ある時、徳川家康の厩が、破損した。
家康は、加賀爪忠澄に、その修繕を命じた。
家康の修繕に関する注文は、
家康らしいとしか表現しようのないものであった。
曰く。
「雨漏りがしていれば、そこだけ葺き替えよ。
壁が崩れているなら、そこだけ土をつけよ。
その他は何もしなくて良い。」
そんな家康の素っ気ない要求に、
それでは自分の技術が見せられないとでも思ったのだろうか、
加賀爪は、つい異見をしてしまった。
「殿! 今上方の諸大名は自分の厩には、夏は蚊帳を吊り、冬は馬に布団を着せて、
馬を愛されること一廉ならぬものがあります。
ところが殿の御厩はどうでしょうか?
戸口には藁むしろを掛け、
馬の餌は常に粗食を与えて飼っておられます。
これは殿ほどの方がなされるには、
あまりに粗相というものではないでしょうか?」
それに、家康は、猛然と反論。
「加賀爪よ!
武士が馬を養う目的は、その用に立たせるためだけであって、
外見を飾るためではないぞ!
わしが藁むしろを掛け粗食を与えている馬と、
他家の蚊帳を吊り布団を着せている馬と、
いざ合戦という時、
どちらがよく険しい山を登り激流を渡り、極寒酷暑を耐えると思うか!
よいか、お前は厩を作り馬を養うのに、決して上方風を学んではならぬぞ!」
と、固く命じたという。
そんな、ある種の様式美の完成すら感じさせる、徳川家康、加賀爪忠澄を叱る。と言うお話。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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