黒田如水が病に倒れ、臨終の床についていた頃のことである。
黒田長政は、床にある父・如水に向かって言った。
「父上はそろそろ死にそうですが、私には心残りがあります。」
(はや御果可被成候に、心に懸りし事御座候)
死にかけの父親にこんな事言い出す長政も相当なものである。
ま、ともかく続き。
「それは、私は今一万ほどの手人数を持つように成りました。
そこで黒田如水を自分の旗本に置き使い、
私の采配で一合戦お目に掛けたかった。
それだけが心残りなのです。」
これを聞いたその死にそうな黒田如水、長政に、
「おいおい、わしはお前がそれ程のアホだとは思わなかったぞ!」
(扨其程に貴所は気の付候はんと思ひ不寄候處に)
「そんな事なら、わしの方には今生に思い残すことなど何も無いよ。
大昔の名将弓取りなどの事は、書物に記録してあるだろう?
わしはそれらを読んで綿密に分析してみたところ、
近代において名将や弓馬の道の上手は、
美濃・尾張・三河、この三ヶ国から出るようになっているのだ。
その三ヶ国の名将たちの戦の仕様、その武者振りの体、
まあ日本のうちそれ以外の地域は残りカスみたいなもんだな。」
だから三ヶ国の出身ではない長政の采配など、たかが知れている。
そんなものを経験できなくても自分には何の後悔もない。
ということなのだろう。
しかし如水も死にかけなんだから、
息子にもうちょっと可愛気のある言葉を遺してあげてもいいような気もするが。
ともかく最後までこの息子にこの父親、としか言い用のない父子の会話である。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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