信長は、天下人となった頃、ひとつのお触れを出した｡
｢信長と同年同月同日同時に生まれた者を探し尋ねる。｣
やがて見つかった者は極貧の男だった。
信長は言った。
｢わしは天下人でお前は極貧。同時に生まれながら随分と運命が違うな。｣
男は答えた。
｢いえ、上様と私の間にたいした差はありません。ただ一日の違いがあるだけです。｣
｢一日の違いだと？｣
｢はい。天下を保つといえども、
貧しさに苦しむといえどもそれは昨日までの過去のこと。
過去であるなら富貴、貧賤いずれも変わりません。
上様とて明日のことはわかりません。
ただ今日一日のみ上様は天下を楽しまれ、
私も今日一日のみ貧しさに苦しむのです。｣
信長は男の答えにもっともだと感心し、多くの衣服金銀を与えて帰したという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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