昼盗のすすめ☆ | げむおた街道をゆく

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信長の野望、司馬遼太郎、大河ドラマが大好きです。なんちゃってガンダムヲタでもあります。どうぞよろしく。

 

黒田如水の家臣に、伊藤次郎兵衛という者が居た。
彼は若い頃新参の無足人であったが、それでも根気強く奉公を心がけ、

日夜怠りなく勤めているのを認められ、
黒田家に使えて3年目、知行二百石を与えられた。
 

元より人に超えた根性を持つ若者であり、

また、この知行を与えられた事をかたじけないと心から思い、
それ以降は前にもまして少しも弛むこと無く奉公を勤めた。

そんな次郎兵衛が如水にお目見えしたときのこと、如水は彼の顔を見るなり、
「次郎兵衛、お前は具合が悪いのではないか?」
と声をかけた。

 

次郎兵衛、

「いえ、そのようなことはありません。」

と答え、側の者たちも、
「彼は殊の外無病で有名です。彼が我が家に仕えるようになって早25年になりますが、

一度も体調を崩したと言うようなことは御座いません。」

これは如水が常々、

家中の者が、

「気分が悪い。」「喉が痛い。」「食事が取れない。」

などと、病がましいことを言い出すことを嫌っていたため、

側の者たちは、そこに気を使い、ことさら無病を強調して申し上げたのである。

 

しかし如水、
「いや、次郎兵衛の奴は疲れているのか見苦しい。

さては食米が不足していて、ひもじくて疲れているのか。
ならば食米を取らせよう。」

と自筆で手形を書き結んで、「これで飯を炊かせ、喰いたいだけ喰え!」
とそれを投げつけた。

 

次郎兵衛がまかり出てこれを戴き、次の間に下がって中を見ると、

驚くべきことにそれは、50石の加増の手形であった。

 

次郎兵衛は感激し、
「食米と言われたからにはせいぜい米5俵から10俵ほどの物だと思っていたが、

それだけでも私が年来、
心を込めて奉公していたことを大殿様がお認めになっていただいたのだと、

とても嬉しく思っていたのに50石とは!
見たとたん肝を潰しました。」

と言っていた。

ここまではいい話。が、これから少し後のこと。

その日の早朝、家臣たちがその日の仕事を始める時間、

たまたまそこには如水と、ある性格のおとなしい者だけがいた。
如水はその者に向かい、

「たわけめが、お前は昼盗の仕方というのをまるで解っておらん!

これからはきちんと心がけて昼盗をしろ!」

と吐き捨てた。

 

昼盗とは白昼堂々と働く盗み、のことであろうか?

 

この者聞いて当然ながら大変驚き、

「お言葉ではありますがご主君は家臣に、

律儀に奉公せよと申し付けられるべきなのに、

盗みをしろとは一体どういう事でしょうか!?」

「お前はそんな事も解らぬのか?

昼盗をした話はたくさんある。

まず一人の事例を見てみよう。
あの伊藤次郎兵衛の奴めは、

83石(黒田家の武士の最低石高)で35年召し使っても一言の文句も言わないだろう。
知行の望みがあるわけではなく、どのようにも使って欲しいと言って、

我が家に出仕するようになった奉公人だが、
何事でも奉公したいと日夜朝暮心がけていることは紛れもなく、

何があっても少しもわだかまらず、
良く扱っても悪く扱っても態度を変えること無く、

生まれついたままのように奉公を専一としていた。

この事を解っていながら取り立てないというのは、

召し使ったものの志を奪い、主人として誤り、

いや、盗人に近い行為であると思ったので、

奉公してから3年にも足りなかったのに、あいつにとって過剰と言っていい、
200石の知行を取らせた。
あいつはその後も猶も初心を忘れず、律儀に、不調法なりに奉公をした。
これならさらに加増させたいと思ったんだ。…だがな、

問題はあいつには、これといって取り上げるほどの忠節がないのだ。

だからわしが、あいつに一花咲かせるような褒美を与えたいと思っても、

それに価するような手柄が何も無い。
なので疲れている事にかこつけて、食米だと言って50石取らせたのだ。
いくらあいつが奉公をよくやっていると言っても、例えばあいつを、

何かこの如水のために成る公儀への使いを申し付けるなんて考えられないだろ?

だからといって内々の会議に呼んで相談相手にする、なんてのも無理だし、
新参者だから仕置方に使うわけにも行かず、

そこで心身ともに辛い目に会うということもない。
とにかく、あいつには功績というべきものが何も無いのだ!

なのに日夜朝暮心を込めて、

どうにかして奉公仕りたいと思い入れている一念の志を感じ、

わしは今までも取られるべきではない知行を取られ、

この間はさらに米50石を取られた。
勘違いするな?わしはあいつにさらに知行を使わしてやってもいいとすら思っている。

少しも惜しいとは思っていない。

しかし考えて見れば、この如水は随分「ぬからぬ者」と自慢をしていながら、

こうも簡単に昼盗に合うとは我が事ながら実に可笑しな事だ。

これはな、こういう類の昼盗をしたことのない人間が陥りがちな誤りなのだよ。
伊藤次郎兵衛に限らず我が家には昼盗は何人もいるぞ。

お前ひとりづつ数えてみろ。」

と言って笑ったそうである。

 

 

 

戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。

 

 

 

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