宇都谷峠の手前、宇都谷村立場の茶屋は昔はひどく貧者で、
馬の沓などを作って暮らしていた。
そこに神君が、大坂御陣のときに、その家で馬の沓を見たので、
神君自ら、
「ここの親父、沓一足くれよ。」
と仰せられた。
茶屋はかしこまりました、と沓を片方差し上げた。
「片方はどうしたのだ。」
とお尋ねがあると、
「片方は御帰陣のときに差し上げたいと思います。」
と申し上げると、神君は御喜悦で、
「出陣の吉事である。よく申した。何なりとも相応の望みを申せ。」
と上意があった。
「あなた様のめされています御羽織を拝領したい。」
と願われましたので、すぐに着られていた錦の御陣羽織を、その者に下されたという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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