ある日のこと。
黒田如水は、心安い御伽衆の者たちと、こんな話をした。
「我が家中の子供たちは皆、利発そうに見えるな。
甲斐守(長政)は、本当に幸せだ。」
そんな事を言って喜び、御伽衆の者たちもそれぞれに能いと思うところを誉めて、
座敷の空気に合った話をした。
と、そんな所に如水、
「ところで誰々の子の何某は見かけがとても鈍重そうだ。
あれは内心、うつけじゃないかと思っている。」
と言い出した。これには御伽衆の者たち、何某を気の毒に思い、
「御意のとおり、見かけはいささか鈍重で、うつけた様に見えるかも知れません。
ですが内心はとても活発な方で、少しも物事をぬかるような事はなく、
底堅い性格でございます。」
如水これを聞くと、
「さてさて、惜しいことかな。
既に主人の心を知り、主人にも心底を能く見られた者ならば、
見かけが鈍重で実は底堅いと言うのも、
主人に愛され、その身のためにも良いだろう。
だがそういう主人との信頼関係が出来ないうちから、
見かけがたわけているのは損の多いことだ。
内面に利発さを持っているのなら、
その表面と内面をひっくり返せと言ってやれ!
内心の利発さなんてものは、後から入ってくるよ。
まずは表面に見える人品が確かであることが重要なんだ。
だいたい惜しむべき利発を心の底に隠していちゃあ、
一体何の用に立つんだい?」
そういって笑ったそうだ。
黒田如水の語る、見かけと内面についての話である。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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