城井中務(鎮房)は、中津城に登城して、黒田長政の前に出た。
長政は床の間の方に座していた。
城井は二間ほど隔てて、腰障子の側に着座していた。
城井中務は優れて大力の剛の者で、六尺あまりの大男であった。
二尺あまりの打刀を腰に挿し、二尺八寸ある重代の刀を後ろに立ちかけていた。
彼の表情からは野心が表れていて、長政を敬い慎む礼式もなく、
いささかも降参した者の法ではなかった。
長政はこれに甚だしく憤ったが、色を和らげ挨拶し、
「酒を出すように。」
と言うと、吉田又助が酌に立った。
長政は先に酒を飲んで、その盃を城井に与えた。
城井は長政、又助の方に油断なく目を配りながら、
盃を取って頂き、左の手にて酒を受け、右の手は脇差の柄の上に置いていた。
又助は酒を酌する時、わざと盃に余るほど酒を注いでこぼした。
そして長政が刀を取り良いようにと思い、
城井より上座に立ち退き、長政と城井の間に立ちふさがり、
城井の方に近い形で座して、銚子を下に置いた。
長政は、かねて決めていたとおり、
「肴を!」と呼んだが、長政の声が次の間に聞こえなかったのか、何も返事がない。
少しして再び「太郎兵衛、肴を!」と声高に叫んだ。
その時、野村太郎兵衛、
「あっ!」
と答えて肴を持ち出し、直に城井の前に出て、三方を投げつけると、
つっと寄って一太刀、打った。
城井は左の額から目の下まで斬り付けられた。
城井は、
「心得たり!」
と盃を捨てて脇差を半分抜きかけ、立ち上がろうとした。
そこに長政が、側においていた刀を抜いて、即座に打ち付けた。
利剣によって強く斬られたため、左の肩から胸部の真ん中を割り、
後ろの大骨にかけて、左の横腹まで斬り付けられた。
このため、さしもの猛き城井中務も、たちまちうつ伏せに倒れた。
この時、次の間に控えていた黒田家の侍達が一度に来た。
野村太郎兵衛は刀を横たえ、片手をついて長政に、
「日頃の御本望にて候。いま一太刀を遊ばせ候へ。」
と申し上げると、長政立ち上がり、声をかけて斬りつけると、
後ろから胴と腰を両断した。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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