井口家の四兄弟☆ | げむおた街道をゆく

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黒田官兵衛の家臣・井口与次右衛門には、四人の息子がいた。

秀吉の命で黒田軍が播磨長坪城を落とした時、

官兵衛は四兄弟の長男・猪之介と三宅藤十郎を留守居として城に残し、

他の城の攻略に向かった。
 

その夜、長坪城から逃げ落ちた兵たちが再び集まり、

城を取り戻そうと夜襲をかけて来た。

猪之介は、三宅に言った。
「攻め破ったばかりでロクな備えも無い、この城は長く持つまい。

幸い殿は、そう遠くに行っておるまい。

三宅、おぬしが囲みを突破して殿に知らせてくれ。」

三宅は二十人ばかりで包囲を抜けたが、そのスキに敵は城内になだれ込んだ。
わずかな手勢とともに残った猪之介は奮戦したが、ついに足を斬り落とされ、

石垣に寄りかからねば立てぬ程になった。

しかし敵はその気迫に呑まれ、近づこうとしなかった。

夜が明ける頃、ついに官兵衛の軍が救援に駆けつけたのを見届けた猪之介は、
「この城の大将、井口猪之介じゃ!首取ってみよ!」

と叫んで、自害した。

彼のすぐ下の弟・六太夫も別の砦を守り、見事な討ち死にを遂げた。


数年後のある日、官兵衛は罪を犯した家臣に刺客を向けた。
しかし、罪人は刺客を返り討ちにして、

仲間二人とともに屋敷に立て篭もった。

「拙者が、見て参りましょう。」
井口四兄弟の三男、甚十郎が名乗り出たのを、はじめ官兵衛は許さなかったが、
再三に及ぶ申し出に折れ、彼を差し向けた。

現場に着いた甚十郎は、門の横にある潜り戸をもぎ取り盾にして、

屋敷に飛び込んだ。
戸による体当たりで罪人のうち二人を吹き飛ばし、

ひるんだ残る一人を斬り倒した。
そのまま、吹き飛んで倒れたままの二人にもトドメを差した。

たちまち三人の首を獲り、意気揚々と馬にまたがった甚十郎の体に、衝撃が走った。
腹に槍が、刺さっていた。

屋敷に戻った罪人の従者が、主人の遺体を見て、甚十郎に襲い掛かって来たのだ。
返す刀で従者を切り捨てた甚十郎だったが、ついに力尽きて落馬し、戸板で官兵衛の
前に運ばれた。

官兵衛はヒザを枕にして甚十郎を横たえ、問いかけた。
「じ、甚十郎・・・こ、これはどうしたことじゃ・・・・・・」
「・・・かくの如くに、候。」 

一言だけ残し、甚十郎は息絶えた。


「兄弟三人が、わしのために死んでくれた。言葉もない、この通りじゃ。」
官兵衛は、四兄弟の父・与次右衛門の家に弔問に出向き、深く頭を下げた。
家には末弟・与一が残っていたが、まだ八歳であった。

与一は官兵衛に呼び出された。

「おまえの三人の兄は、みな尋常ならぬ勇士だった。
だが、人の性質は測りがたく、おまえもそうであるとは限らぬ。

ゆえに、試す。
おまえは、磔にされた者を見たことがあるか?」
「ありません。」与一は答えた。
「今夜は月夜じゃ。刑場に磔にされた者がおる。そこへ行き、磔柱に印を付けて来い。」
「わかりました。」

刑場へ向かった与一が、磔柱に印を付けようとすると、磔柱が動き出した。
「むっ、こやつ、まだしにきっておらぬか?とどめをさしてくれる!」
与一が柱に登り出すと、なんと磔にされた者が飛び降り、逃げ出した。
「まてー!にがさんぞ!」

「ま、待った!わしは殿の仰せで、おまえを脅かすために刑死者に化けておったんじゃ、
許せ!・・・おまえは子供なのに大した奴じゃ。これを持って、殿に見せて証拠にせい。」
罪人(?)は、白装束の片袖をちぎり、与一に渡した。

この話で、幼いながら家中に面目をほどこした与一は、のちに元服して兵助と名乗り、
他家にも名の知られる武辺となった。

 

 

 

戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。

 

 

 

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