメールを送りました。


「どうして無視するの?私、4時間も待ってたんだよ・・・。

守れない約束なら始めからしないでよ・・・。

行けないなら一言言ってくれれば良かったのに。

それに、私の事をあれだけ愛してるって言ってくれたのは、

1年間のT君の言葉は全部嘘だったの?

私は信じてた。T君だけは信じられると思ったから。

顔の事で嫌いになったなら、正直にそう言ってくれればいいじゃん。

もう連絡取りたくないなら、ちゃんと言ってくれなきゃ分からないよ。

このままじゃ忘れる事もできないよ・・・」


無視されるのも、読まれないのも、覚悟の上でした。

もうこのメールを最後に諦めよう・・・そう思っていたら、T君からメールが届きました。



「色々と事情があって、これからはメールも電話も出来ません。

だからもうメールも電話もして来ないでください。

教えた住所や携帯の番号も削除してください。

お願いします」



このメールを読んでから、私は泣き崩れました。



「外見なんかで気持ちが変わる事は絶対に無い」??

T君が言ったあの言葉は一体何だったの!?


「俺は綾香の本当の価値を知ってる」??

そんなの結局嘘だったじゃない!!

私がブスだと知った途端に拒絶できるんだから!!


「住所や携帯の番号も削除してください」??

私が邪魔になったんだね?ブスは邪魔なだけなんだね?

顔を気にするなら始めから思わせぶりな事を言わないで!!!



もう二度と誰も信じない!!





そう憤ったものの、今の今まで好きだった人を、嫌いになんて・・・なれない・・・。


嫌いになれるならなりたいよ・・・。忘れて楽になりたいよ・・・。

でも、どうにもならないんだよ・・・!!

こんなに好きにさせたのに、そんなのって・・・あんまりだよ・・・。





悔しい気持ちと、現実を受け入れたくない気持ちから、私は最後の悪足掻きをしました。みっともない程に。




私はメールを読んだ直後に電話を掛けましたが当然出てもらえず、T君が泊まっているホテルへ行って、受付の人に緊急だと伝えて取り次いでもらうよう頼み、T君をフロントに呼び出しました。T君は部屋着のまま、険しい顔で出てきました。ホテルのフロントでは場所が悪いので、ホテルの脇の駐車場で話しました。



「・・・何ですか?」

「酷いよ!!あんまりだよ!!」

「だから何なんですか・・・」

「私・・・どうすればいいの?!

T君、私の事・・・好きじゃなかったの!?」

「・・・そういう感じです・・・」

「だったら何で!?何で好きって言ったの!?

軽い気持ちで言ってたの!?」

「そういう訳じゃないですけど・・・心変わりしたっていうか・・・」

「でも・・・それでもイイってメールに書いたじゃん!!

恋愛抜きで、友達としても無理なの!?」

「ごめんなさい、無理です・・・」

「酷いよ・・・!!」

「もうこれで終わりにしましょう。話してもきりがないから。

俺も明日帰らなきゃいけないし、これから忙しくなるから・・・」



これ以上は・・・もう何を言っても、泣き縋っても無駄なんだと感じました。

下を向いて何も言えず黙っていた私に「それじゃ、元気でね」とだけ言ってホテルに戻ってしまったT君。最後の後姿を見る勇気もなくて、見てしまえば立ち直れなくなるような気がして、私は彼の気配が完全に消えるまで下を向いていました。



こうして、この恋はあっけなく終焉を迎えました。