土屋検校という人は、お伽衆として武田信玄や織田信長、
北条氏政などの所に、
出入りしていたと言う人であった。
その検校にとある甲州の人が、
「信玄公が長生きすれば天下を取っていた。」
と、言った事があった。
これに検校、
「私も昔はそう思っていましたが、今ではそう考えなくなりました。
それは、このようなお話を聞いたからです。
かつて佐野天徳寺殿が、信玄、謙信にお目見えした時、
両人ともいかめしい挨拶で、
天徳寺殿は顔を上げて対面しようとしましたが、
両大将の威が強すぎてそれが出来なかったそうです。
そののち天徳寺殿が、秀吉公にお目見えした折は、
名を聞かれるとすぐに、やれ天徳寺参られたかと、傍によってきて、
『さても久しく会わなかったものだ。良く参られた。』
などとおっしゃって膝を叩き、事のほか御念の入ったお振る舞いで、
天徳寺殿も、しみじみと、秀吉公を大切な方と思われた、という事でした。
このような器量であってこそ、人も和し、天下もおのづから手に入るのでしょう。
信玄謙信とは、ものが違った。わたくしは、今はそう考えております。」
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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