信長が、一向一揆と戦っていた時の事、
一瀬久三郎と言う侍が、信長の兜をうっかり北向きに置いてしまった。
それに気がついた林佐渡守が叱責する。
「何をしておるか!早く向きを直さぬか!」
当時、兜を北向きに置くというのは、とんでもなく不吉なものだったのだ。
あわてて向きを直そうとする久三郎。
が、信長はそれを止めた。
「一揆勢はどこから来るのか解らんのだ!兜の向きなどどうでも良い!」
そう言って、北向きのままにさせておいた。
さて、その日の一揆勢との合戦で、久三郎は一番鑓の武功を挙げた。
信長は久三郎を呼び出しそれを褒めた。
すると久三郎、未だ北向きに置いてある兜を見てから、
「殿のおかげです。」
「今朝の事で、殿は、私の面目を潰さないようにしてくれました。
そのおかげで、気兼ねなく槍働きが出来たのです。」
そう言われて、信長もまた、喜んだと言う。
巷間言われているのとは違い、
信長という大将は、部下に細かい心遣いをする男であった。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
こちらもよろしく

ごきげんよう!