織田家と斎藤家が同盟を結び、
その証として信長のもとに濃姫(帰蝶)が嫁入りして、
しばらくした頃の話。
信長は、毎晩濃姫が寝入った時間を見計って寝所を抜け出して、
明け方に戻ってくること、一ヶ月に及んだ。
濃姫は信長が浮気していると思い、恨めしげにこう言った。
「私以外に好きな女性がいるなら正直に言って下さい。
私は少しも妬みませんよ。」
信長は、
「いや浮気ではない。実はわしにある秘密の作戦があるのだ。
そなたには関係ないことだから気にするな。」
とだけ言って作戦の中身を教えず、
また寝所を抜け出す日々がさらに一ヶ月続いた。
濃姫はこれは絶対浮気だと嫉妬に燃え、信長に激しく詰め寄った。
「私以外に好きな女性がいるなら、私を離縁して、
その女性のもとに行って下さい。
夫に愛されないとは実に恨めしく思います。」
信長は優しい口調でこう言った。
「わしとそなたの愛情は深いではないか。されど、秘密は秘密なのだ。
…しかし、そなたを悲しませるのは本意ではないゆえに秘密を打ち明けよう。」
秘密の作戦とは、
信長が美濃の斎藤道三の両家老と内応の手筈を整え、
「両家老が道三を殺すと夜中の2時に火を上げて信長に合図して、
織田軍が一気に美濃に攻め込む。」
という内容で、
信長が毎晩寝所を抜け出していたのは、
合図の火の手が上がったかどうかを確かめるためであった。
信長は濃姫に、
「愛するそなただけに打ち明けたが、絶対秘密だぞ。」
と念押しした。
しかし、父・道三が殺されるのを見過ごしにできない濃姫は、
信長の作戦の全てを密書に書いて父に知らせた。
そして、娘の密書を見た道三は両家老を処刑した。
信長の、思い通り。
実は、信長はまともに勝負しても勝ち目のない道三の戦力を削ぐために、
「斎藤家の両家老が内通した。」
というウソの作戦を、濃姫から道三に報告するように仕向けたのだ。
さすがのマムシの道三も、ソースが娘なら信じることも計算したのだ。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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