徳川家康がある時、この様なことを仰った。
「主君に対して、その政道の正しさをことさら取り上げ、
人々は善政に潤っています、などと言ってくる者が居る。
そんな者の言うことなど、全く聞くに及ばぬ!
少しであっても、その政道に対して異論が存在していれば、
主君は早々にそれを聞き出さねばならない。
『自分には誤りなど無い』
などといって聞き捨てにしてはならないのだ!
しかし、それを何者がそう言ったかなど、
糾明するような事もしてはならない。
主君の心ひとつに収めて、その異論をよく吟味し、
改めるべきところを改めるのだ。
物には思いもよらない事というものがある。
あの織田信長が、明智などにああも安々と討たれるなど、
一体誰が予想したであろうか?
また信長の織田一門は歴々たるものがあったというのに、
秀吉に主親の敵を討たせて、彼の風上に立ってしまった事など、
全く時の至というものであり、天が秀吉に与えた福というべきだろうか。
こういったことから解るのは、
例え天をも計り地をも察することができても、
計り難きは人の心なのだ。
だからこそ、仮初のことであっても、
主君たる者は心をかけて見聞きしなければならない。
主君や傍輩にも真実をつつみ隠すような佞奸の者は、
世の人々の見解を鏡として、早く退けるべきである。
どんな佞奸の者でも、
天下の見解まで包み隠すことは出来ないものだ。
また、主君に対しその様な異見が世間に存在することは、
決して恥ずかしいことではないぞ。」
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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