Adieu Romantique No.599
『珈琲 & 音楽 in 喫茶店 ⅩⅢ 』
【続々・昭和のエロス篇】
『珈琲 & 音楽 in 喫茶店』 シリーズの13 回目は前々回に書いた 番外篇の続きの続き 「続々・昭和のエロス篇」 に。
昭和の香り が濃厚に沈殿し、まるで時間が止まってしまったような 喫茶店 で(扉には鈴が付いているようなお店。扉を開くとチリンチリンって。 それは昭和へと繋がる音なのかも ) 。今回も少し濃い目の 珈琲 を飲みながら(さらに今回は窓際よりも奥まった席の方がいいかも) 、 そこで流れていて欲しいと思う、 謂わば コーヒー・ミュージック とでも言えそうな 音楽 (僕にとってそれは昭和の、日本のロックやフォーク、歌謡曲を指している) を聴きながら。昭和のエロスに浸り、妄想に耽けながら過ごす、そんなちょっぴり 淫靡 で 背徳 な時間のために。
それぞれのイメージの中に「昭和」のエロス、何ていうものが存在しているかどうかは分からないけど 。いずれにしても、そんなエロスの断片から 「昭和」という時代が残像のように立ち現れてくれればいいなって思う。
🎨このシリーズの10回目のRomantique No.594で。 「たまよ」 嬢を撮影した写真(写真集『Les Jeux』から )をセレクトした金子國義【Kuniyoshi Kaneko】 (1936~2015)の、今回はそのドローイングを。
🎨金子國義は 1966年に澁澤龍彦 氏の翻訳本、ポーリーヌ・レアージュ こと、ドミニク・オーリー が執筆した『O嬢の物語』 の挿絵を描き、翌年の 1967年に澁澤龍彦の後押しで シュルレアリスティックな 「花咲く乙女たち」 シリーズで画壇に華々しくデビューした。以来、「不思議の国のアリス」 の世界を始め、富士見ロマン文庫 のサド 文学(もちろん翻訳は澁澤龍彦 )の表紙などを描き、エロティシズムと可愛らしさに満ち溢れたドローイングで常に高い人気を集めてきた。まずは。その 「花咲く乙女たち」 シリーズの作品から。どこかシュルレアリスムの画家、 ポール・デルヴォー の作品を想い浮かべたり 。
🎨数々のアーティストたちのイマージュを刺激し続けてきたルイス・キャロル の『不思議の国のアリス』 。金子國義もまたシリーズで数多くの「アリスの世界」 を描いた。
🎨「Drink me」 と書かれたラベルの付いた小さな瓶に入った「チェリー・タルトとカスタードと パイナップルと、ロースト・ターキーとタフィーと焼きたてのバター・トーストをいっしょくたにしたような香り」 がする液体を飲むとアリスの体がみるみる小さくなったり。 小さなガラスの箱の中の、 小さな小さな干しぶどうで「Eat me」 と書かれた 小さなケーキを食べると今度はアリスの体がみるみる大きくなったり。
🎨 テディ・ベア を小脇に抱えたり、抱きしめたり、耳をつまんだり。金子國義 は可愛いものを、そこから溢れ出るエロティシズムを知り尽くしている。
🎨油彩では、 やたら眉毛が太く鼻筋が通った女性や少年の、 数多のエロティシズムを描いた。
🎨金子國義は矢川澄子 が翻訳したルイス・キャロル の文庫本『不思議の国のアリス』 と『鏡の国のアリス』 や、同じく矢川澄子訳によるポール・ギャリコ の 『七つの人形の恋の物語』 、富士見ロマン文庫 から刊行された数々の海外のポルノグラフィー、雑誌「ユリイカ」 などの表紙や挿絵を数多く手掛けた。
📖『不思議の国のアリス』 の冒頭、作者のルイス・キャロル が物語の主人公アリス のモデルになったアリス・リデル にこんな詩のようなものを綴っている。
ねぇ アリス
この他愛のない話を受け取って
その手でそっと大切にしまっておいておくれ
想い出の神秘の絆の中に
子供の日の夢がない混ぜになった辺りに
巡礼たちが遠い国で摘んできた
とうに萎れてしまった花冠のように
📖富士見ロマン文庫の『ぺピの体験』 (作者不詳)。
📖マルキ・ド・サド の『ジュリエット物語~あるいは悪徳の栄え』 (澁澤龍彦 の訳)。
📖同じくマルキ・ド・サド の『ソドム百二十日』 。(こちらも澁澤龍彦 訳)
昭和のエロスな音楽を。セルジュ・ゲンスブール が1967年にブリジット・バルドー と、1969年にジェーン・バーキン とデュエットした愛と官能の名曲『ジュ・テーム・モア・ノン・プリュ』【 Je t’aime… moi non plus 】 をフラワー・メグ の1971年のアルバム『官能への誘い~ささやき・ためいき・もだえ』 でひとりカヴァーした『ジュ・テーム』 を。📖本を。 宮西計三【Keizo Miyanishi】 (1956~)が描いた、 1994年刊行の漫画 『リリカ』 。続く1997年の 『エステル~あふれてくねるもの』 (タイトルだけでも十分にエロティックだ)からも強いインパクトを受けた。
🎨まるでハンス・ベルメール のドローイングのような。
🎨 まさに「あふれてくねるもの」 という感じだ。
🎨ジャン・コクトー が描くドローイングのようなスタイルが好きだった三嶋典東【Tento Mishima】 (1948~2012)の作品を。
🎨詩人であり、画家でもあったアンリ・ミショー によるアンフォルメル のドローイングのような。
🎨 三嶋典東 はウィリアム・バロウズ の『裸のランチ』 やジャン・ジュネ の『ブレストの乱暴者』 、『葬儀』 など河出書房新社 の単行本の表紙を手掛けた。
🎨根橋洋一【Yoichi Nebashi】 の作品。
🎨 山村まゆ子【Mayuko Yamamura】 (1979~)が描く、 X線で透視され、写し出されたような透明なエロティシズム。ある種、解剖学的なその世界は 松井冬子 の作品に通じるような気もする。
🎨 川島優【Yu Kawashima】 (1988~)の作品。 ノン・セクシュアルな感受性で描かれた少女たちの佇まいは、禁欲的なほどCoolなのに、とても不安定に揺れている。
🎨 会田誠【Makoto Aida】 (1965~)。 単に「エロス」では括れない、とても幅の広いアーティスト。挑発的でシニカルで、どこか半笑いのニヒリストのようなところがあったり。結果的にとても魅力的なエロティシズムを発散することもあれば、とんでもなく脱力したポンチ絵に到達することがあったりも。
🎨日本のアーティストじゃないけど、日本的なエロスが感じ取ることができる、ロシアのアーティスト、 バーニャ・ズーラヴィロフ【Vania Zouravliov】 (1980~)。 丸尾末広 や 山本タカト と オーブリー・ビアズリー や アラステア などとのミクスチャー感が面白いのでセレクトしてみた。
🎨 昭和からさらに遡って。 日本のアートのエロティシズムは江戸時代の浮世絵 や春画 に濃厚だけど、表現が直接的過ぎるものが多いのでアメブロではOutだ。なので江戸時代以降のエロスを。浮世絵からの流れと西洋の文化をミクスチャーした、独特のエロティシズムを漂わせる橘小夢【Sayume Tachibana】 (1892~1970)の作品。
🎨昭和のエロスなアートに多大な影響を与えていると思える作品。
明治から大正時代にかけて流行した「木版口絵」 (当時の小説の巻頭に描かれた、今で言うグラビアページのような)を描いた 画家たちによる「L'érotisme japonais 」 な作品をいくつか。
🎨武内桂舟【Keisyu Takeuchi】 (1861~1942 )の作品。
🎨鰭崎英朋【Eiho Hirezaki】 (1880~1968 )の作品。
🎨水野年方【Toshikata Mizuno】 (1866~1908)の作品。
🎨今で言えばダークアート になるんだろうか。河鍋暁斎【Kyosai Kawanabe】 (1831~1889)の絵は奇怪な世界からエロティシズムを表出させてくる。
🎨現代の浮世絵師。浮世絵 meets ポップアート な、寺岡政美【Masami Teraoka】 (1936~)の作品。エイズをカリカチュアした斬新なシリーズも。
🎨エイズ予防として、避妊具を思い切りよく拡げる花魁之図。
🎨 平田望【Nozomi Hirata】 (1988~)。 東京藝術大学卒の人に、こんなことを言ったら申し訳ないけど。まるで現役の美大生が描いた作品のような風合いを感じるんだ(偉そ過ぎな物言いじゃないかー )。だけど。その風合いこそがとても新鮮で、不思議な感じを醸し出していると思うし、そこが逆にこのアーティストの魅力なのかなと思っている。 🎨 佐久間友香【Yuka Sakuma】 (1990~)の作品は 日本の 「ポップ・シュルレアリスム」 かと。向こう側への踏み込みは浅いのかも知れないけど、そのCoolさこそが「日本の耽美」の魅力なのかも知れない。
🎨 「知る人ぞ知る」的な流れの中で、コアなファンを掴んできたアーティスト、 龍口経太【Keita Tatsuguchi】 (1972~) 。淡く、染み出すようなエロティシズムが魅力的。
🎨 フィギュア 作品 も(良い悪いは別として。どうしてもアニメ的になることは拒めないとしても) 球体関節人形 とはまた違った エロティシズム を表出していると思う。
🎨 小林美佐子 【Misako Kobayashi】 (1985~)。 リトグラフと銅版画をMixした技法で、 ナースやメイド、女子高生などのコスプレをした少女たちの 神話的なエロティシズムが描かれている。
最終にもう1曲。加藤和彦 が1981年にリリースしたアルバム 『ベル・エキセントリック』 (カヴァー・アートは 金子國義 )から、アルバムの最後を飾った 坂本龍一 の演奏による、 エリック・サティ のピアノ曲 『ジュ・テ・ヴー』『Je Te Veux』 。好きなんだな、この曲、この演奏。 今回は「昭和」のエロスと言いながら、まったくまとまりがなく混沌としてしまった。まぁ、もともと線引きなんて何もないのだから、それはそれで、これはこれでいいのかなと思ったり。