師走のある日、
秀吉は新年を迎える為に庭の松の木を切っている、
幼い顔立ちの庭師を見ていた。
少しして、若い庭師の手が不自然に震えている事に気付く。
震えがあまりに続くので気になったのか、秀吉は庭師に近付いて行く。
その為か庭師は、手に持っていたハサミを落としてしまう。
それを見た秀吉は、
「急に仕事中の所に、近付いて申し訳無い。さあ、お仕事を続けなされ。」
と地面に落ちたハサミを拾って庭師に手渡した。
その瞬間、庭師は「父の敵!」と叫んでハサミの刃を、
秀吉に向けて刺そうとした。
が、秀吉は素早い身のこなしで刃を避け、
手刀でハサミを落とし、警護の侍に庭師の身柄を確保させた。
捕縛された庭師は涙を流しつつも、
「秀吉公の庭の手入れをする職人として従ったのも、
かつて戦で自分の父を殺した秀吉公へ、
仇討ちするつもりだったのに…。」
と、秀吉の命を狙った理由をひとしきり話した後、
大いに泣いたという。
それを聞いた秀吉は、
「そなたは親思いじゃのう…。」
と一言漏らし、庭師を放免した。
また、翌年も同じ庭師が植え込みの中に隠れているのが発見されたが、
秀吉は、
「そなたに斬られてやりたいが、そうもいかぬでな。」
と言い、その男に酒と金を与え、
「父を思うその気持ちは、一生持ち続けてくれ。」
と再び放免した。
やがて庭師は修験を重ね、豊臣家の安泰を願う一人となったという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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