黒田如水が、福岡城を築城していた頃。
建築現場から、木材が盗まれるという事件が頻発した。
それがあまりに続き、工事の進捗にまで影響をし始めた。
それを聞いた如水の命で張り込みが行われ、
やがてそれが功を奏し犯人を逮捕できた。
大工の一人だった。
報告を受けた如水は、その場に大工や左官どもを集めておくように、
と言い、捕縛された大工の元に駆けつけた。
そして大工や左官達の前に犯人を引き出すと、
いきなりこれを、罵倒し始めた。
「この材木泥棒め!お前は泥棒などして恥ずかしいとは思わぬのか?大うつけが!」
そして扇子で犯人の頭をぴしゃりと叩き、
「恥を知る頭もないか。」
と罵った。
やがて大工や左官達に振り返り、
「よいか皆のもの、この男は盗人である!その罪により打ち首といたす!」
そしてこの男は一旦、石牢に入れられた。
そして数ヶ月がたった。
あの犯人は、そのまま石牢に入れられていた。
如水から、刑執行の命令が無いのだ。
もしや大殿はあの罪人の事をお忘れになっているのでは?
そう思った家臣達は、如水に尋ねた。
「どうでしょう、明日にでもあの罪人を打ち首になされては…?」
「ばかもの!」如水が怒鳴った「お前達は命の大切さを知らぬのか!?」
殿が打ち首にせよと言ったのではないか、
そう思い唖然とする家臣たちに如水は、
「よいか、大将たる者、理非賞罰の心構えがなくてはならぬ。
お前達は、あの時大工を集めたのは見せしめのためだと思っておろう。
それはその通りじゃ。大工達を戒めるため、あの場に集めた。
…が、犯人を殺すかどうか、これは別じゃ。
人間は、誰しも何かの役に立つ。
だが、盗まれた材木に衣服を着せても、あの犯人の大工と同じ役に立とうか?
出来まい。
かように、人の命とは大切なものだ。みだりにこれを奪ってはならぬ。
お前達は、人の上に立つ者達だ。
最初に盗まれた時、『再び罪を犯せば次は無い』、そう知らしめ、
同じ事を繰り返さぬようすることが役目であろう。
それを、何度も盗まれていながら、捕まえたから首を斬る。
これではあまりに浅はかであろう。
あの犯人を放って置いたのは、お前達の誰かがこのことに気がついて、
防犯を徹底できなかった自分達も悪い。このたびだけは許してやってほしい。
そう言いに来ないかと、それを待っていたからなのじゃ。
よいか、この事をどうか、よく考えて欲しい。
そしてあの犯人は、今回だけは許してやるのだ。
『この次は無いぞ?』と言ってな。」
治世を為す者は、罪を犯したものを憎む前に、
その罪を犯させてしまった自らを省みよ。
そんな事を伝えた、黒田如水のお話。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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