織田信長が、京都に滞在していた時、
嫡男である城之介信忠の事を人々に尋ねたことがあった。
内藤某というものがこれを承り、答えた。
「一段とご器用であると、人々は申しております。」
「それはどういう事か?」
「例えば御来客があって、この人には何を下さるべきだろうと、
各々が申し合わせると、
その結論と少しも違わず、御馬、或いは物の具、御小袖など下されます。」
これを聞いた信長はたちまち機嫌を悪くした。
「そんな事がどうして器用であるものか!
それこそ不器用というものだ。
なかなか私の跡を継がせるわけにはいけない!
下において刀を遣わされるだろうと予想したなら小袖を与えよ。
馬を下さるべしと思う者には代物を取らせよ。
この人には好物を遣わすべきと沙汰するなら、
金銀などを沢山取らせよ。
こういった事こそ国持たる大将の作法である。
例えば、敵を攻める時、
ここに攻め寄せてくるだろうと予想する所には出ず敵に骨を折らせて、
まさかここには出ないだろうというところに不意に出るようであってこそ、
利を得ることが出来るのだ。
敵が待ち構えている所に出ては、どうして勝利を手にできるだろうか?
総じて、器用だと評判の者は不器用であり、
分別があると評判の者は無分別である。
とにかく、予想外のことをして、
下々から積りを立てられぬようにするのが誠の大将なのだ。」
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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