備中において羽柴秀吉と毛利家との和議が整い、
秀吉は明智誅伐のため畿内へ上がらんとする時、
小早川隆景の所に遣いに出向いた黒田官兵衛は、
このような事を言い出した
「実は、少々思うところがあり、毛利家の旗を2本、お貸し頂けないでしょうか?」
隆景はこれを不審に思い、少し思案して、
「旗だけをお貸しするなど、そちらへの御馳走にはなりません。
しかし今、輝元の人数は此処にはおりませんので、
私の手勢だけでもお供いたしましょう。」
「いやいや、あなたがご不審に思われるのはご尤もです。
しかし何も仔細のあることではありません。
貴方がお上がりになるには及ばぬことです。
どうか旗だけお貸し下さい。」
そう重ねて言ってくるので、隆景も然らば希望に任すべしと、
旗20本を貸し与えた。
また、宇喜多秀家の家老たちは、備前の片上まで秀吉を見送りし、
そこで暇乞いをして帰ろうとした時、
官兵衛は彼らからも、旗10本ばかりを借り受けた。
そして備前播磨までは旗を巻いていたが、兵庫あたりに来ると、
毛利、宇喜多から借り受けたこの旗たちを尽く張らせ、
秀吉の陣の先に立てた。
これは敵の方から物見が出た時、また合戦に望む時、
毛利、宇喜多の両家が秀吉に与し、
先手として上がってきたように見せれば、敵の気力が削がれ、
味方は勇を増す、という策略であった。
秀吉はこれを見て大喜びし、
「若き者共よ、ああ言う事を見て後学にせよ!
合戦というものは、はかりごとで勝つものである!
敵を斬り、首を取るなどというのはわずかなる匹夫の働きで、
誰にでも出来ることだ。
官兵衛の今の謀は、凡人の及ぶところではない。
あのような手立てを行うことこそ、誠の大切と言うべきものぞ!」
と激賞した。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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