豊臣秀吉が名護屋に在陣していた時のある日、
陣屋を巡視していたが、ある小屋の庇に額が掲げられ、
「朧月夜」とあるのを見た。
秀吉はしばらく考えていたが、ふと、左右を顧みて尋ねた。
「これは誰の小屋か?」
「殿下の臣、野間藤六の小屋です。」
やがて小屋の主人、野間藤六が出て秀吉の前に平伏した。
秀吉は彼の姿を見るとうち笑って、
「汝は敷物が無いのか。」
そういうと畳に白米を添えて与えた。
これはこの額が、
『朧月夜に”しくものぞなき”』
という古歌によったものであると察したためであった。
またこれと同じ時に、
小屋場の僅かに空地のある場所に菜を植えている者を見て大いに賞賛し、
「永陣と見て退屈せずわずかの土地をも虚しくしない、
誠に武士の注意かくこそあらまほしけれ。」
と、その小屋頭を召して白米を与えた。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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