ビジョンとスローガンの違いとは何か? | Work , Journey & Beautiful

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職業柄、様々な組織の理念であるとか目標などを言語化する支援をさせていただいていますが、その際に使用される言葉として「スローガン」と「ビジョン」という言葉が良く使用されます。この言葉はどこか似たような文脈で使われることが多いのですが、その意味合いは微妙に異なるため、ここでどのような違いがあるのかを整理しておきます。

スローガンとは「キャッチ・コピー」である


そもそもスローガンとは、

企業や団体の理念や、運動の目的を、簡潔に言い表した覚えやすい句・標語・モットーのことWikipedia


とあります。つまりスローガンとは単に言葉であり、キャッチコピーです。ちなみに元々のスローガンの語源はゲール語で「鬨の声」(ウォークライ) を意味する「sluagh-ghairm」。いわば分かりやすさと伝わりやすさを重視した言葉をスローガンと呼びます。

さて、これは一体どういうことなのでしょうか?その解説をするためにはまずビジョンという言葉の意味を理解するところからはじめていきましょう。


ビジョンとは「戦略的な将来像」である


スローガンと似た言葉である「ビジョン」も様々なところで使用されます。

このビジョンとはそもそも何なのでしょうか?例えば将来に向けた達成したい目標であればそれは全てビジョンなのでしょうか?そもそも企業・組織におけるビジョンとは何のために必要なのでしょうか?

言葉の意味としてはビジョン(vision)とは「将来の構想・展望」ですが、経営的には様々な定義がなされています。例えばGlobisのMBA用語集では下記のようにvisionは説明されています。

経営理念のもと、自社の目指す将来の具体的な姿を、社員や顧客、社会に対して表したもの。経営理念が哲学的な概念であるとすれば、経営ビジョンは、企業の目指す姿・形の“Visible(目に見える)”なイメージであるといえる。企業が成長していく際には、組織の求心力を保つために、経営理念や経営ビジョンを通して経営スタンスを明確化することが不可欠である。また、経営理念や経営ビジョンはさまざまな戦略の前提となる。


日本語ではビジョン(vision)と呼ばれることが多いものですが、元々の英語ではVision statementもしくはStrategic planningと表現されることが多く、その説明としては下記のように説明されています。(出展はWikipedia

Strategic planning is an organization 's process of defining its strategy , or direction, and making decisions on allocating its resources to pursue this strategy, including its capital and people.
(中略)
Strategic planning is the formal consideration of an organization's future course. All strategic planning deals with at least one of three key questions
1."What do we do?"
2."For whom do we do it?"
3."How do we excel?"

Strategic planningとは組織の戦略・方向性・(資本や人に関するものも含んだ)投資意思決定プロセスを明確化するものである。またStrategic planningは組織の行く先についての正式な見解であり、全てのStrategic planningが下記の3つの重要な質問の答えにあたるものである。
1."我々は何をする組織か?(我々の事業とは何か)"
2."我々の顧客とは誰か?"
3."我々はどうやって差別化するか?"


このvision statement/Strategic planningの考え方こそが組織がビジョンを掲げるときにベースとなる考え方であると言えるでしょう。


ビジョンを掲げる時には注意が必要


スローガンは単にキャッチコピーであるため、分かりやすさ・伝わりやすさが重視されます。一方でビジョンはその特質上いくつか注意すべきことがあります。

特に重要なのは、ビジョンとは、1."我々は何をする組織か?(我々の事業とは何か)"2."我々の顧客とは誰か?"3."我々はどうやって差別化するか?という3つの重要な答えにあたるもの、であるとしている点にその本質が示されているという点です。

この3つを簡単に言い換えるならば、ビジョンとは「我々の組織は誰にどのような価値を提供し、どうやって勝っていくのか?」を指し示すものだと考えられます。そしてその言葉を聞けば一人一人が誰に何をしていかなくてはならないかが分かるものでなくてはならないのです。

ビジョンは戦略的なもの、つまり「勝つためのビジョン」でないのであれば、それは単なるスローガン(標語/キャッチコピー)でしかないのです。

さて、皆さんが所属する組織の目標・掲げている言葉はこの「勝つための」という側面も含めて設計された言葉でしょうか?もし、そうではなくただ単に聞こえのよい(イマドキな)言葉が単に並んでいるだけであれば、作成者(名づけ親)の自己満足でしかない、といっても過言ではないかもしれません。


実例に学ぶ優れたビジョンとは?




優れたビジョンを考察する上で最も参考になる例の一つが停滞するIBMを見事再建したルイス・ガーズナーがあげれられるでしょう。IBMは長年ハードウェアの覇者でしたが、それらの成功体験から抜け出せずに(特に日本勢に押されて)いた1993年、CEOに就任しルイス・ガーズナーが掲げたビジョンは「IBMはサービスである」でした。

その後IBMはハードウェア会社から見事ITソリューション企業へと変貌しました。結果として、メーカーの熾烈なハードウェア争いから抜け出し、ITを基軸としたコンサルティングやアウトソーシングを行うソリューションカンパニーとして独自のポジションを手に入れ、グローバル市場では圧倒的な力を誇っています。

このビジョンはそれまでの組織内に根付く価値観を払拭しただけではなく、時代の流れを先読みし、市場で勝ち抜くための道筋をシンプルかつ明確に示したという点で際立って優れたビジョンであるといえます。


日本企業に見る優れたビジョン


もちろん、日本にも素敵なビジョンを掲げた企業は存在しています。最後にそのいくつかをご紹介いたします。

ライフネット生命保険株式会社
ビジョン1:保険料を半分にするから安心して赤ちゃんを産んでほしい
ビジョン2:保険金の不払をゼロにしたい
ビジョン3:マイホームに次いで高い買物である生命保険は「比較して納得して入る」習慣を広めたい


株式会社スタートトゥデイ
スタートトゥデイがナチュラルな驚きや感動に満ち溢れた情報発信基地であること


トヨタ自動車株式会社
人々を安全・安心に運び、心までも動かす。
そして、世界中の生活を、社会を、豊かにしていく。
それが、未来のモビリティ社会をリードする、私たちの想いです。
一人ひとりが高い品質を造りこむこと。
常に時代の一歩先のイノベーションを追い求めること。
地球環境に寄り添う意識を持ち続けること。
その先に、期待を常に超え、お客様そして地域の笑顔と幸せに
つながるトヨタがあると信じています。
「今よりもっとよい方法がある」その改善の精神とともに、
トヨタを支えてくださる皆様の声に真摯に耳を傾け、
常に自らを改革しながら、高い目標を実現していきます。


池内タオル株式会社
トータル・オーガニック・テキスタイル・カンパニー
母親が自分の命より大切にする赤ちゃんに安全なタオルを届けたい


いかにして優れたビジョンを策定するか?


ストーリーテリングが経営を変える―組織変革の新しい鍵


ビジョンとはどのように描かれるものなのでしょうか。その一つの答えとして「物語(ストーリーテリング)」の効力が注目されています。論理的で客観的な事実に基づいたビジョン(勝つための将来像)は非常に分かりやすいものですが、その分他社からも模倣されやすく、3つの要件の一つである差別化するという要素に欠けています。

そこで、右脳的に物語の力を借りながら、時には一見他社からは不合理に見えるようなビジョンを掲げるという手法が注目されているのです。かの元GEのCEO、ジャック・ウェルチも「私が他の経営者よりも優れていたわけではない。ただ少し物語の力を使うのが人よりもうまいだけだ」といった趣旨の発言をしたと言われています。



<その他の参考書籍>
1.ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)



2.シナリオ・プランニング「戦略的思考と意思決定」