No.0381 『Light Mellowという、CITY POPの魔法①』。 | 『アデュー・ロマンティーク』~恋とか、音楽とか、映画とか、アートとか、LIFEとか~

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僕が過去と現在、ロマンティークと感じた(これから感じることも)恋や音楽、映画、アートのいろいろなことを書いていきます。

こんにちは。 僕のブログ【アデュー・ロマンティーク】へ、ようこそ。

 

コロナ前に。ある夜、よく行く音楽バーのカウンターで一人で飲んでいると、カウンターに何人かの女の子たちが並んで座ってきた。彼女たちはとても若く、とても可愛かった。しばらくして。彼女たちの会話の流れに乗っかるような形で自然と言葉を交わすようになった。バーでお酒を飲みながら、しかも知らない者同士でお互いマスクも着けずに話をする。コロナ禍の今では考えられない、御伽噺のような物語である。彼女たちは「韓国から遊びに来ている」と流暢な日本語で話してくれた。そして、彼女たちは日本のCITY POPが好きで、今回、ボノボのLIVEを見るために日本に遊びに来たと言った。ボノボがCITY POPなのかどうかは別として。韓国の女の子たちが日本のCITY POPを好きだと言い、僕自身もデビューの頃からよく聴いていたボノボのLIVEを見るために日本に遊びに来た、という軽やかな感じがとても素敵だと思った。

 

CITY POP。何故だか、ここ10年程の間に、日本はもちろん、世界でもとても人気が高くなってきた音楽の総称。もちろん。「この音楽はCITY POPだ」とか、「これはCITY POPではない」という区分けが明確にある訳じゃない。ただ何となくの雰囲気やイメージで捉えられている訳だけど。

 

そのような中で。僕が考えるCITY POPの定義のようなものを挙げるとするなら、それは70年代の初め頃に日本で誕生した日本の音楽であり、それは一般的にも流行しながら、やがて徐々に勢いを失いつつあったフォーク・ソングに抗うように(つまりボブ・ディランの直接的な影響から逃れるように)、主張よりも音楽性に重きを置き、音楽的に先行するアメリカのSSWやウェストコーストやカントリーロックなどに影響を受けた音楽であり、さらに言えば所謂、リスナー型(いろんな音楽を聴いてきたマニア志向の人たちの)音楽であり、それは後に流行するAORがそうだったように、かっちりとしたサウンド・プロダクションに支えられた、ミュージシャン・シップの強い音楽でもある。余計に分からなくなったzzzかも知れないな。

 

具体的に言うなら。それは「はっぴいえんど」に起源を持ち、すべてはそこから派生し、メンバーであった細野晴臣、大瀧詠一、鈴木茂、松本隆が核になって拡められてきた音楽だと思う。今更だけど。今、考えれば信じられないようなメンバーで構成されていたスーパーグループの、その歴史的なアルバムから。

 

 

はっぴいえんど『風街ろまん』

日本の古き良き時代へのノスタルジーと、当時の最先端とも言えるジェームズ・テイラーやバッファロー・スプリングフィールドらの影響下にある音楽性を融合し、「都市生活者ためのロック」を日本語で表現したことがCITY POPの源流に位置付けられる由縁であり、このグループの唯一無二のオリジナリティ且つ最大の魅力である。まずは、彼らのセカンド・アルバムであり、日本のロックの歴史的傑作『風街ろまん』のアルバム・カヴァーと、アルバムから3曲を。因みにアルバム・カヴァーはどこかビートルズ的。

音譜アルバムのオープニングを飾った『抱きしめたい』。やっぱりどこかでビートルズを意識していたのだな。

音譜説明不要の大名曲『風をあつめて』。

音譜日本人にとってのサウダージ。「日本の夏。金鳥の夏。」が甦る『夏なんです』。


僕自身は。今、CITY POPという呼ばれている、そういう音楽を認識したのは、90年代の終わり頃に音楽評論家であり、プロデューサーでもある金澤寿和がレコード会社別に、今ではCITY POPとして定着している音楽をコンパイルしたコンピレーションCDシリーズ「Light Mellow~City Breeze From East」だった。もちろん。知っている曲も結構あったけれど、そういう音楽だけをひとつにまとめ、しかもシリーズ化したものは当時はなかったので、とても斬新だった。それまでは原田知世が主演した『私をスキーに連れてって』のサントラくらいじゃなかったか、と(あまり知らないけど)

 

「Light Mellow~City Breeze From East」シリーズのCDの、これは【東芝EMI編】。このシリーズは若干、タイトルを変えながら今でも続いてるんじゃないかな。

 

今回の記事は、もう何度となく書いてきた「CITY POP」の総集編。1回、1回の記事をできるだけコンパクトにしてシリーズ化することにより、最終的にできるだけたくさんの「CITY POP」を紹介していこうと思っている。今までは曲を中心に紹介してきたため、YoutubeにUPされていないものは紹介できなかったし、今まで紹介してきた曲も今では再生できなくなっている音源も多い(著作権の制約が強いからなのか、とにかくCITY POPに限らずYoutubeでUPされている日本の音楽の音源はひじょうに少ないのだ)。

 

なので今回は一般的にCITY POPと認識されているアルバムの中から、僕がよく聴いてきたものを中心にして紹介していこう。もはや。誰もが知っているような、かなり有名なものも混じっているし、そういうアルバムを取り上げて、わざわざ紹介することに何の意味があるのかは分からないけれど(特に新しい切り口も見いだせないしなうーん)、まぁ、僕の中の引き出しを整理するということで(最近、やたら引き出しを整理しているなぁ)、しばらくの間、お付き合いいただければと思う。

 
 

大瀧詠一『A LONG VACATION

今年、リリースから40年を迎えてなお、その輝きを失わない、どころか、リリース当時から何度、聴いても未だに新しい発見があり、至福を感じるエヴァーグリーンなアルバム。フィル・スペクターの「ウォール・オブ・サウンド」を始め、全編、音楽的アイデアの宝庫。制作前に大瀧が松本隆に「こんなイメージのアルバムをつくりたい」と言って差し出したのがイラストレーター、永井博の画集「ロング・ヴァケイション」であり、そのイメージに沿ってアルバムが制作された。

 

作詞は1曲を除き、すべて松本隆。コーラスには伊集加代子、太田裕美、ラジ、五十嵐浩晃らが参加している。因みに。一般的に知名度がなかった(名前は知られていなかったけれど、三ツ矢サイダーのCMソングは誰もが知っていた)大瀧詠一の名はこのアルバムによって一躍、全国区となり、世界で初めてCD化されるアルバムの1枚にも選ばれることとなる。僕はと言えば、当時、アルバイトをしていたレコードショップの店長から大瀧詠一の素晴らしさを滾々と教えてもらっていたので、大瀧詠一が仲間たちとやっていた苗字と名前の間にミドルネーム(例えば元シュガー・ベイブの松村”カワイギター教室”邦男や、上原’ユカリ’裕という風に)を入れる遊びを、僕らも熱心にやっていたイヒ

音譜すべてはこの曲から始まった。とてもカラフルな色彩の、しかもワイドスクリーン的にイメージが拡がる『君は天然色』。やっぱり、底無しの名曲だと思う。

音譜リゾート感たっぷりな『カナリア諸島にて』。

音譜フィル・スペクター・サウンドの影響が強い『恋するカレン』。

 

 

大瀧詠一『Each Time』

『A Long Vacation』から3年後の84年の春にリリースされたアルバム。もちろん期待度は高かったけれど、その期待が裏切られることはなかった。『A Like Vacation』の延長線上にありながら、さらにサウンドの密度とスケール感、そしてロマンティーク度がUPしたPOP SONGの、永遠のマスターピース。突き抜けていると思う。

音譜避暑地での出会いがCoolに描かれる『夏のペーパーバック』。

 音譜『恋のナックルボール』。ベタなテーマをこんなにも素敵に、魅力的な音楽にできる人、他に誰かいるだろうか。

 音譜シングル『フィヨルドの少女』のB面として85年にリリースされ、86年にリリースされたアルバム『Complete Each Time』の2曲目に置かれた。いきなりのオープニングで、いきなり胸が締め付けられてしまう『バチェラー・ガール』。

 

南佳孝『South Of The Border』

1978年の作品。僕の中では、CITY POPのアルバムの5本の指に入るマイ・フェイヴァリット。1曲目の『夏の女優』からリゾート感全開。思わずプールサイドを軽いステップで歩きたくなってくる。アルバム・カヴァーに使われているのは池田満寿夫の66年のリトグラフ『愛の瞬間』。そのイメージと共にアルバム全体から心地良く吹く微風のイメージと、絡みつくような湿った微熱のイメージが顕れては消えていく。

そして何よりも南佳孝が書く曲の良さ、キレ味の魅力的なことと言ったら。名曲『日付変更線』の作詞は松任谷由実。南佳孝と大貫妙子のデュエットが聴ける曲でもある。アレンジはアルバム全編が坂本龍一による仕事。当時、「CTI的」と言われていた独特のサウンドが随所に顔を覗かせる。プレイヤーとしても参加していて、『プールサイド』と『終末のサンバ』では直後にYMOを結成する3人がプレ的に顔を揃えている。文句のつけようがないアルバムなのにそれほど聴かれていないような気がするのは、南佳孝の声質、歌い方のクセが強過ぎるため、好き嫌いがはっきりと分かれるからかもうーん(違う、か)。

音譜このアルバムの音源があるとは思わなかったのでうれしいなもぐもぐ。『朝焼けにダンス』。

音譜そして名曲『日付変更線』も。

音譜南佳孝らしい曲『ワンナイト・ヒーロー』。


はっぴいえんどが解散した後、松本隆は南佳孝のデビュー・アルバム『摩天楼のヒロイン』をプロデュースし、細野晴臣と鈴木茂はCITY POPを語る上で最も重要なグループ、キャラメルママ(しばらくしてティン・パン・アレーに改名)を結成し、大瀧詠一は自身のレーベル「ナイアガラ」を創設する。時は1972~73年頃の話。その時期に登場した、3人の女性のSSW的CITY POPを。
 
 

荒井由実『ミスリム』

 1973年に『ひこうき雲』で鮮烈なデビューを果たした荒井由実の、74年にリリースされたセカンド・アルバム。あの頃の、あの時代だけの特別な空気感は前作の方により濃厚に詰まっているけれど、CITY POPという切り口ならこっち。どちらのアルバムもバックはキャラメル・ママだけど、この「ミスリム」のコーラス・アレンジは山下達郎が担当しているので(単なるコーラスでの参加ではなく、アレンジまでというのが達郎からの条件だったらしい)、より洗練度がUPしている。因みにアルバム・カヴァーの写真は、60年代から、三島由紀夫や安部公房、黒澤明、かまやつひろしや加賀まりこ、安井かずみなどの作家や芸術家、芸能人やセレブたちが集まるサロンであったイタリアン・レストラン「キャンティ」の創立者、川添浩史の自宅で撮影されている。

 音譜オープニングを飾った『生まれた街で』。細野さんのベースで始まる曲。キャラメルママによるアレンジ・演奏は当時のアメリカのものと比較してもまったく遜色がない。

音譜『魔女の宅急便』のテーマ曲に使われた名曲『やさしさに包まれたなら』。

 

吉田美奈子『FLAPPER』

 荒井由実と同じく、1973年にインディー・レーベル「ショーボート」から南佳孝の『摩天楼のヒロイン』と共にリリースされた『扉の冬』でデビューを果たし(当時、彼女は20歳だった)、日本のローラ・ニーロと呼ばれた吉田美奈子の3枚目のアルバム。


『扉の冬』でバックを務めたキャラメル・ママがティン・パン・アレー名義でサポートしている他、松木恒秀や先日、訃報が入ってしまった村上”ポンタ”秀一らが参加している。このアルバムは、CITY POPと呼ぶにはあまりにもレンジが広く、盟友である達郎の曲を始め、ソウルやファンク、トロピカルまで実に多彩でカラフル。彼女のシンガーとしての器の大きさを示した傑作に仕上がっている。因みに。レコード会社から6曲目に入っている大瀧詠一の曲『夢で逢えたら』をシングルカットの話が出た際、彼女はこの先、自分のキャリアの中で他人が書いた曲が代表曲になることを嫌って、その提案を断ったという。


音譜このアルバムからの曲はないので。代わりに次のアルバム『Twilight Zone』のCITY POP的名曲『恋は流星』を、シングル・バージョンで。

 

吉田美奈子『Light’n Up』

82年にリリースされた、CITY POP的Light Mellowな傑作アルバム。2曲目には問答無用のキラー・チューン『頬に夜の灯』が。NYのセッションではブレッカー・ブラザーズやデヴィッド・サンボーンらがサポートした。

 音譜その名曲を。『頬に夜の灯』。

 

五輪真弓『蒼空』

 荒井由実や吉田美奈子より1年早く、1972年にキャロル・キングが参加したアルバム『少女』で華々しくデビューした。このアルバムは通算5枚目のオリジナル・アルバムとして77年にリリース。あの、天才ベックの父、デヴィッド・キャンベルがプロデュース&アレンジを担当し、ラリー・カールトン(g)やクルセイダースのウィルトン・フェルダー(b)、パトリース・ラッシェン(key)、ジム・ケルトナー(ds)らLAの有名スタジオ・ミュージシャンがバックをサポートした。

音譜アルバムからミディアム・グルーヴが心地いい『ミスター・ハッピネス』を。

 

鈴木茂『バンドワゴン』

はっぴいえんどのギタリスト、鈴木茂の傑作ファースト・ソロ・アルバム。日本人として、これほどまでに魅力的なファンキー・ミュージックを具現化することができるなんて。しかも単なるコピーではなく、日本のオリジナルな音楽として。そして歌入りの曲はCITY POPのマスターピースとして今も燦然と輝いている。アルバムから『砂の女』、『微熱少年』、『100ワットの恋人』を。作詞はもちろん松本隆。

 



 

佐藤博『Awakening』

CITY POPの大きな魅力は、日本語による歌であることが重要な要素。いくらネイティブな英語で歌われても、あまり魅力を感じないけど日本語で歌われた瞬間、日本だけのオリジナリティが、日本だけのニュアンスが生まれてくるのだから。だけど、このアルバムは例外。佐藤博のボーカルもカナダの女性シンガー、ウェンディ・マシューズによって歌われる曲ももちろん英語だけど完成度は高い。


鈴木茂のアルバム『バンドワゴン』をLiveで再現するためのバンド、ハックルバックに参加し、後に松任谷正隆の後任として短期間だけどティン・パン・アレーにも参加した佐藤博の82年のアルバム。個人的には南佳孝の『South Of The Border』と同じくCITY POPのMy Favoriteの内の1枚であり、タイトル通り、とてもよく晴れた朝、微睡みの中で流したい音楽でもある。

音譜『You’re My Baby』。

音譜『Blue And Moody Music』。


 音譜今回の記事のイントロダクションとして書いたエピソードに登場したボノボ【bonobos】は、蔡忠浩を中心に結成された、レゲエをベースにした緩やかなGrooveが魅力のバンド。CITY POP特有のタイトなサウンドではないものの、その洗練されたGrooveは広い意味ではCITY POPと呼んでも差し支えないかな。彼らの曲『あの言葉、あの光』と『Thank You For The Music』で今回の記事を取り敢えず締め括ろうと思う。



CITY POP。あまりセンスがいいとも言えない呼称だけど、そこに漠然と括られている音楽はとても魅力的なものが多い。考えてみると。僕自身の音楽史人生の中で、ずいぶん昔から聴いてきている音楽だし、若かった頃の、不安定だった僕の気分を時に落ち着かせてくれたり、また高揚させてくれたり。恋のBGMとして使わせてもらったことだってあるし、とにかくいろんな場面でお世話になってきた音楽なのだ。
 
今回は記事全体がCITY POPのイントロダクション的になったような気がするけれど、これからもシリーズ記事として、軽やかで、自由気ままに。『Light Mellowという、CITY POPの魔法』について、ちんたらと書いていくことにするね。
 
それでは今回はこれで。
アデュー・ロマンティークニコ