村上義清が、信玄に敗れ越後に落ち延び謙信公に助力を願い出たときの事である。
義清、『この度、上田原の合戦で信玄に敗れ誠に無念の事。
この上は、何卒謙信公のお力添えを・・・。
ご助力を以って領地回復の暁には笠原の庄、木島という所を献上したします。』
謙信、『・・・武田がために国を追われるは貴殿の武略が足らぬため、
他力に頼らず貴殿の才覚で帰国すべきであろう・・・。』
謙信のまさかのこの返事に驚いた義清、少しむきになりながら、
義清、『これは義に篤いと音に聞く謙信公の言葉とも思えませぬ・・・。
たとえ頼まずとも隣国のよしみ、ご加勢下さるは武士の習い。
如何の思し召しで合力下されぬのか!』
と、問い詰める。
これに答えて謙信公。
謙信、『先ほどの貴殿の申し出・・・加勢すれば笠原の庄、木島を献上すると・・・。』
義清、『如何にも、そう申し上げた。』
謙信、『僅かな領地を欲し、
僅かな欲ゆえに貴殿の頼みを聞き入れたなどと世に思われるは当家の恥、弓箭の穢れでござる。その領地とて我が馬の飼料にも足らず・・・。
ただ一途の頼みなれば合力致そうが、欲のために味方致すは拙者には出来申さず。』
何気に酷い事言われながらも義清、自分の言葉を恥ずかしく思い、
しばらくうつむいたままであったが、
義清、『馬は疲れて毛長く、人は貧にして智短しの例え。
粗忽の一言は御免を蒙り是非にお救い願い奉る。』
と、頭を垂れて頼まれると謙信公は顔を和らげ、
謙信、『一旦は怒るといえども、強いて煩わしくも存じ申さず。
弓箭の義理なれば、必ずご加勢仕ろう。』
この答えに義清一党は安堵し、大いに悦びあったという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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