上杉謙信が川中島で退けられ、越後へと撤退する最中のこと。
道中、野原を大河がどうどうと流れている。
往路にこんな河を渡ったか、謙信は驚き、
傍らに控えていた和田嘉兵衛という武士に、
「あれはなんという河か。」
と尋ねた。
「あれは、そば畑です。花の盛りなので、白波に見えるのでしょう」
嘉兵衛の答えに目を凝らすと、
確かに、そばの花が風にさらさらと揺らいでいるだけだった。
謙信は悔やんだ。
「ああ、一代の失言であったわ。
謙信ほどの大将が、この合戦で慌て、目がくらんで、そば畑を川と見間違えたよ、
と世間に語られることになる。不覚だった。」
大将たる人は、よくよくものを考え、口に出すべきで、
下郎のように口数を多くしていれば、軽く見られるものだ、と反省したという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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