黒田長政の家臣に、小河藤左衛門といって、千石を領する武士があったのだが、
代官方の年貢の収納に私曲があることが発覚し、座敷牢に入れられた。
この時、刀剣も皆取り上げられた。
ときに、藤左衛門が心やすく召し使っている18歳の少年が一人、
この座敷牢に時々来て、身の回りのことに仕えていた。
ある時、藤左衛門はこの少年に向って、
「我が身は罪が重いため、必ず処刑されるだろう。
しかし、先に自害をすれば、却って我が面目と成る。
お前は大きな小刀を持ってくるように。」
少年は家に帰ると、密かに大小刀を持って来て、人に知られぬように藤左衛門に与えると、
彼は、この小刀で自害した。
この事態に、奉行人は少年を読んで彼を戒めた。
ところが少年は、
「今回の事は必ず私の罪と成って、ご成敗にも合うだろうということは、
かねてより理解していました。
しかし、主人の難儀なる状況を見たため、命を失うことも省みずやったのです。
なのでそのように言われても、今更驚くことではありません!」
喜多村孫之充は、これを黒田長政に告げ、
「さてもこの少年は大罪人です。いかなる罪を申し付けましょうか。」
このように申し上げると、
長政は興の冷めた顔をして、
「私はお前に対する目利きを仕損じていたようだ。
そのように道理に暗いとは、思いもしなかった。
その少年が自分が罪に問われることを知りながら、
主人への忠節を務めたことは奇特である。
これを罪人だと思うのは、お前の誤りだ。
その少年は元服させ、小河久太夫の組に入れおくように。
きっと用に立つべき者であろう。」
そのように言った。
しかしその少年はそれから程なくして、病にて死んだ。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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