佐藤正午さんの小説『冬に子供が生まれる』。わかりやすい物語に飽きたあなたに | てっちゃんの明日を探して

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小説やドラマの感想、それと時事問題について、思ったことを書き殴るブログです。

佐藤正午さんは不思議な読後感の小説を書く作家さんです。

前作、直木賞をとった『月の満ち欠け』は生まれ変わりがテーマでしたが、今作も記憶の不思議を巡るファンタジックな物語となっています。

不思議も不思議、SFだし爆  笑

 

タイトルは『冬に子供が生まれる』。

 

あらすじはこちら下差し

その年の七月、丸田君はスマホに奇妙なメッセージを受け取った。
現実に起こりうるはずのない言い掛かりのような予言で、彼にはまったく身におぼえがなかった。彼が目にしたのはこんな一文だった。

今年の冬、彼女はおまえの子供を産む

これは未来の予言。
起こりうるはずのない未来の予言。
だがこれは、まったく身におぼえのない予言とは言い切れないかもしれない。
これまで三十八年の人生の、どの時代かの場面に、「彼女」と呼ぶにふさわしい人物がいるのかもしれない。
そもそも、だれが何の目的でこの予言めいたメッセージを送ってきたのか。
丸田君は、過去の記憶の断片がむこうから迫ってくるのを感じていた──。

三十年前にかわした密かな約束、
二十年前に山道で起きた事故、
不可解な最期を遂げた旧友……
 

佐藤さんの7年ぶりの新作長編、それも直木賞受賞後第一作だからか、編集者も気合い入ってんなアセアセ

あらすじはさらに長く続くんだけど割愛します。

 

この小説は、丸田くんを含めた3人の少年の、8歳、18歳、38歳を描いています。

 

8歳のとき、丸田くんは友達2人と一緒にUFOを見ました。

というと、あなたが今頭に思い浮かべたようなことを周りは思う。

作中でも、周りの大人も子どもも彼らの言葉をまったく信用せず、バカにするか、怒るか、無視するか、ネタとして消費するか、でした。

そこで彼らは教訓を得る。

「特別な経験をすると(他人に話すと)友達がいなくなる」

思えばこれが、10年後の出来事が悲劇となった遠因かもしれません。

彼らは「特別な経験」を、親にも恋人にも教師にも言えず、彼ら同士で話し合うこともしなかったからです。

 

もうひとつの悲劇の遠因は、丸田くんの親友のひとりは、同じ丸田という姓で、顔立ちも、背格好も、着ているものも、丸田くんとよく似ていた、ということです。

このことが事態をややこしくした。

みんなの中に「どっちがどっちかわからない」という混乱が生まれたのです。

 

さて、18歳の彼らは、大学進学の直前、8歳の頃の彼らの話をもとに「UFOの子どもたち」という記事を書いた記者に連れられ、車でUFOを見た山に向かいます。

ところが、そこで自動車事故が起こってしまうんです。

記者と、彼らに同行した教師は、この事故で死亡します。

彼ら3人は、車ごと崖から転落したのに、なぜか軽症で済んでしまいました。

よかったね。

では済まされません。

この事故をきっかけに不思議な現象が起こり、丸田くんと親友の丸田くんは、輝かしい未来が待っていたはずの人生をねじ曲げられてしまうんです。

いや、2人の丸田くんだけじゃない。

一緒にUFOを目撃し、事故にあった佐渡くんの人生も、3人と仲良しで丸田くんの彼女だった杉森さんの人生も、ねじ曲げられてしまいます。

もっといえば、この3人と関わる小学校と中学校の担任教師の人生も変わっていく。

 

不本意な人生が20年続き、親友のほうの丸田くんが死んだとき、残された人々はたくさんの謎と向き合うことになります。

結局、8歳のときと18歳のとき、3人が見たものはなんだったのか。

「丸田くん」とは「誰」だったのか。

20年ぶりに再会するよりも前に身ごもっていた「彼女」の子どもが、なぜ丸田くんの子どもだと言われるのか。

親友の丸田くんはなぜ死んだのか。

いや、本当に「死んで」いるのか。

 

最後の最後まで「これが真実だ!!」というはっきりしたオチはつきません。

思わせぶりな記述の連続にイライラする人もいるでしょう。

でも、読者が丹念に文章をたどっていけば、結末を見つけることができます。

その結末は、読んだ人みんなが同じではないかもしれない。

けど、決して悲しくはない結末だと思います。

だって、人生を20年もムダにしたのに、大切な人を長い間悲しませたのに、親友を失ったのに、父親から暴行を受け「オマエがいると迷惑だ」とまで言われたのに、丸田くんにはまったく悲壮感がないんですから。

本当、不思議な読後感としか言えない小説です!

 

俳優の松重豊さんが「見た人全員が『泣けた!』としかいわないようなものを、表現としてやる意味があるのか」と言ってましたが、私もまったく同感!!です。

何人もの観客に「泣けました~」と言わせるCMを打つ映画なんて、ロクなもんじゃない!

私なら、それだけで絶対見ないショボーン

この小説は、その対極にあります。

自分で考え、感じ取る小説。

でもちっとも難しくはない。

1から10まで説明してくれて、倍速でみても内容がわかるような、単純かつわかりやす~~~い物語に飽きた方におすすめです照れ

 

あ、そうそう。

親切と見せかけて佐渡くんにさまざまなプレッシャーをかけ、イヤな噂話を尾ひれをつけて広める同級生の松本!

こういう醜悪な男、田舎にいるいる!!!

誰もがみんなのことを知っている田舎によく生息する生き物爆  笑

これだから地方から若い女性がいなくなるんだよなあ滝汗