冥王星艦体の旗艦「ラブリズム」の司令室には、冥王星要塞の起爆スイッチが要塞より持ち込まれていた。このスイッチのセーフティー解除キーは2つで、ツー・中村とバリ・ストームが持っていた。
ツー・中村は、自らがレーザーガンで射殺した倒れるバリ・ストームの内ポケットから解除キーを取り出した。そして、自分が持つキーと合わせてスイッチに取り付けた。
『柴田首相。これでスイッチはいつでも使えます。今度こそ、タイミングを誤らないでください。私は、このバリ・ストームの処置をする為しばらくここを外します。』
そう言って、ツー・中村は柴田幸の許可を得る前にバリ・ストームを担いで一人司令室を出ていった。司令室に残されたのは柴田幸、ユイ・フォン、ユーカ・ビートの3人になった。3人はなにも話すことなくメインスクリーンに映る映像を1時間ほど見ていた。
連合艦隊2500隻は冥王星要塞へ辿り着き、要塞およびその周辺宙域の掌握を完了した。冥王星軍から見れば、予想されたタイミングでの要塞空け渡しであった。しかし、そのタイミングの随分前に連合軍の要塞掌握は終了していたのであった。
『それにしても大したものだ。ワッツの部隊は。』
『当然だ。ヒーロよ、俺らは軍特別部隊なんだ。これぐらいのことは朝飯前だ。』
『主砲級の射撃でも寸分違わず、俺のいらなくなった無人の艦体だけを打ち抜くのだからな。それに、今は1000隻の艦をたった3人で操ってやがる。恐るべき特殊工作の技術力だな。』
『ま、うちもすごいが、お前さんとこのユーリ大将ほどじゃない。どうだ、あいつの描いた絵は、今回も傑作になりそうか。』
ワッツ・ワインは、もう勝利の美酒に酔っていた。その隣で肩を並べるヒーロ・ハルは、ユーリ・ザックが描いた絵の完成画を知っている。だが、今それを口にしてしまうのは面白みにかけると思った。
『ワッツ。お前にももう見えるだろう。最高傑作が。』
要塞サブブリッジは既にお祭りモードだった。ニダ・ダックと硯一理は、メインブリッジから呼び出したミン・ロネンと雑談で盛り上がっていた。ミン・ロネンは終始あらゆる事情を知らなかった。冥王星国家なんて話は、柴田幸のいつもの夢物語ぐらいにしか受け止めていなかったのだ。仕事をしてお金が稼げればそれでよかったのであった。彼女は今回の事件によって罰せられることはなかった。
流不落は、未だ自席でプログラムを動かし続けていた。最後のしめくくりをきっちとする為に。そしてもう一人、本来であればこのサブリッジにはキー・ガッツという男もいるはずだった。しかし、彼はバリ・ストームが柴田達に連れて行かれる際にその姿を消してしまった。要塞内がくまなく探索され、脱出艇で抜け出したことがログで判明した。
会戦宙域にいる冥王星軍内で異常を最初に気付いたのはツー・中村であった。自らの手で殺してしまったバリ・ストームの遺体をかかえ医療室にいった。医療室に着いたが、人の気配が感じられなかった。ドクターもいなければ、ナースもいなかった。そういえば、この医療室に来る際、誰かとすれ違っただろうか。いや、誰とも会っていない。バリ・ストームを医療室のベッドに寝かせ、急いで操縦室へ向かった。
『い、いない。誰もいない。』
ツー・中村が入った操縦室には誰一人いなかった。メインコントロール席へ行き手元のコンソールを確認すると、旗艦が遠隔操作されているのがわかった。そして、各艦への連絡の為、ダイレクト通信で主要各艦をコールしたが、どこからも応答がなかった。司令室からは確かに連絡が取れていたのに。だが、少し振り返ってみるとおかしなことだらけだったことに気付いた。
『この艦隊は多数艦あれど、自分達4人以外誰もいない。』
どうしてこうなったかは思いもよらないことだったが、辿りついた結果は間違いないことだとはっきりとわかった。急いで柴田幸に知らせる必要があると司令室へ走っていった。
海賊船団は冥王星艦隊の後方にいたが、連合艦隊が要塞と周辺宙域を掌握するのを確認するとゆっくりと冥王星艦体から離れ宙域から消えていた。ただ、海賊船団の旗艦だけは別路を辿り、要塞周辺宙域に展開する連合第9艦隊旗艦の横に移動してきていた。
『どうだ。久々の大所帯。戦いがなかったとはいえ、指揮するのは大変だったろう。』
第9艦隊指令シュー・ツカサは、ダイレクト通信でつながる海賊船団団長に言った。そしてウーミ・ライ団長の傍らにいた海アスカが口を挟んだ。
『シュー。大丈夫だよ。私達3姉妹の腕は錆びちゃいないさ。なあウーミ・ライ団長。』
ウーミ・ライは、実は海未来であった。海アスカと海かほりの3人で海賊船団をすべて取り仕切っていたのであった。
『やめてくれよ。アスカ姉。シュー兄の女房であるアスカ姉の顔が軍関係者に割れてるから代わりに団長やってあげただけじゃないか。』
『まあ、とにかく未来ありがとさん。かほりもな。』
『ところで、今回あんたなんにもしてないじゃないか。』
『アスカ。そんなことない。やってなさそうに見えただけだよ。・・・。』
『やっぱり、なんもないんじゃないか。後が続かないのが証拠だよ。』
シュー・ツカサは苦笑いした。今会戦ではたしかに彼の器からすると大したことはやっていない。しかしそれでも、細々と手を回していたのであった。第9艦体の指揮はいつものことだが、それに加えフミ・エリックが指揮官代理を務めた第4艦体のフォローと、無人化した第10艦体の遠隔指揮もあった。それもこれも、ユーリ・ザックが会戦初戦後に変なことを言い出したからだった。
『柴田みたいな馬鹿を相手にすると、余計なことも考えておかなければならなくて大変だったよ。頭を使い過ぎた。後は全部任せるので、自分は寝るよ。シュー、大将からの宿題忘れると面倒だぞ。だから第4も任す。』
初指揮をとったフミ・エリックは、若干の修正どころはあるが優秀だった。さすがに爺のところで鍛えられただけはあるとシュー・ツカサは感心した。ま、それでも第4艦体には運用主にジョン・キーエがいたわけだからできて当然のことだったのかもしれないとも思った。なんにせよ、大将からの宿題はクリアできたことで一安心した。
ヒーロ・ハルは、要塞内サブブリッジのスクリーンの一つで映像を見ていた。
『2回目はこれを流したのか。』
その映像は、会戦初戦の映像に少し手を加えただけのものであった。冥王星の会戦は3回と誤認されていたが、実際には2回だけであった。一回戦は冥王星軍に軍配があがった戦いで、連合艦隊を冥王星要塞主砲射程に包囲と誘導で追い込み連合第10艦隊を全滅させたものだった。二回戦は同じ作戦でさらに成果を得た戦いではなく、柴田幸自らが出陣した戦いであった。ヒーロ・ハルが見た映像は、その一回戦の映像をリメイクし2回目の戦いとして柴田らに偽装して見せたものだった。微妙な陣形の加工や各艦の移動スピードの編集、要塞主砲で消失する艦体の加工が行われていた。
柴田幸が要塞自爆の機動スイッチを押したのは、ツー・中村が司令室に戻る前であった。ツー・中村は、柴田幸に起爆の中止をさせ、連合軍に自らとともに投稿させるつもりでいた。だが、それは叶うことはなかった。ツー・中村が司令室に入った時には、起爆スイッチは既に押されてしまっていた。
『見ろ。ツーよ。要塞が光・・・。な、ななに。』
司令室にいた全員はメインスクリーンに映し出される光景をみて絶望した。要塞が一瞬光った後に映し出されたのは、主砲照射による光量であった。一瞬のできごとであるはずが彼らにとってはスローモーションに感じられた。要塞が爆発する筈の起爆スイッチを押したのに、結果は柴田達が搭乗する艦隊への要塞主砲発射だった。
すべてはユーリ・ザックが仕掛けた演出だった。だが、当初の作戦では旗艦にあてることはなくあくまで威嚇のみをする予定であった。要塞主砲は威嚇などではなく旗艦を打ち抜いた。流不落は、柴田幸らは死をもって罪を償うべきだと考えた。流不落が描く正義には首謀者が生きて罪を償うという考えはなかった。ユーリ・ザックが当初描いて予定を曲げ、主砲が旗艦を打ち抜くようにプログラムの変更を行っていた。
だが、ユーリ・ザックの作戦はそのブレをも吸収し新たな展開を予見していた。フミ・エリックからの作戦変更報告によって、その予見は連合司令達には伝達されていたのである。
新たな展開を発起したのはキー・ガッツであった。彼は柴田幸のみを旗艦より助け出したのだ。
彼らの行き先はアンドロメダ星雲であった。アンドロメダ国家との対立などは柴田幸によるまったくのデマであったが、一部の者と内通していることは真実であった。柴田幸とキー・ガッツは今、そこへ落ちて行くのであった。冥王星艦隊の旗艦でせまりくる要塞主砲をどうやって柴田幸のみが逃れたのかは明かされることはなかった。主砲により焼失した柴田幸を除く首謀者達は連合軍名簿より永久に抹消された。
こうして冥王星会戦は終焉した。死者は6名。いずれも柴田幸によって運命を弄ばれた者たちばかりであった。焼失した艦体は2000隻。そのほとんどが老朽化し最新艦におきかえが予定されていたものばかりであった。地球連合の戦力は落ちることなく反乱を鎮圧することに成功した。
柴田幸の逃亡をフミ・エリックから聞いたユーリ・ザックは、戦略予報の的中には満足をした。しかし、柴田幸を逃すことによってシーマ・ティーチ首相に応えはしたが、なにか大事なことを先送りにしてしまったような後悔をまた感じていた。ただ、それでも連合軍の戦略を知らされていた誰もがユーリ・ザックの最高傑作に魅了された。
「フミ、しばらくは冥王星要塞においとまさせてもらおう。」
柴田幸の独裁で地球連合国家に反旗を翻した冥王星国家首謀者達は、冥王星艦隊の旗艦に搭乗していた。旗艦の名は、柴田幸によって元の名「ブリッジプラネット」から「ラブリズム」という名に変更されていた。旗艦操縦室と司令室は分けられている。彼ら首謀者達は、この司令室にいた。バリ・ストームは操縦室にいることで自分の能力が発揮できると主張したが、柴田幸がそれを却下した。そして、それをツー・中村経由で指示した。バリ・ストームにとって、柴田幸は政治家以外の何者でもなかった。軍事行動においては、軍自体にその全権を託すことが当然であると考えていた。軍の本質を理解しない者が権力だけで出しゃばる悪質を見逃してはならなかった。柴田幸のような男は、その野心とともに椅子に座って戦況さえ見守っていればよいのだ。ツー・中村を軍総指令官に任命し軍を陰から動かせしていればよいのだ。根拠もない思いつきで間違った作戦を立てられては命をかけて戦う意味はなかった。上官であるツー・中村が訂正なり進言してくれることを期待していたが、それは彼の行動を見る限り望めなかった。だから、バリ・ストーム自身にふってきた柴田幸の間違った命令には最後まで食ってかかることにしていた。しかし、そうは言っても軍規律は厳守している。ツー・中村の命令は、軍組織として上官の命令に当たり従わざるを得なかった。
『ツー大将。海賊団の宙域展開はどうなっている。』
要塞主砲射程外に2500隻の連合艦体が展開していた。それに対し、冥王星艦隊は安全圏内である要塞主砲射程内に1000隻を展開していた。そして海賊船団の合計が約2000隻で、冥王星軍としては計3000隻となり、数値の上では連合軍を上回ることになった。要塞主砲とこの艦体数があれば絶対的有利は揺るがないと柴田幸は思っていた。
連合艦隊の宙域展開は、要塞主砲射程を考慮する為、弧を描くように広く薄い陣形をとっていた。一方の冥王星軍の陣形は、各戦艦どうしが規則正しく並んでクモの巣のような陣形をとっていた。海賊船団はその陣形の外側に海賊団ごとに無造作に陣を展開していた。ちなみに、この布陣は先の2回の戦いでとった陣形と変わらなかった。戦術に特化した陣形であり、包囲・誘導が目的の戦いであれば効果は絶大であるが、今回の艦体戦では有効な陣形であるとは言えなかった。しかし、艦体戦自体を甘く見ている無知な柴田幸が指令を出しているので、そのことを指摘する者はいなかった。
『柴田首相。海賊船団よりの報告です。開戦は海賊団が速攻をかけるとのことです。敵陣中央を分断するので後はこちらに任せるとのことです。いかがなさいましょうか。』
ツー・中村は、ウーミ・ライ団長からの通信を分かりやすく柴田幸に説明した。実際の通信内容には、具体的な時刻や船団の動きなど、作戦の詳細まであったのだが、それをそのまま報告することで被る面倒が大きかったので要約して報告した。柴田幸という男は、意味もなく細かい修正をすることが好きな男であった。それが間違いを正す為のものであればなんら問題視することもないのだが、専門家が見て絶妙にバランスのとれたことでも自らの思いつきと根拠のない感覚だけで手を加えてしまう。そして、自分のオリジナルだと言い出すのである。だが、その柴田オリジナル案の結果は常に失敗で終わっていた。過去何度となくそういった失敗を繰り返してきた柴田幸だが、本人は自分に原因があることを認めず理解することはなかった。自分以外の周りに原因があるとし、自分にいいように捉え直すことで、ここまで幾多の窮地を乗り越えてきていた。自分にすら嘘をつける男なので、相手をだますことにかけては、連合国家において右に出るものはいなかった。とは言え、連合国家におけるアンドロメダ貿易管主任としての地位に就つけたのは、その特技を発揮したからではなく親の権力が全てであった。地球連合首相シーマ・ティーチは、柴田幸の資質を当の昔から見抜いていた。しかし、連合国家の礎をともに築いた柴田の父の頼みを簡単に拒否することはできなった。アンドロメダとの交友も良好で、また貿易自体は過去の偉大なる先人達によってマニュアル化されていたので、能力の劣る柴田幸であっても十分にやっていけることを見越しての人事であった。それが柴田幸の着任後から徐々に貿易の収支は下降線をたどり、また良好であったアンドロメダとは対立しかねない状況にまで陥ってしまうことになった。シーマ・ティーチは政治に私情を持ち込んでしまったことを後悔していた。既に柴田の父には彼の反逆行為を伝え、処分はいかようにもという返事をもらってはいるが、命の保証だけはさせられていた。柴田幸には、小さい頃から面倒ばかりかけられていた。子供の内はそれでも良かったのだが、それがそのまま大人になり、ここまで事が大きくなってしまっては救いの手を差し伸べることはできない。冥王星会戦は、ユーリ・ザックに一任した。後は彼がどういう裁きを下すのかそれを見守るしかないと思った。
冥王星艦隊の旗艦司令室では、柴田幸が思い通りにならなかった海賊団を許せずにいらいらを爆発させていた。ツー・中村をしかりつけ作戦の停止を命令したが、そうこうしている間に海賊船団は、連合艦隊の中央部に束になって速攻をしかけていった。速攻はその目的を果たした。連合艦体自体への物理的ダメージは加えられなかったが、艦隊を左右に分断することに成功した。この成功で、後は分散された片側ずつを各個撃破すれば勝利は確約されていた。仮に連合艦隊が中央に集結したとしても、その場合は中央を突き抜け、連合艦体の後方まで回り冥王星軍は前後からの挟み撃ちを実行することができた。ただ、連合艦隊が中央集結するには布陣が左右に広く展開し過ぎていた。連合艦隊が取りうる最善は、分断された部隊で集結し、さらなる分断を繰り返さない準備をすることだけだった。この状況で冥王星軍が次にとるべき展開は誰がみても明らかだった。だが、柴田幸だけは違った。
『次は、どうしたものか。やっかいなことをしてくれたな海賊団どもよ。せっかくの勝利が遠ざかってしまったではないか。』
バリ・ストームは呆れて何も言えなかった。ツー・中村はまたしても分かりやすく状況から次の行動案まで説明しようとした。
『ツー大将。少し黙っていてくれないか。これほど悩むとは思わなかった。やってみると意外に難しいものだな艦体戦は。』
バリ・ストームは、柴田幸にも聞こえるように次の行動をツー・中村に促したが、ツー・中村は上下からのプレッシャーを感じて萎縮するばかりであった。
『艦隊は動かすな。初手に失敗したのだ。次の作戦案を考えるまでは身動きしない方がいい。』
柴田幸は、この会戦宙域において一番の間の抜けた男となった。あと一歩というところまで来ている戦況に気がつかず、無謀この上ない作戦に辿りついた。
『よーし、良い作戦を思いついた。皆聞いてくれ。』
『これでも既にタイミングを逃していると思います。連合艦体左翼への集中攻撃でよろしいですね。』
ツー・中村は本来指示されるべき作戦を言った。ところがそれは柴田幸の意図しているものとは全く違っていた。
『ツー大将、誰がそんなことを言った。違うよ。なにを言っているんだ。こちらも海賊団の後を追って中央を突き抜けるぞ。いそげ。』
柴田幸のその命令によって、無謀にも冥王星艦隊は、連合艦隊の中央を突き抜けた。海賊団もそれに呼応し冥王星軍すべてが連合艦隊の背後に回ることになった。連合艦隊は突破された中央を塞ぎ、左右に広がっていた陣形から中央集結型の陣形に展開した。これによって、分散部隊の各個撃破も前後からの挟み撃ちの機会も完全に逸してしまった。
『柴田首相。背後をとることに成功しました。作戦の続きを。』
ツー・中村の頭の中にふと不安がよぎった。まさか、要塞主砲と当軍とで前後から挟み撃ちにしようとでも考えたのではないか。それは無理だ。主砲の火力では背後にいる当軍も消滅してしまう。それに主砲はあと1発しかない。挟み撃ちは無理だろう。
『ツー大将。要塞サブブリッジへ指示を出せ。いや、こちらでもコントロールできるはずだ。要塞を自爆させる。』
『柴田首相。それでは私達が戻る場所がなくなってしまいます。』
『それは心配ない。既に手は打ってある。あんな要塞程度のものは捨ててしまっても問題ない。それに、要塞をエサにすることでやつらに隙をあえて与えてやった。これでやつらは要塞主砲の死角を突き、要塞奪取を図るだろう。敵全艦が要塞に入港したら、一網打尽、ボンっ!だよ。わかるだろツー大将。』
『そ、それでは話が違う。』
バリ・ストームは怒鳴り、柴田幸を睨んだ。
『私があなたの陳腐な夢につきあったのは、冥王星要塞あってのことだと言ったはずだ。それを破壊するだと。馬鹿なことをいうんじゃない。もう我慢できない。連合艦隊に突き出してやる。』
バリ・ストームは、制止するツー・中村を振り切って柴田幸に殴りかかった。が、バリ・ストームの拳が柴田幸に当たる前に、ツー・中村のレーザーガンの光線が、彼の心臓を斜めに貫いた。
『馬鹿な・・・。こんなところで朽ちる為に、お前らのくだらない・・・』
怒りも後悔も吐き出すことなくもんどり打ってバリ・ストームは地に倒れた。
『ツー大将。海賊団の宙域展開はどうなっている。』
要塞主砲射程外に2500隻の連合艦体が展開していた。それに対し、冥王星艦隊は安全圏内である要塞主砲射程内に1000隻を展開していた。そして海賊船団の合計が約2000隻で、冥王星軍としては計3000隻となり、数値の上では連合軍を上回ることになった。要塞主砲とこの艦体数があれば絶対的有利は揺るがないと柴田幸は思っていた。
連合艦隊の宙域展開は、要塞主砲射程を考慮する為、弧を描くように広く薄い陣形をとっていた。一方の冥王星軍の陣形は、各戦艦どうしが規則正しく並んでクモの巣のような陣形をとっていた。海賊船団はその陣形の外側に海賊団ごとに無造作に陣を展開していた。ちなみに、この布陣は先の2回の戦いでとった陣形と変わらなかった。戦術に特化した陣形であり、包囲・誘導が目的の戦いであれば効果は絶大であるが、今回の艦体戦では有効な陣形であるとは言えなかった。しかし、艦体戦自体を甘く見ている無知な柴田幸が指令を出しているので、そのことを指摘する者はいなかった。
『柴田首相。海賊船団よりの報告です。開戦は海賊団が速攻をかけるとのことです。敵陣中央を分断するので後はこちらに任せるとのことです。いかがなさいましょうか。』
ツー・中村は、ウーミ・ライ団長からの通信を分かりやすく柴田幸に説明した。実際の通信内容には、具体的な時刻や船団の動きなど、作戦の詳細まであったのだが、それをそのまま報告することで被る面倒が大きかったので要約して報告した。柴田幸という男は、意味もなく細かい修正をすることが好きな男であった。それが間違いを正す為のものであればなんら問題視することもないのだが、専門家が見て絶妙にバランスのとれたことでも自らの思いつきと根拠のない感覚だけで手を加えてしまう。そして、自分のオリジナルだと言い出すのである。だが、その柴田オリジナル案の結果は常に失敗で終わっていた。過去何度となくそういった失敗を繰り返してきた柴田幸だが、本人は自分に原因があることを認めず理解することはなかった。自分以外の周りに原因があるとし、自分にいいように捉え直すことで、ここまで幾多の窮地を乗り越えてきていた。自分にすら嘘をつける男なので、相手をだますことにかけては、連合国家において右に出るものはいなかった。とは言え、連合国家におけるアンドロメダ貿易管主任としての地位に就つけたのは、その特技を発揮したからではなく親の権力が全てであった。地球連合首相シーマ・ティーチは、柴田幸の資質を当の昔から見抜いていた。しかし、連合国家の礎をともに築いた柴田の父の頼みを簡単に拒否することはできなった。アンドロメダとの交友も良好で、また貿易自体は過去の偉大なる先人達によってマニュアル化されていたので、能力の劣る柴田幸であっても十分にやっていけることを見越しての人事であった。それが柴田幸の着任後から徐々に貿易の収支は下降線をたどり、また良好であったアンドロメダとは対立しかねない状況にまで陥ってしまうことになった。シーマ・ティーチは政治に私情を持ち込んでしまったことを後悔していた。既に柴田の父には彼の反逆行為を伝え、処分はいかようにもという返事をもらってはいるが、命の保証だけはさせられていた。柴田幸には、小さい頃から面倒ばかりかけられていた。子供の内はそれでも良かったのだが、それがそのまま大人になり、ここまで事が大きくなってしまっては救いの手を差し伸べることはできない。冥王星会戦は、ユーリ・ザックに一任した。後は彼がどういう裁きを下すのかそれを見守るしかないと思った。
冥王星艦隊の旗艦司令室では、柴田幸が思い通りにならなかった海賊団を許せずにいらいらを爆発させていた。ツー・中村をしかりつけ作戦の停止を命令したが、そうこうしている間に海賊船団は、連合艦隊の中央部に束になって速攻をしかけていった。速攻はその目的を果たした。連合艦体自体への物理的ダメージは加えられなかったが、艦隊を左右に分断することに成功した。この成功で、後は分散された片側ずつを各個撃破すれば勝利は確約されていた。仮に連合艦隊が中央に集結したとしても、その場合は中央を突き抜け、連合艦体の後方まで回り冥王星軍は前後からの挟み撃ちを実行することができた。ただ、連合艦隊が中央集結するには布陣が左右に広く展開し過ぎていた。連合艦隊が取りうる最善は、分断された部隊で集結し、さらなる分断を繰り返さない準備をすることだけだった。この状況で冥王星軍が次にとるべき展開は誰がみても明らかだった。だが、柴田幸だけは違った。
『次は、どうしたものか。やっかいなことをしてくれたな海賊団どもよ。せっかくの勝利が遠ざかってしまったではないか。』
バリ・ストームは呆れて何も言えなかった。ツー・中村はまたしても分かりやすく状況から次の行動案まで説明しようとした。
『ツー大将。少し黙っていてくれないか。これほど悩むとは思わなかった。やってみると意外に難しいものだな艦体戦は。』
バリ・ストームは、柴田幸にも聞こえるように次の行動をツー・中村に促したが、ツー・中村は上下からのプレッシャーを感じて萎縮するばかりであった。
『艦隊は動かすな。初手に失敗したのだ。次の作戦案を考えるまでは身動きしない方がいい。』
柴田幸は、この会戦宙域において一番の間の抜けた男となった。あと一歩というところまで来ている戦況に気がつかず、無謀この上ない作戦に辿りついた。
『よーし、良い作戦を思いついた。皆聞いてくれ。』
『これでも既にタイミングを逃していると思います。連合艦体左翼への集中攻撃でよろしいですね。』
ツー・中村は本来指示されるべき作戦を言った。ところがそれは柴田幸の意図しているものとは全く違っていた。
『ツー大将、誰がそんなことを言った。違うよ。なにを言っているんだ。こちらも海賊団の後を追って中央を突き抜けるぞ。いそげ。』
柴田幸のその命令によって、無謀にも冥王星艦隊は、連合艦隊の中央を突き抜けた。海賊団もそれに呼応し冥王星軍すべてが連合艦隊の背後に回ることになった。連合艦隊は突破された中央を塞ぎ、左右に広がっていた陣形から中央集結型の陣形に展開した。これによって、分散部隊の各個撃破も前後からの挟み撃ちの機会も完全に逸してしまった。
『柴田首相。背後をとることに成功しました。作戦の続きを。』
ツー・中村の頭の中にふと不安がよぎった。まさか、要塞主砲と当軍とで前後から挟み撃ちにしようとでも考えたのではないか。それは無理だ。主砲の火力では背後にいる当軍も消滅してしまう。それに主砲はあと1発しかない。挟み撃ちは無理だろう。
『ツー大将。要塞サブブリッジへ指示を出せ。いや、こちらでもコントロールできるはずだ。要塞を自爆させる。』
『柴田首相。それでは私達が戻る場所がなくなってしまいます。』
『それは心配ない。既に手は打ってある。あんな要塞程度のものは捨ててしまっても問題ない。それに、要塞をエサにすることでやつらに隙をあえて与えてやった。これでやつらは要塞主砲の死角を突き、要塞奪取を図るだろう。敵全艦が要塞に入港したら、一網打尽、ボンっ!だよ。わかるだろツー大将。』
『そ、それでは話が違う。』
バリ・ストームは怒鳴り、柴田幸を睨んだ。
『私があなたの陳腐な夢につきあったのは、冥王星要塞あってのことだと言ったはずだ。それを破壊するだと。馬鹿なことをいうんじゃない。もう我慢できない。連合艦隊に突き出してやる。』
バリ・ストームは、制止するツー・中村を振り切って柴田幸に殴りかかった。が、バリ・ストームの拳が柴田幸に当たる前に、ツー・中村のレーザーガンの光線が、彼の心臓を斜めに貫いた。
『馬鹿な・・・。こんなところで朽ちる為に、お前らのくだらない・・・』
怒りも後悔も吐き出すことなくもんどり打ってバリ・ストームは地に倒れた。
連合軍の総司令官は、自室のデスクに足を投げ出し椅子で眠っていた。フミ・エリックは物音を立てないように、デスク脇にある通信機で戦況の連絡を受けた。
『私が今からそちらに行きます。総司令官から新しい指示を受けていますので。』
フミ・エリックは小さな声だがはっきりと言った。そして、眠っているユーリ・ザックを一度見て、第4艦体旗艦のメインブリッジへ向かった。
第9艦体旗艦のメインブリッジではシュー・ツカサが暇を持て余していた。当会戦における彼の役目は、艦体運用だけで最前線での戦いは作戦中に用意されていなかった。初戦にせよ、宙域に一度は第9艦体を進めたものの、直ぐに後退し、その後の戦況を見守るだけだった。
『今回は、ヒーロに譲っておくか。』
連合軍の損失は第10艦体1000隻だった。この数は第10艦体全滅を意味していた。当会戦に参戦している連合艦隊は、1500隻の第4艦隊、1000隻の第9艦隊と第10艦体の3艦隊であった。その内の1艦隊が全滅したのだが、当の連合軍にはなんらの焦りは見えなかった。
第10艦隊指令のヒーロ・ハルは、部下の枝見一樹少将とミーティングルームへ向け歩いていた。二人が入ったミーティングルームには、既に一人の男が座っていた。
『久しぶりだな。ヒーロ・ハル。まだ枝見を面倒見ているのか。』
『あいさつは後回しだ。まずは今後の作戦を確認させてくれ。』
ヒーロ・ハルとその男は、ユーリ・ザック原案の作戦を入念に確認した。
『それにしても、お前のあの高速艦で構成された艦隊をよく簡単に手放したものだな。』
『ああ、あれはもう十分役目を果たした。本部では最新艦のロールアウトも始っている。この会戦を終えれば、最新高速艦で更なる優れた艦隊を構成するさ。』
ヒーロ・ハルは、その男に目を輝かせながらそう言った。男は一度うなずき、そして枝見を見て言った。
『枝見よ。お前、随分と父親に似てきたじゃないか。ヒーロのもとで十分に鍛えてもらっているか。』
枝見一樹は、前マリー・ティーチ親衛隊長であった枝見一紀の息子であった。マリー暗殺テロを企てた枝見一紀は、無期懲役で今だ軍収容所で監禁されている。軍本部は親子間でテロ関連の繋がりはないと断定した。そして、軍隊志望であった彼の意志を尊重し入隊が許可された。だが、入隊は許可されたものの、第一希望であった艦隊への配属は見合され、2年間事務職を労務した。入隊3年目の人事異動の折、第10艦体のヒーロ・ハル中将より人材補強として声がかかり、やっと彼の希望はかなったのであたった。艦隊入隊時、ヒーロ・ハルは枝見一樹に言った。ある男に頼まれて君を鍛えあげ一人前にする。
枝見一樹はマリー暗殺テロ事件の際、イベント会場にいた観衆の一人であった。だが、そのテロを父が起こしていたことを知らされていない。彼に知らされたのは父がテロで殉職したということだけであった。枝見一樹は父とはもともと不仲であった。父の死を聞いても、また死に関わる軍が非公開にしている不明なことに気付いても全く興味がなかった。ただ、差しのべられた艦隊所属への道を快く受け入れた。そしてその後、ヒーロ・ハルの能力の高さを知った彼は精進と努力を重ね、ヒーロ・ハルの右腕になるまでに成長を果たした。
『随分お見かけしないと思っていたら、こんな辺境地に配属されていたのですね。』
枝見一樹は同様することもなく正対するその男に言った。
『おっ。口も達者になったじゃないか枝見。』
3人はそのあと雑談混じりの挨拶を済まし、そしてミーティングルームを後にした。
『さて、これからが腕の見せどころか。』
その男、ワッツ・ワインは、そう一人ごとを言い、冥王星要塞サブブリッジに戻っていった。
ヒーロ・ハルと枝見一樹が次に会ったのは、冥王星艦隊指令アース・アーチーだった。
『ヒーロ中将。はるばる御苦労様です。ユーリ中将もこちらに来られているのですか。』
『アーチー。すまんね。いきなりこんな大胆な作戦をさせてしまって。こんな奇抜なことを考えたユーリならここまでは来ていない。今頃は宙域の外でのんびり居眠りでもしているんじゃないかな。』
『ユーリ中将は相変わらずですね。ユーリ中将が総司令と聞きましたが、ついにそこまでご出世なさいましたか。』
『まあ、やっと軍内の評価が追いついてきたってところだよ。アピールが足りないんだよユーリは。本来なら既に大将になっていてもおかしくない。もちろん、それは俺についても同じことが言えるが。』
ヒーロ・ハルはそう調子に乗ったが、あくまで会話の流れでのことで、目はアース・アーチーの答えを求めていた。
『既に要塞内の掌握はできています。中将以上を除く士官達は皆こちらの作戦を理解しています。』
最終確認を済ませたヒーロ・ハルはさらにもう一人に合いに足を運んだ。
冥王星要塞メインブリッジに艦隊出撃準備が完了したとの報告が入った。柴田幸はこの報告を聞き、メインブリッジ内にいる全員に出撃の指示を出した。ツー・中村は既に覚悟済みであったが、ユーカ・ビート、ユイ・フォン、ミン・ロネンはここへきて拒絶した。ミン・ロネンははっきりと事務専門である自分が同艦しても役に立たないということを強い口調で主張した。結果、柴田幸の機嫌を損ねたが、それでもメインブリッジに残る権利を勝ち取った。それを見ていたユーカ・ビートは柴田幸に言った。
『柴田首相とツー大将のお二方とも出撃なさってしまっては要塞内が手薄になります。ですから、私とユイ大将の二人で要塞防衛の任をお与えいただけないでしょうか。』
柴田幸は、軽く一蹴した。
『ユイ大将。馬鹿なことを言うもんじゃない。最後の勝利は最前線にて皆で見ようではないか。すでに要塞内の危険などはない。』
『ですが・・・。』
特に説得できる内容もないままユイ・フォンは交渉を続けたが、なにも変わることはなく、部下とはこういうものだという教訓が開始されてしまい、無駄なことを切り出したとユイ・フォンは後悔した。
『さて、乗り込むぞ。わが旗艦へ。』
そう言って柴田幸は勢いよくメインブリッジを飛び出した。その後にツー・中村、ユイ・フォン、ユーカ・ビートと続く。4人がサブブリッジを通過する際、柴田幸はバリ・ストームを同伴させるようにツー・中村に命じた。ツー・中村は急いでその命を果たし、本意ではないバリ・ストームが仕方なさそうに現れた。
サブブリッジから旗艦へ向かう際、通路にて海賊団団長ウーミ・ライと、並行して歩く要塞内下級士官の二人とすれ違った。
『ここにいたのか、ウーミ・ライ団長。2度の出撃で手間をかけたな。次が最後だ。今度は君も参戦してくれ。私自らも参戦する。総力戦といこうではないか。』
『わかりました。柴田首相。私も自らの船で出撃しましょう。』
柴田幸は確認の意味で首を縦に振った。ウーミ・ライと一緒にいた士官は道を空け、やり取りの間中ずっと敬礼している。自分より下のものに興味のない柴田幸は士官の顔を見ることもなく通り過ぎ、小さな声で御苦労とだけ言った。他の4人も特に士官には気をとめることもなく旗艦への歩を進めた。ウーミ・ライは柴田達が行った後を距離を少し開けてから追っていった。士官は敬礼を解き口元で笑った。振り返りそれを見たウーミ・ライも同じ表情をした。そして、5人は旗艦に乗り込み。ウーミ・ライは海賊船に乗り込んだ。こうして要塞艦隊は宙域に出撃することになった。
士官はサブブリッジに入り、ワッツ・ワインに頼み冥王星要塞の完全なる掌握に達したことを暗号通信で連合軍に連絡した。
『ヒーロ。メインブリッジにミン・ロネンという女性事務官がいるがどうしたらいい。』
連絡を終えたワッツ・ワインが士官服を脱ぐヒーロ・ハルに言った。
『ほっといていいそうだ。彼女には引き続きダミー映像でも見せてやってくれ。』
ヒーロ・ハルはあえて通路にて首謀者柴田幸を待ち受け顔を見た。バリ・ストームとは面識があったので一瞬ヒヤリとしたが、念のための変装が功を奏した。馬鹿だ馬鹿だと噂されていた柴田幸を直に見て、それは外見や振る舞いだけでも十分に納得できた。あんな奴の為にわざわざ辺境地までやってきたと考えると腹の立つ限りだが、副産物として艦隊リニューアルができるのもあって我慢することはできた。ユーリ・ザックが用意した最後の結末は、彼ら首謀者達にはふさわしいであろう。茶番は茶番で幕を引く。
最終章は目前であった。当作戦でのヒーロ・ハルの役目はこれで終わった。後は高みの見物をするだけでよかった。
『私が今からそちらに行きます。総司令官から新しい指示を受けていますので。』
フミ・エリックは小さな声だがはっきりと言った。そして、眠っているユーリ・ザックを一度見て、第4艦体旗艦のメインブリッジへ向かった。
第9艦体旗艦のメインブリッジではシュー・ツカサが暇を持て余していた。当会戦における彼の役目は、艦体運用だけで最前線での戦いは作戦中に用意されていなかった。初戦にせよ、宙域に一度は第9艦体を進めたものの、直ぐに後退し、その後の戦況を見守るだけだった。
『今回は、ヒーロに譲っておくか。』
連合軍の損失は第10艦体1000隻だった。この数は第10艦体全滅を意味していた。当会戦に参戦している連合艦隊は、1500隻の第4艦隊、1000隻の第9艦隊と第10艦体の3艦隊であった。その内の1艦隊が全滅したのだが、当の連合軍にはなんらの焦りは見えなかった。
第10艦隊指令のヒーロ・ハルは、部下の枝見一樹少将とミーティングルームへ向け歩いていた。二人が入ったミーティングルームには、既に一人の男が座っていた。
『久しぶりだな。ヒーロ・ハル。まだ枝見を面倒見ているのか。』
『あいさつは後回しだ。まずは今後の作戦を確認させてくれ。』
ヒーロ・ハルとその男は、ユーリ・ザック原案の作戦を入念に確認した。
『それにしても、お前のあの高速艦で構成された艦隊をよく簡単に手放したものだな。』
『ああ、あれはもう十分役目を果たした。本部では最新艦のロールアウトも始っている。この会戦を終えれば、最新高速艦で更なる優れた艦隊を構成するさ。』
ヒーロ・ハルは、その男に目を輝かせながらそう言った。男は一度うなずき、そして枝見を見て言った。
『枝見よ。お前、随分と父親に似てきたじゃないか。ヒーロのもとで十分に鍛えてもらっているか。』
枝見一樹は、前マリー・ティーチ親衛隊長であった枝見一紀の息子であった。マリー暗殺テロを企てた枝見一紀は、無期懲役で今だ軍収容所で監禁されている。軍本部は親子間でテロ関連の繋がりはないと断定した。そして、軍隊志望であった彼の意志を尊重し入隊が許可された。だが、入隊は許可されたものの、第一希望であった艦隊への配属は見合され、2年間事務職を労務した。入隊3年目の人事異動の折、第10艦体のヒーロ・ハル中将より人材補強として声がかかり、やっと彼の希望はかなったのであたった。艦隊入隊時、ヒーロ・ハルは枝見一樹に言った。ある男に頼まれて君を鍛えあげ一人前にする。
枝見一樹はマリー暗殺テロ事件の際、イベント会場にいた観衆の一人であった。だが、そのテロを父が起こしていたことを知らされていない。彼に知らされたのは父がテロで殉職したということだけであった。枝見一樹は父とはもともと不仲であった。父の死を聞いても、また死に関わる軍が非公開にしている不明なことに気付いても全く興味がなかった。ただ、差しのべられた艦隊所属への道を快く受け入れた。そしてその後、ヒーロ・ハルの能力の高さを知った彼は精進と努力を重ね、ヒーロ・ハルの右腕になるまでに成長を果たした。
『随分お見かけしないと思っていたら、こんな辺境地に配属されていたのですね。』
枝見一樹は同様することもなく正対するその男に言った。
『おっ。口も達者になったじゃないか枝見。』
3人はそのあと雑談混じりの挨拶を済まし、そしてミーティングルームを後にした。
『さて、これからが腕の見せどころか。』
その男、ワッツ・ワインは、そう一人ごとを言い、冥王星要塞サブブリッジに戻っていった。
ヒーロ・ハルと枝見一樹が次に会ったのは、冥王星艦隊指令アース・アーチーだった。
『ヒーロ中将。はるばる御苦労様です。ユーリ中将もこちらに来られているのですか。』
『アーチー。すまんね。いきなりこんな大胆な作戦をさせてしまって。こんな奇抜なことを考えたユーリならここまでは来ていない。今頃は宙域の外でのんびり居眠りでもしているんじゃないかな。』
『ユーリ中将は相変わらずですね。ユーリ中将が総司令と聞きましたが、ついにそこまでご出世なさいましたか。』
『まあ、やっと軍内の評価が追いついてきたってところだよ。アピールが足りないんだよユーリは。本来なら既に大将になっていてもおかしくない。もちろん、それは俺についても同じことが言えるが。』
ヒーロ・ハルはそう調子に乗ったが、あくまで会話の流れでのことで、目はアース・アーチーの答えを求めていた。
『既に要塞内の掌握はできています。中将以上を除く士官達は皆こちらの作戦を理解しています。』
最終確認を済ませたヒーロ・ハルはさらにもう一人に合いに足を運んだ。
冥王星要塞メインブリッジに艦隊出撃準備が完了したとの報告が入った。柴田幸はこの報告を聞き、メインブリッジ内にいる全員に出撃の指示を出した。ツー・中村は既に覚悟済みであったが、ユーカ・ビート、ユイ・フォン、ミン・ロネンはここへきて拒絶した。ミン・ロネンははっきりと事務専門である自分が同艦しても役に立たないということを強い口調で主張した。結果、柴田幸の機嫌を損ねたが、それでもメインブリッジに残る権利を勝ち取った。それを見ていたユーカ・ビートは柴田幸に言った。
『柴田首相とツー大将のお二方とも出撃なさってしまっては要塞内が手薄になります。ですから、私とユイ大将の二人で要塞防衛の任をお与えいただけないでしょうか。』
柴田幸は、軽く一蹴した。
『ユイ大将。馬鹿なことを言うもんじゃない。最後の勝利は最前線にて皆で見ようではないか。すでに要塞内の危険などはない。』
『ですが・・・。』
特に説得できる内容もないままユイ・フォンは交渉を続けたが、なにも変わることはなく、部下とはこういうものだという教訓が開始されてしまい、無駄なことを切り出したとユイ・フォンは後悔した。
『さて、乗り込むぞ。わが旗艦へ。』
そう言って柴田幸は勢いよくメインブリッジを飛び出した。その後にツー・中村、ユイ・フォン、ユーカ・ビートと続く。4人がサブブリッジを通過する際、柴田幸はバリ・ストームを同伴させるようにツー・中村に命じた。ツー・中村は急いでその命を果たし、本意ではないバリ・ストームが仕方なさそうに現れた。
サブブリッジから旗艦へ向かう際、通路にて海賊団団長ウーミ・ライと、並行して歩く要塞内下級士官の二人とすれ違った。
『ここにいたのか、ウーミ・ライ団長。2度の出撃で手間をかけたな。次が最後だ。今度は君も参戦してくれ。私自らも参戦する。総力戦といこうではないか。』
『わかりました。柴田首相。私も自らの船で出撃しましょう。』
柴田幸は確認の意味で首を縦に振った。ウーミ・ライと一緒にいた士官は道を空け、やり取りの間中ずっと敬礼している。自分より下のものに興味のない柴田幸は士官の顔を見ることもなく通り過ぎ、小さな声で御苦労とだけ言った。他の4人も特に士官には気をとめることもなく旗艦への歩を進めた。ウーミ・ライは柴田達が行った後を距離を少し開けてから追っていった。士官は敬礼を解き口元で笑った。振り返りそれを見たウーミ・ライも同じ表情をした。そして、5人は旗艦に乗り込み。ウーミ・ライは海賊船に乗り込んだ。こうして要塞艦隊は宙域に出撃することになった。
士官はサブブリッジに入り、ワッツ・ワインに頼み冥王星要塞の完全なる掌握に達したことを暗号通信で連合軍に連絡した。
『ヒーロ。メインブリッジにミン・ロネンという女性事務官がいるがどうしたらいい。』
連絡を終えたワッツ・ワインが士官服を脱ぐヒーロ・ハルに言った。
『ほっといていいそうだ。彼女には引き続きダミー映像でも見せてやってくれ。』
ヒーロ・ハルはあえて通路にて首謀者柴田幸を待ち受け顔を見た。バリ・ストームとは面識があったので一瞬ヒヤリとしたが、念のための変装が功を奏した。馬鹿だ馬鹿だと噂されていた柴田幸を直に見て、それは外見や振る舞いだけでも十分に納得できた。あんな奴の為にわざわざ辺境地までやってきたと考えると腹の立つ限りだが、副産物として艦隊リニューアルができるのもあって我慢することはできた。ユーリ・ザックが用意した最後の結末は、彼ら首謀者達にはふさわしいであろう。茶番は茶番で幕を引く。
最終章は目前であった。当作戦でのヒーロ・ハルの役目はこれで終わった。後は高みの見物をするだけでよかった。
冥王星周辺宙域での初戦において、地球連合軍の惨敗は明らかだった。冥王星要塞主砲は容赦なく連合艦隊の全艦体数の3分の1にあたる1000隻をその火力で消失させた。対する冥王星軍の艦体消失数は奇跡的にゼロであった。冥王星軍の戦略は最大の戦果をあげることに成功した。要塞メインブリッジの柴田幸は上機嫌で勝利に酔っていた。
『見たか、ツー大将。敵の半数は打倒したぞ。これでほぼ我々の勝利は約束されたな。』
『柴田首相。敵艦被害約1千隻です。宙域に展開する連合艦体の約3分の一を撃破したことになります。宙域外に待機している可能性もあります、未だ油断はなさらない方が。』
柴田幸は、ツー・中村を睨みつけた。
『お前は、戦況が読めないのか。あとあそこに見える艦体を同じように撃破すればいいだけだろう。どうしてこの状況から危険予測をする必要があるものか。ホントにお前はいつになっても成長しない奴だな。』
『すみません。』
ツー・中村は心からなにかを反省したわけではないが、いつもの剣幕の力に負けてそう言うしかなかった。
『ツー大将よ。もう一度同じ作戦をやるぞ。艦隊に命令を出せ。』
ツー・中村は思った。同じ作戦では先の戦果はあがらないだろう。それに当初の作戦にしたって、これほどまでの戦果が出せるなどと思ってもいなかった。なんらかの幸運が味方したのだろう。それを次も期待するのは難しい。初戦は出来すぎたと言ってよかった。それでもそのことを柴田に説いても無駄であろう。曲がりなりにも結果の出てしまった作戦に柴田幸は酔い切っている。柴田幸という男は自分よりも下の人間の言うことを聞くような男ではない。無駄に刺激して屁理屈で時間を費やしたり、いつもの強要を受けるのは緊迫した今は避けたい。どうせ今更なにを言っても効果はないだろう。
ツー・中村は無駄な時間を費やすだけだと割り切った。仕方なく艦隊指令アース・アーチーに作戦の実行命令を出した。そして、サブブリッジのバリ・ストーム中将にも同じ命令を出した。アース・アーチーはすんなりと命令を了解したが、バリ・ストームは作戦が無駄だと意見しそれでも命令ならばと了解した。バリ・ストームが意見した内容は、ツー・中村自身が懸念していたことそのものだった。それから、海賊団にも命令を出そうとしたが、団長であるウーミ・ライがいつの間にかメインブリッジから姿を消していた為、命令は伝えられることはなかった。
『柴田首相。15分後に作戦実行となります。各部隊に命令伝達完了しましたが、海賊団に関してはウーミ・ライ団長との連絡が取れず命令が出せておりません。』
『構わん。連合艦隊の残りはあれだけの数だ。で、あれば海賊らの力など借りずとも殲滅できるはずだ。』
サブブリッジでは、バリ・ストームが苦悩していた。こんな馬鹿げた作戦を繰り返す意味があるのか。初戦こそなんとかなったが、これが次も同じ結果を出すとは到底思えない。上官からの命令なので作戦は実行する。が、失敗した時のことを準備する必要があると思った。
『ワッツ・ワイン中将。もう一度先の作戦実行をお願いします。タイムスケジュールのシフト以外変更はありません。』
『了解しました。』
ワッツ・ワインは、バリ・ストームからの指示を受け、各メンバーに作戦実行の指示を出した。
『ワッツ。プログラムの変更をしようか。』
ニダ・ダックはそう言った。ニダ・ダックと流不落、そしてワッツ・ワインは、少将と中将で階級の違いはあれど年齢も同じ同期でだったので敬称をつけて名を呼びあうことはなかった。
『いいよ。わざわざそこまで作り込んでやる必要はない。あの馬鹿ならそれでもわからんだろうよ。』
『ワッツ。了解。ただ、少し遊ばせてもらうよ。』
流不落は目を輝かせて言った。流不落のこういう時は限って大人のいたずらをしでかした。
『流がやるなら俺もやるよ。』
ニダ・ダックの遊び心にも火がついた。
『やりすぎるなよ。ちなみに硯はダメ。』
『なんだよ。俺だけ仲間外れしないでよ。』
硯一理はしょんぼりして言った。それでも結局やってしまうことをワッツ・ワイン、ニダ・ダック、流不落の3人とも知っていたので苦笑いをした。このやり取りを一人疑いの目を持って聞き耳を立てている男がいた。それは、陰で柴田幸の犬と噂されているキー・ガッツであった。彼は常に周囲に目を配りサブブリッジのメンバーを監視していた。彼の出世のプランは実力で勝ち取ることではなく他を蹴落とすことで地位を得ることであった。それゆえ、この戦いにおいてもサブブリッジ内のメンバーの失敗でも嗅ぎつければ柴田幸に告げ口するつもりでいた。そして、技術部隊がなにかしらの企てをしていることを肌で感じていた。ただ、まだ不確かであって裏を取る必要があった。そこでキー・ガッツは要塞メインサーバーへのアクセスを開始し、技術メンバーのログを検索し始めた。
メインブリッジのスクリーンには、要塞艦隊が宙域展開している光景が映し出されていた。そしてしばらくして連合艦隊も宙域にゆっくりとその姿を現した。艦体数は初戦の時と同じであった。これは、会戦宙域外に予備軍が待機していてそれが補充されたと推測された。合計約3500隻の艦船が宙域に押し寄せてきていた。
『連合は実に芸のないことよ。まったく同じ布陣ではないか。のこのことよく出てこれたものだ。先と同じように要塞主砲でことごとく打ち払ってやろうではないか。』
柴田幸はそしてさらに続けた。
『それにしても連合の指揮官は無能な奴よ。無能な指揮官を持つと、ただ死にゆく運命しか持たされない部下は可哀そうなものよな。』
柴田幸は甲高い声で笑いながら言った。同席するメンバーは誰もその言葉に反応することはなかった。ツー・中村にしろそれは同様で柴田幸の言葉は柴田自身のことを言っているようにしか思えなかった。ただ、ツー・中村の注意は柴田幸よりもスクリーンに映し出されている光景に向けられていた。艦隊の動きがおかしい。敵にしろ味方にしろ、あまりにも先の戦いの時と似ていると思った。
『ツー大将。海賊達にも命令を出せたんだな。御苦労。』
ツー・中村はスクリーンに現れた海賊団の映像をじっと見つめた。
『私は命令を出しておりません。』
ツー・中村はそう言った後に、色とりどりの海賊船団までも同じ配置で同じ展開をしている映像にある過程を立てた。そしてそれを報告しようとした瞬間、戦いの幕は上がってしまった。
二回戦は、初戦同様全く同じ戦況を見せた。
連合艦隊から突出した1000隻の艦体と要塞艦体が混戦し、その後、海賊団による包囲・誘導が行われ、要塞主砲の火力でその1000隻を消失させた。
『みごとだ。あっという間に敵艦合わせて2000隻を倒してやったぞ。馬鹿の一つ覚えで何度でも来るがいい。悉く倒してくれるは。』
『柴田首相。敵被害1000隻。こちらの被害はまったくありません。ただ、要塞主砲の残存エネルギーが残り一発となりました。』
『そうか。問題はあるまい。あと一発はいざという時の為にとっておく。ここまでに敵艦を十分減らすことができているのだ。後は艦体戦をやればいい。次は我らも出るぞ。ツー大将準備させろ。』
ツー・中村は考えるのをやめていた。なんの思考フィルターも通さず、ただ柴田幸の言われるがまま行動するようになっていた。さっそく、艦隊指令アース・アーチーに旗艦の譲渡を命令した。本来であれば特別艇を用意してもらうだけでよかった。だが、柴田幸は旗艦で自らが艦隊の指揮をとると言い出したのだ。アース・アーチーからは反発を受けることはなかった。むしろ、気を利かし指揮系統の完全譲渡を行い、前任の主要メンバーをすべて下艦させ、アース・アーチ自身も要塞守備に回ることで旗艦を退いた。これにより、柴田幸の指揮独壇場は整ったのであった。
冥王星宙域は、二度の戦いを終えたにも関わらずあまりにも静かだった。
『見たか、ツー大将。敵の半数は打倒したぞ。これでほぼ我々の勝利は約束されたな。』
『柴田首相。敵艦被害約1千隻です。宙域に展開する連合艦体の約3分の一を撃破したことになります。宙域外に待機している可能性もあります、未だ油断はなさらない方が。』
柴田幸は、ツー・中村を睨みつけた。
『お前は、戦況が読めないのか。あとあそこに見える艦体を同じように撃破すればいいだけだろう。どうしてこの状況から危険予測をする必要があるものか。ホントにお前はいつになっても成長しない奴だな。』
『すみません。』
ツー・中村は心からなにかを反省したわけではないが、いつもの剣幕の力に負けてそう言うしかなかった。
『ツー大将よ。もう一度同じ作戦をやるぞ。艦隊に命令を出せ。』
ツー・中村は思った。同じ作戦では先の戦果はあがらないだろう。それに当初の作戦にしたって、これほどまでの戦果が出せるなどと思ってもいなかった。なんらかの幸運が味方したのだろう。それを次も期待するのは難しい。初戦は出来すぎたと言ってよかった。それでもそのことを柴田に説いても無駄であろう。曲がりなりにも結果の出てしまった作戦に柴田幸は酔い切っている。柴田幸という男は自分よりも下の人間の言うことを聞くような男ではない。無駄に刺激して屁理屈で時間を費やしたり、いつもの強要を受けるのは緊迫した今は避けたい。どうせ今更なにを言っても効果はないだろう。
ツー・中村は無駄な時間を費やすだけだと割り切った。仕方なく艦隊指令アース・アーチーに作戦の実行命令を出した。そして、サブブリッジのバリ・ストーム中将にも同じ命令を出した。アース・アーチーはすんなりと命令を了解したが、バリ・ストームは作戦が無駄だと意見しそれでも命令ならばと了解した。バリ・ストームが意見した内容は、ツー・中村自身が懸念していたことそのものだった。それから、海賊団にも命令を出そうとしたが、団長であるウーミ・ライがいつの間にかメインブリッジから姿を消していた為、命令は伝えられることはなかった。
『柴田首相。15分後に作戦実行となります。各部隊に命令伝達完了しましたが、海賊団に関してはウーミ・ライ団長との連絡が取れず命令が出せておりません。』
『構わん。連合艦隊の残りはあれだけの数だ。で、あれば海賊らの力など借りずとも殲滅できるはずだ。』
サブブリッジでは、バリ・ストームが苦悩していた。こんな馬鹿げた作戦を繰り返す意味があるのか。初戦こそなんとかなったが、これが次も同じ結果を出すとは到底思えない。上官からの命令なので作戦は実行する。が、失敗した時のことを準備する必要があると思った。
『ワッツ・ワイン中将。もう一度先の作戦実行をお願いします。タイムスケジュールのシフト以外変更はありません。』
『了解しました。』
ワッツ・ワインは、バリ・ストームからの指示を受け、各メンバーに作戦実行の指示を出した。
『ワッツ。プログラムの変更をしようか。』
ニダ・ダックはそう言った。ニダ・ダックと流不落、そしてワッツ・ワインは、少将と中将で階級の違いはあれど年齢も同じ同期でだったので敬称をつけて名を呼びあうことはなかった。
『いいよ。わざわざそこまで作り込んでやる必要はない。あの馬鹿ならそれでもわからんだろうよ。』
『ワッツ。了解。ただ、少し遊ばせてもらうよ。』
流不落は目を輝かせて言った。流不落のこういう時は限って大人のいたずらをしでかした。
『流がやるなら俺もやるよ。』
ニダ・ダックの遊び心にも火がついた。
『やりすぎるなよ。ちなみに硯はダメ。』
『なんだよ。俺だけ仲間外れしないでよ。』
硯一理はしょんぼりして言った。それでも結局やってしまうことをワッツ・ワイン、ニダ・ダック、流不落の3人とも知っていたので苦笑いをした。このやり取りを一人疑いの目を持って聞き耳を立てている男がいた。それは、陰で柴田幸の犬と噂されているキー・ガッツであった。彼は常に周囲に目を配りサブブリッジのメンバーを監視していた。彼の出世のプランは実力で勝ち取ることではなく他を蹴落とすことで地位を得ることであった。それゆえ、この戦いにおいてもサブブリッジ内のメンバーの失敗でも嗅ぎつければ柴田幸に告げ口するつもりでいた。そして、技術部隊がなにかしらの企てをしていることを肌で感じていた。ただ、まだ不確かであって裏を取る必要があった。そこでキー・ガッツは要塞メインサーバーへのアクセスを開始し、技術メンバーのログを検索し始めた。
メインブリッジのスクリーンには、要塞艦隊が宙域展開している光景が映し出されていた。そしてしばらくして連合艦隊も宙域にゆっくりとその姿を現した。艦体数は初戦の時と同じであった。これは、会戦宙域外に予備軍が待機していてそれが補充されたと推測された。合計約3500隻の艦船が宙域に押し寄せてきていた。
『連合は実に芸のないことよ。まったく同じ布陣ではないか。のこのことよく出てこれたものだ。先と同じように要塞主砲でことごとく打ち払ってやろうではないか。』
柴田幸はそしてさらに続けた。
『それにしても連合の指揮官は無能な奴よ。無能な指揮官を持つと、ただ死にゆく運命しか持たされない部下は可哀そうなものよな。』
柴田幸は甲高い声で笑いながら言った。同席するメンバーは誰もその言葉に反応することはなかった。ツー・中村にしろそれは同様で柴田幸の言葉は柴田自身のことを言っているようにしか思えなかった。ただ、ツー・中村の注意は柴田幸よりもスクリーンに映し出されている光景に向けられていた。艦隊の動きがおかしい。敵にしろ味方にしろ、あまりにも先の戦いの時と似ていると思った。
『ツー大将。海賊達にも命令を出せたんだな。御苦労。』
ツー・中村はスクリーンに現れた海賊団の映像をじっと見つめた。
『私は命令を出しておりません。』
ツー・中村はそう言った後に、色とりどりの海賊船団までも同じ配置で同じ展開をしている映像にある過程を立てた。そしてそれを報告しようとした瞬間、戦いの幕は上がってしまった。
二回戦は、初戦同様全く同じ戦況を見せた。
連合艦隊から突出した1000隻の艦体と要塞艦体が混戦し、その後、海賊団による包囲・誘導が行われ、要塞主砲の火力でその1000隻を消失させた。
『みごとだ。あっという間に敵艦合わせて2000隻を倒してやったぞ。馬鹿の一つ覚えで何度でも来るがいい。悉く倒してくれるは。』
『柴田首相。敵被害1000隻。こちらの被害はまったくありません。ただ、要塞主砲の残存エネルギーが残り一発となりました。』
『そうか。問題はあるまい。あと一発はいざという時の為にとっておく。ここまでに敵艦を十分減らすことができているのだ。後は艦体戦をやればいい。次は我らも出るぞ。ツー大将準備させろ。』
ツー・中村は考えるのをやめていた。なんの思考フィルターも通さず、ただ柴田幸の言われるがまま行動するようになっていた。さっそく、艦隊指令アース・アーチーに旗艦の譲渡を命令した。本来であれば特別艇を用意してもらうだけでよかった。だが、柴田幸は旗艦で自らが艦隊の指揮をとると言い出したのだ。アース・アーチーからは反発を受けることはなかった。むしろ、気を利かし指揮系統の完全譲渡を行い、前任の主要メンバーをすべて下艦させ、アース・アーチ自身も要塞守備に回ることで旗艦を退いた。これにより、柴田幸の指揮独壇場は整ったのであった。
冥王星宙域は、二度の戦いを終えたにも関わらずあまりにも静かだった。
そして、テロは実際に起こったのである。第一照射が起こり、メイン舞台のマリー・ティーチは狙われた。第一照射のすべて6か所をはっきりと把握することができた。ユーリは、二回の照射でと言っていたが、二度も見なくても一度で全ての照射箇所を見抜く自身はあった。ただ、第二照射の際に第一照射の照射箇所以外にさらに2か所から照射されるのを見て言葉の真の意味を理解した。そしてその新たな2か所の内一か所は、なんと枝見一紀がいるイベント本部の真上からだった。第一照射を逃れた場合、マリー・ティーチはイベント本部へ向かう警備計画になっていた。この計画通り行動していた場合、その移動の際に再び狙撃される危険があったのだ。あらゆる危険をこれほど簡単に回避できたのは、ユーリの先見眼なにものでもなかった。テロ発生時にイベント本部へ向かったのは、マリー・ティーチではなく、コーヤス・イーエになった。イベント本部の真上にいたテロ実行犯の鉄拳制裁を終えた後、ベランダ伝いにイベント本部まで降り、窓ガラスを蹴り割り一気に部屋に入った。驚きふためく枝見一紀へ一言言った。
『お前の狙いは既に軍によって明確になっている。もう観念しろ。』
『なんだ、いきなり。お前は誰なんだ。こいつもテロの実行犯だ。取り押さえろ。』
マリー・ティーチ親衛隊は、枝見一紀の指示でイベント本部にその全員が詰めていた。テロ発生にて隊員の何名かは出動しないことに疑問を感じていたが、上官の絶対の指示の為動けずにいた。そして、また今程の指示に無垢に従うべくコーヤス・イーエに襲いかかったのである。親衛隊15人と枝見一紀、そしてコーヤス・イーエ。イベント実行委員達はすでに会場内の騒動整備の為に全員が出てしまっていた。一見、コーヤス・イーエの絶対的不利に思える構図だが、当の本人は全く恐怖を感じていなかった。親衛隊は白兵戦において軍で選りすぐられた精鋭達である。そんな彼らを前に、コーヤスはむしろ楽しさを覚えていた。負ける気がしない。ここへ来るまでに既に4度戦っていたが、それでも体力はほぼ満タンに等しかった。
最初に手を出しのは、親衛隊一の俊足を誇る男であった。コーヤス・イーエの懐に一気につめると拳を下からアッパーを放った。親衛隊員間では誰もかわせないはずのアッパーをなんの気なしにかわし、軽く拳を隊員のみぞおちに打ち付けた。それだけではない。さらにコーヤス・イーエ一円にいた隊員5人に同じみぞおちへの攻撃を加えた。ここまで10秒ほどしかたっていないが、6名を倒されて隊員達のスイッチもいよいよ本格的に入った。いや、入ったはずだった。倒れる隊員を踏み台にして飛び、さらに2名の隊員を開脚キックにて沈めた。残りは隊員7名と隊長1名。ここで思わぬことが起こった。隊員3名が残りの隊員4名をレーザーガンで打ち抜いたのだ。倒れ行く4名の隊員達には状況が把握できないまま即死が待っていた。コーヤス・イーエには一瞬で全てを理解できた。枝見一紀が本性を現したのだと。瞬時に柱の裏に隠れた。
『君が誰だか知らんが、こいつらをかたずける手間が省けた。助かったよ。あとは君だけだな。』
レーザーガンを持つ3名の隊員達が狙ったのは、先に倒れた6名の隊員達だった。放たれたレーザーはそれぞれ、目的の額に打ち込まれた。ただ、レーザーを放ったのは3名の方ではなくコーヤス・イーエだった。枝見一紀の言葉などには耳をかさず、隠れていた柱を蹴って部屋の中央に飛び出し、ためらいもなくレーザーガンを3名の隊員の額を狙い放った。さらにその勢いで枝見一紀に詰め寄り、手に持つレーザーガンをたたき落とし銃口を向けた。
『今度こそ観念してもらおうか。お前には尋問を受けてもらう。』
『まあ、よい。目的は果たした。マリーの死体をこの目で見てやろうと考えていたが、こうなってしまってはもうそんなことはどうでもいい。あとは最後の始末をするだけだ。』
そう言って、枝見一紀は、奥歯に仕掛けておいた自爆用晩弾のスイッチを押そうとしたが、コーヤス・イーエはそれすらもさせる時間を与えなかった。またもや、枝見一紀の言葉など耳をかさず正面から顎に鉄拳を打ち込んでいた。倒れ、薄れゆく意識の中で枝見一紀が聞いたのは絶望の言葉だった。1年を費やし入念に計画したこの企てがなんの意味もなかったことを知ったからだった。
『マリー様は、ご無事だよ。似非隊長殿。』
軍医療施設へ運ばれる際、ふと目を覚ましたユーリ・ザックが隣で泣いているフミ・エリックへ最後の冗談を言った。
『僕が艦体指令になったらまた会おう。』
そしてユーリ・ザックは集中治療が必要な為、現行最高レベルの医療を誇る軍の医療施設へ運ばれて行った。フミ・エリックは軍の事情聴取を受ける為、軍施設へ向かうことを強制された。カメラ塔で彼らを助けたシュー・ツカサは、フミ・エリックの気持ちをそれほど理解はしていなかったがとりあえず安心させる言葉をかけた。
『彼なら大丈夫、命に別条はない。それに、、テロも無事鎮圧した。なにも心配することはない。随分大変な協力をしてもらったみたいだね。彼の代わりにありがとうを言っておくよ。』
フミ・エリックは冷静ではいられなかった。急にいろんなことが起こってなにから整理すればいいかわからなかった。涙は止まった。彼の命に別条がないことを知り、僅かながら気が安らいだ。できれば彼と一緒に軍医療施設まで行きたかった。
事態はすべて収拾されたが、その全貌は軍本部中枢のメンバーのみしか明かされず隠蔽された。テロを阻止したメンバー達も当然その全貌を知ることはなく、その代わりに名誉と勲章を授与された。また、卒業後の進路も大幅に修正され、卒業ながらにしてそれぞれが重要なポジションに就くことを任命された。中でもコーヤス・イーエは一番の評価を得、若いながらマリー・ティーチ親衛隊長に命じられた。
重傷にて軍医療施設へ移送されたユーリ・ザックは、その後軍よりその所在を明らかにされることはなかった。卒業者名簿には載っている彼であったが、テロより後彼を学校内で見たものは誰もいなかった。本人曰く空白の半年と言っていたが、他のメンバーはそれが単なる余暇であることを知っていたので軽く流されていた。そんな中、忘れられたフミ・エリックは一途に日々を活きていった。
『お前の狙いは既に軍によって明確になっている。もう観念しろ。』
『なんだ、いきなり。お前は誰なんだ。こいつもテロの実行犯だ。取り押さえろ。』
マリー・ティーチ親衛隊は、枝見一紀の指示でイベント本部にその全員が詰めていた。テロ発生にて隊員の何名かは出動しないことに疑問を感じていたが、上官の絶対の指示の為動けずにいた。そして、また今程の指示に無垢に従うべくコーヤス・イーエに襲いかかったのである。親衛隊15人と枝見一紀、そしてコーヤス・イーエ。イベント実行委員達はすでに会場内の騒動整備の為に全員が出てしまっていた。一見、コーヤス・イーエの絶対的不利に思える構図だが、当の本人は全く恐怖を感じていなかった。親衛隊は白兵戦において軍で選りすぐられた精鋭達である。そんな彼らを前に、コーヤスはむしろ楽しさを覚えていた。負ける気がしない。ここへ来るまでに既に4度戦っていたが、それでも体力はほぼ満タンに等しかった。
最初に手を出しのは、親衛隊一の俊足を誇る男であった。コーヤス・イーエの懐に一気につめると拳を下からアッパーを放った。親衛隊員間では誰もかわせないはずのアッパーをなんの気なしにかわし、軽く拳を隊員のみぞおちに打ち付けた。それだけではない。さらにコーヤス・イーエ一円にいた隊員5人に同じみぞおちへの攻撃を加えた。ここまで10秒ほどしかたっていないが、6名を倒されて隊員達のスイッチもいよいよ本格的に入った。いや、入ったはずだった。倒れる隊員を踏み台にして飛び、さらに2名の隊員を開脚キックにて沈めた。残りは隊員7名と隊長1名。ここで思わぬことが起こった。隊員3名が残りの隊員4名をレーザーガンで打ち抜いたのだ。倒れ行く4名の隊員達には状況が把握できないまま即死が待っていた。コーヤス・イーエには一瞬で全てを理解できた。枝見一紀が本性を現したのだと。瞬時に柱の裏に隠れた。
『君が誰だか知らんが、こいつらをかたずける手間が省けた。助かったよ。あとは君だけだな。』
レーザーガンを持つ3名の隊員達が狙ったのは、先に倒れた6名の隊員達だった。放たれたレーザーはそれぞれ、目的の額に打ち込まれた。ただ、レーザーを放ったのは3名の方ではなくコーヤス・イーエだった。枝見一紀の言葉などには耳をかさず、隠れていた柱を蹴って部屋の中央に飛び出し、ためらいもなくレーザーガンを3名の隊員の額を狙い放った。さらにその勢いで枝見一紀に詰め寄り、手に持つレーザーガンをたたき落とし銃口を向けた。
『今度こそ観念してもらおうか。お前には尋問を受けてもらう。』
『まあ、よい。目的は果たした。マリーの死体をこの目で見てやろうと考えていたが、こうなってしまってはもうそんなことはどうでもいい。あとは最後の始末をするだけだ。』
そう言って、枝見一紀は、奥歯に仕掛けておいた自爆用晩弾のスイッチを押そうとしたが、コーヤス・イーエはそれすらもさせる時間を与えなかった。またもや、枝見一紀の言葉など耳をかさず正面から顎に鉄拳を打ち込んでいた。倒れ、薄れゆく意識の中で枝見一紀が聞いたのは絶望の言葉だった。1年を費やし入念に計画したこの企てがなんの意味もなかったことを知ったからだった。
『マリー様は、ご無事だよ。似非隊長殿。』
軍医療施設へ運ばれる際、ふと目を覚ましたユーリ・ザックが隣で泣いているフミ・エリックへ最後の冗談を言った。
『僕が艦体指令になったらまた会おう。』
そしてユーリ・ザックは集中治療が必要な為、現行最高レベルの医療を誇る軍の医療施設へ運ばれて行った。フミ・エリックは軍の事情聴取を受ける為、軍施設へ向かうことを強制された。カメラ塔で彼らを助けたシュー・ツカサは、フミ・エリックの気持ちをそれほど理解はしていなかったがとりあえず安心させる言葉をかけた。
『彼なら大丈夫、命に別条はない。それに、、テロも無事鎮圧した。なにも心配することはない。随分大変な協力をしてもらったみたいだね。彼の代わりにありがとうを言っておくよ。』
フミ・エリックは冷静ではいられなかった。急にいろんなことが起こってなにから整理すればいいかわからなかった。涙は止まった。彼の命に別条がないことを知り、僅かながら気が安らいだ。できれば彼と一緒に軍医療施設まで行きたかった。
事態はすべて収拾されたが、その全貌は軍本部中枢のメンバーのみしか明かされず隠蔽された。テロを阻止したメンバー達も当然その全貌を知ることはなく、その代わりに名誉と勲章を授与された。また、卒業後の進路も大幅に修正され、卒業ながらにしてそれぞれが重要なポジションに就くことを任命された。中でもコーヤス・イーエは一番の評価を得、若いながらマリー・ティーチ親衛隊長に命じられた。
重傷にて軍医療施設へ移送されたユーリ・ザックは、その後軍よりその所在を明らかにされることはなかった。卒業者名簿には載っている彼であったが、テロより後彼を学校内で見たものは誰もいなかった。本人曰く空白の半年と言っていたが、他のメンバーはそれが単なる余暇であることを知っていたので軽く流されていた。そんな中、忘れられたフミ・エリックは一途に日々を活きていった。
コーヤス・イーエは、走り回っていた。メイン舞台へのレーザー照射第一射で、照射数と位置を把握した。そして、テレビカメラ塔への第二射の間に、各照射場を警備隊にて抑える段取りを整え、そして第二射を確認した。
『ユーリ、大丈夫か。レーザーが一本突き抜けたように見えたが。死ぬなよ。』
コーヤス・イーエは、ある不安から沸々と湧いてくる怒りをテロの暗殺者たちに向けた。握りしめた鉄拳を容赦なく暗殺者達の顔面に打ち込んでいった。コーヤス・イーエは、テロ鎮圧までに照射場8か所の内、4か所を自分の足で駆け回り、精鋭であろう暗殺者達を次々に一撃のもとに打倒した。
残り4か所の照射場は、シュー・ツカサとヒーロ・ハルがそれぞれ2か所ずつあたった。白兵戦も達者な二人は難無く4名の暗殺者を捕獲した。こうして、テロは幕を閉じることになった。テロ実行犯は最終的に警備兵へ引き渡されることになるのだが、その前に、コーヤス・イーエの鉄拳は、それを受けていない残りの4名にも容赦なく放たれた。鉄拳を受けた8名はその日誰も目を覚ますことはなかった。
シュー・ツカサは、状況把握に長けた男であった。彼はメイン舞台への第一照射を舞台下のマジック用ボックスで回避していた。マジック用ボックスといっても、メイン舞台にもとより設計され建造されているシェルターで、普段は訓練用として利用されているものであった。その舞台下シェルターでコーヤス・イーエからの照射位置情報を無線連絡で受けた。情報から大凡の状況を把握し舞台下シェルからマリー・ティーチと伴にシェルター脇の扉から舞台裏の機会室に出た。舞台裏の機会室には先の第一照射を回避したヒーロ・ハルが待っていた。シュー・ツカサは、コーヤス・イーエからの情報をヒーロ・ハルに伝え、またマリー・ティーチの身を何も言わず預けた。そして、シュー・ツカサとヒーロ・ハルはアイコンタクトをし、それぞれの役割を把握した。
メイン舞台裏の機会室の窓から勢いよく飛び出したのは、シュー・ツカサだった。地上15メートルの高さから飛び降りたかと思われたが、彼が飛んだ先は、窓脇に地上まで伸びる下水管だった。らせん状に一気にすべり降りると、メイン舞台に一番近い東に位置する校舎へ向かい走りだした。カメラ塔への第二照射を防ぐことはできなかったが、校舎の屋上両端、東西にいた2名のテロ実行犯をわずか5分で打倒した。
マリー・ティーチを安全な場所に誘導したヒーロ・ハルは、シュー・ツカサと反対の校舎の屋上に向かった。カメラ塔への第二照射を目的の校舎の入り口で目撃し、さらなる照射を防ぐ為に学校随一の快足を惜しげもなく発揮した。シュー・ツカサが先行してテロ実行犯の元へ向かったのは、この超人的な脚力を多少なりとも考慮したからであった。シュー・ツカサにせよ、一般人からすれば快足の部類に入る。それでも、ヒーロ・ハルには遠く及ばないのだ。
ヒーロ・ハルが向かった校舎にいるテロ実行犯2名は、向かい側の校舎でシュー・ツカサによって打倒されていく同士を目撃した。援護射撃をする間もなく打倒される同士をただ呆然と見、自分達自身の危険を背中に感じた時には、彼らの意識は消えた。
ヒーロ・ハルを追って屋上に上がってきた警備兵達にテロ実行犯を引き渡し、カメラ塔へ向かおうとしたヒーロ・ハルだったが、カメラ塔を見てそれを止めた。
『もう安心だ・・・。』
ヒーロ・ハルの目線の先には、カメラ塔を登るシュー・ツカサが映っていた。
コーヤス・イーエは、全ての照射箇所が抑えられたことを知りマリー・ティーチがいる軍特別本部室へ向かった。テロ鎮圧完了の報告をする為だった。
軍特別本部室ではマリー・ティーチ自らが一番に迎いでた。コーヤス・イーエは事態を一部始終説明した。マリー・ティーチは静かにその話を聞き、驚く様子もなく言った。
『ありがとうございました。』
軍特別本部室に事態収拾の連絡が入った。テロ実行犯8名の軍刑務所送検と、2名の身柄確保がそれであった。テロ実行犯8名はいずれも意識がなくテロの陰謀聴取は先になるとのことだった。また、確保された2名については、1名が重傷で軍医療施設へ移送されたとのことだった。
連絡を同室で聞いていたコーヤス・イーエは重傷者がユーリ・ザックではないかと思った。なんの根拠もなく感が妙に働くのである。さっそく退室して軍医療施設へ向かおうとすると、無線にシュー・ツカサからの連絡が入った。重傷者はやはりユーリ・ザックだった。。それでも命に別条はないことを確認できた。軍医療施設の場所も聞き一安心した。コーヤス・イーエはこんな時にでも思うのである。ユーリは訓練なんかよりも実戦にこそ向いているのだと。そしてイベント開始前のユーリ・ザックとの会話を思い出していた。
『イーエ。君の警備配置懸念どおり、メイン舞台を狙われるとまずい。テロは起こる。ただ、それを阻止する時間はどうやらなさそうだ。だから一つ仕掛けを作る。メイン舞台が狙われたらそこから犯行場所を断定してくれ。一度ですべての犯行場所を断定できない可能性もあるから、カメラ塔も狙われせてみるよ。すまんがこれでなんとかしてほしい。』
『ユーリ、待ってくれ。今テロが起こると言ったな。確かに警備配置はまずい。あの配置では舞台下からの警備はできても上空、狙撃からの配慮がまったくできていない。それとテロが実際に起こることとどう関係があるんだ。』
『イーエ。マリー様の親衛隊長である、枝見一紀がマリー様の元を離れ、イベント本部にいるのは変だと思わないか。そして、無造作に試し撮りしたヒーロ・ハルのカメラに映る校舎屋上からの光の反射。警備配置、枝見一紀、屋上の光、これだけでもどういうことだかわかるだろう。まずは、ヒーロにカメラを借りて見てみるといい。』
『確かにカメラに映るこの光はレーザーガンのスコープの反射光に見える。そして、親衛隊長がイベント本部にいるのも見え、マリー様からあれだけ離れた位置にいるのはおかしい。それでも、完全に信用できないでいるのは正直なところだ。が、もしそれが本当だとしたら、もう一刻の猶予もないではないか。』
『そうなんだ。だから、要点だけを最初に話したのさ。もう行った方がいい。この状況下ではイーエ、君しか事をすべて掌握できないだろうから。』
『わかったよユーリ。とにかくリスクがあるのは事実、確認しておいても問題ないであろう。』
『そうそうもう一つ、イーエ。照射位置がわかったらシューに無線連絡を入れてくれ。』
『ユーリ、大丈夫か。レーザーが一本突き抜けたように見えたが。死ぬなよ。』
コーヤス・イーエは、ある不安から沸々と湧いてくる怒りをテロの暗殺者たちに向けた。握りしめた鉄拳を容赦なく暗殺者達の顔面に打ち込んでいった。コーヤス・イーエは、テロ鎮圧までに照射場8か所の内、4か所を自分の足で駆け回り、精鋭であろう暗殺者達を次々に一撃のもとに打倒した。
残り4か所の照射場は、シュー・ツカサとヒーロ・ハルがそれぞれ2か所ずつあたった。白兵戦も達者な二人は難無く4名の暗殺者を捕獲した。こうして、テロは幕を閉じることになった。テロ実行犯は最終的に警備兵へ引き渡されることになるのだが、その前に、コーヤス・イーエの鉄拳は、それを受けていない残りの4名にも容赦なく放たれた。鉄拳を受けた8名はその日誰も目を覚ますことはなかった。
シュー・ツカサは、状況把握に長けた男であった。彼はメイン舞台への第一照射を舞台下のマジック用ボックスで回避していた。マジック用ボックスといっても、メイン舞台にもとより設計され建造されているシェルターで、普段は訓練用として利用されているものであった。その舞台下シェルターでコーヤス・イーエからの照射位置情報を無線連絡で受けた。情報から大凡の状況を把握し舞台下シェルからマリー・ティーチと伴にシェルター脇の扉から舞台裏の機会室に出た。舞台裏の機会室には先の第一照射を回避したヒーロ・ハルが待っていた。シュー・ツカサは、コーヤス・イーエからの情報をヒーロ・ハルに伝え、またマリー・ティーチの身を何も言わず預けた。そして、シュー・ツカサとヒーロ・ハルはアイコンタクトをし、それぞれの役割を把握した。
メイン舞台裏の機会室の窓から勢いよく飛び出したのは、シュー・ツカサだった。地上15メートルの高さから飛び降りたかと思われたが、彼が飛んだ先は、窓脇に地上まで伸びる下水管だった。らせん状に一気にすべり降りると、メイン舞台に一番近い東に位置する校舎へ向かい走りだした。カメラ塔への第二照射を防ぐことはできなかったが、校舎の屋上両端、東西にいた2名のテロ実行犯をわずか5分で打倒した。
マリー・ティーチを安全な場所に誘導したヒーロ・ハルは、シュー・ツカサと反対の校舎の屋上に向かった。カメラ塔への第二照射を目的の校舎の入り口で目撃し、さらなる照射を防ぐ為に学校随一の快足を惜しげもなく発揮した。シュー・ツカサが先行してテロ実行犯の元へ向かったのは、この超人的な脚力を多少なりとも考慮したからであった。シュー・ツカサにせよ、一般人からすれば快足の部類に入る。それでも、ヒーロ・ハルには遠く及ばないのだ。
ヒーロ・ハルが向かった校舎にいるテロ実行犯2名は、向かい側の校舎でシュー・ツカサによって打倒されていく同士を目撃した。援護射撃をする間もなく打倒される同士をただ呆然と見、自分達自身の危険を背中に感じた時には、彼らの意識は消えた。
ヒーロ・ハルを追って屋上に上がってきた警備兵達にテロ実行犯を引き渡し、カメラ塔へ向かおうとしたヒーロ・ハルだったが、カメラ塔を見てそれを止めた。
『もう安心だ・・・。』
ヒーロ・ハルの目線の先には、カメラ塔を登るシュー・ツカサが映っていた。
コーヤス・イーエは、全ての照射箇所が抑えられたことを知りマリー・ティーチがいる軍特別本部室へ向かった。テロ鎮圧完了の報告をする為だった。
軍特別本部室ではマリー・ティーチ自らが一番に迎いでた。コーヤス・イーエは事態を一部始終説明した。マリー・ティーチは静かにその話を聞き、驚く様子もなく言った。
『ありがとうございました。』
軍特別本部室に事態収拾の連絡が入った。テロ実行犯8名の軍刑務所送検と、2名の身柄確保がそれであった。テロ実行犯8名はいずれも意識がなくテロの陰謀聴取は先になるとのことだった。また、確保された2名については、1名が重傷で軍医療施設へ移送されたとのことだった。
連絡を同室で聞いていたコーヤス・イーエは重傷者がユーリ・ザックではないかと思った。なんの根拠もなく感が妙に働くのである。さっそく退室して軍医療施設へ向かおうとすると、無線にシュー・ツカサからの連絡が入った。重傷者はやはりユーリ・ザックだった。。それでも命に別条はないことを確認できた。軍医療施設の場所も聞き一安心した。コーヤス・イーエはこんな時にでも思うのである。ユーリは訓練なんかよりも実戦にこそ向いているのだと。そしてイベント開始前のユーリ・ザックとの会話を思い出していた。
『イーエ。君の警備配置懸念どおり、メイン舞台を狙われるとまずい。テロは起こる。ただ、それを阻止する時間はどうやらなさそうだ。だから一つ仕掛けを作る。メイン舞台が狙われたらそこから犯行場所を断定してくれ。一度ですべての犯行場所を断定できない可能性もあるから、カメラ塔も狙われせてみるよ。すまんがこれでなんとかしてほしい。』
『ユーリ、待ってくれ。今テロが起こると言ったな。確かに警備配置はまずい。あの配置では舞台下からの警備はできても上空、狙撃からの配慮がまったくできていない。それとテロが実際に起こることとどう関係があるんだ。』
『イーエ。マリー様の親衛隊長である、枝見一紀がマリー様の元を離れ、イベント本部にいるのは変だと思わないか。そして、無造作に試し撮りしたヒーロ・ハルのカメラに映る校舎屋上からの光の反射。警備配置、枝見一紀、屋上の光、これだけでもどういうことだかわかるだろう。まずは、ヒーロにカメラを借りて見てみるといい。』
『確かにカメラに映るこの光はレーザーガンのスコープの反射光に見える。そして、親衛隊長がイベント本部にいるのも見え、マリー様からあれだけ離れた位置にいるのはおかしい。それでも、完全に信用できないでいるのは正直なところだ。が、もしそれが本当だとしたら、もう一刻の猶予もないではないか。』
『そうなんだ。だから、要点だけを最初に話したのさ。もう行った方がいい。この状況下ではイーエ、君しか事をすべて掌握できないだろうから。』
『わかったよユーリ。とにかくリスクがあるのは事実、確認しておいても問題ないであろう。』
『そうそうもう一つ、イーエ。照射位置がわかったらシューに無線連絡を入れてくれ。』
テレビ中継特設台は、メイン舞台から100m離れた正面に位置した高さ15mの塔のような建物であった。各テレビカメラは塔の2階にあたる場所で遠隔操作する。シュー・ツカサのマジック開始時には、塔の屋上にメイン舞台にあったマジックボックスと同じものが置かれ、黒幕をかけたままタイミングを待っていた。カメラ塔にレーザーが照射されたのは、この黒幕がとられたタイミングで、台上にいる二人がレーザーで貫かれたというのは先入観のなにものでもなかった。正確には人物ではなくマジックボックスが打ち抜かれた。このマジックを鑑賞している一般客は、少し疑問を覚えた。第一照射を目の当たりにしても瞬間移動のマジックだから二人が消えたはずのマジックボックスをレーザーが突き刺しても演出の一つだと見れる。ただ、レーザーのカメラ塔への第二射は明らかにタイミングがおかしかった。マジック失敗か、それともなにか不測の事態が起こったのか、少しずつだか観衆はざわめき始めた。
ユーリ・ザックとフミ・エリックは、辛うじてマジックのトリックの中に隠れることができた。カメラ塔のマジックボックスにいたのは、瞬間移動してきたシュー・ツカサとマリー・ティーチであるはずもなく、ユーリ・ザックとフミ・エリックであった。このシュー・ツカサの瞬間移動マジックは、至極単純なものであった。まず、瞬間移動する両端の2か所にそれぞれ同じに見えるターゲットを用意する。次に一方のみ登場させてマジックを開始する。一方をボックスに入れあらかじめ用意しておいたボックスの下にあるボックスに隠し、もう一方を登場させる。そしてこれを往復行えば終了となる。ちなみに、もう一方の箇所も上下二段のボックスを用意しておいて、移動先から移動元に戻る際に先と同じ方法を用いる。マジックボックスの下にあるボックスはシェルターであった。上のボックスと下のボックスを仕切っている扉はレーザーでは貫けないほど厚く、また下のボックス自体は、小型のシェルターのようなもので、塔が爆破されても衝撃に耐えられるようになっていた。ユーリ・ザックはフミ・エリックの手を取って、カメラ塔へのレーバー照射が行われた瞬間、マジックボックスを開けて観衆の前に出ることなく、迷わず下のシェルターボックスに飛び降りたのだ。これで多数に突き刺さったレーザーを回避することができたのだ。
『ギリギリだったね。正直、今のは少しまずかった。』
ユーリ・ザックは、その下のボックスの中で本音を漏らした。
『今のは、本物のレーザーでしたよね。しかもトリックとのタイミングもなにもなかった。明らかに私たちを狙っていました。』
フミ・エリックは、一般人ではない。軍学校の生徒である。それでも、状況判断としては申し分ないほどのことを言ったが、心も体もその状況に怯え切っていた。マリー・ティーチ様がテロに命を狙われているだろうことは既に知っている。そして、そのテロを阻止するために自分が身代わりになっていることも分かっている。ただ、実際に命の危険を感じ、死と隣り合わせになった状況で勇気が恐怖に変わりつつあった。軍学校に入り、戦う為の訓練もしてきたはずなのに、この状況にはそれらは全く役に立たなかった。真っ黒なシェルターの中に居て頼るものもなく、恐怖だけが大きくなった。それでも冷静を装っていたつもりだったが、体が小刻みに震えていることさえ本人は知らずにいた。
『大丈夫。もう少しの辛抱さ。頼りになるんだ私の友人達は。』
暗闇の中でユーリ・ザックはそう言い手探りでフミ・エリックの頭を軽く撫でた。そして、右肩を押さえてボックスの壁にもたれ座り込んだ。
『不安ならこっちにおいで、私が君を守ってあげよう。怖くはないよ。だからもっと近くにおいで。』
ユーリ・ザックは、今いるシェルターが強固であり、この中にいればそう簡単には殺られることはないと分かっていた。この強固のシェルターの中にいて、ただ、友人達を待つだけでよかった。この状況下で彼が唯一できることは協力してくれたフミ・エリックの心を少しでも和らげてあげることだけだった。気の効いた言葉を選ぶつもりだったが、ユーリ・ザックにはその余裕はなかった。戦術予報士として軍学校で有名になった彼が、なんの考えもなしに言葉を発した貴重な瞬間だった。
『・・・。』
フミ・エリックは、瞬間ためらい、それでもユーリ・ザックの右横に軽く触れる感じで座った。
『有難うございます。少し冷静になれたような気がします。』
『・・・。』
『先ほどの話ではここまでしか聞いていませんでしたが、よろしければこの先を話していただけますでしょうか。』
『・・・。』
フミ・エリックが話しかけても、ユーリ・ザックは黙ったままだった。なにか考えているのだろうと最初は思っていたが、少し不安が過った。それでもまずは閉ざされた会話を再開することに注力した。
『私、通信機を持っています。これでボックス内を明るくしましょう。』
フミ・エリックはそう言って、腰からぶら下げているポーチの中から通信機を取り出しライト機能を最大出力にしてスイッチを入れようとした。その瞬間、ユーリ・ザックが、フミ・エリック側にもたれた。
『ユーリ。ちょっとなにしてるんですか。』
そういったフミ・エリックの鼻に血の匂いが香った。フミ・エリックの不安は当たった。というよりも不安ではなく、彼女は知っていたのだが忘れていただけだった。急いで通信機のライト機能を使うと、右肩を打たれたユーリ・ザックが目に入ってくるとともに、彼女はさきほどの記憶を鮮明に思い出した。
『な、なんてこと・・・。』
この真っ暗なボックスに入る前、八方から照射されたレーザーの内一本が、閉まる扉の隙間から洩れてくることがわかり、それが自分に当たった記憶を思い出した。ただ、レーザーが当たったのは自分ではなく、それをかばったユーリ・ザックだったことも思いだした。ユーリ・ザックが暗闇の中で何事もなかったかのように話していたので、ついそれを忘れてしまっていた。
『ユーリ。早く、早く、病院へ行かなくちゃ。』
暗闇の中心が通信機のライトでぼんやりと照らされてその中にフミ・エリックとユーリ・ザックがいた。フミ・エリックは軍学校では男勝りに男子に負けないようにすべての訓練をこなしてきた。ただ、今のこの状況下ではなにもすることはできず、止血さえできずにいた。カリキュラムには医療の分野もあったのだが、その時間を銃撃訓練の時間に充てていたのを今になって悔んだ。
『人を守る為に軍人になろうとしているのに。人に守られ、その守ってくれた人の命さえ救うことができないなんて・・・どうしようもない。』
悔しさやら不安やらどうしていいかわからず、フミ・エリックは迂闊にも声を出して泣いてしまっていた。
『・・・大丈夫。私がいる限り・・・君は待つだけでいい。ここに・・・。ほら、もうその時は・・・きた。』
泣き声で気が戻ったユーリ・ザックは、泣き顔のフミ・エリックをやさしい目で見ながらこのシェルター内の10分間の終わりを告げた。そして、ユーリ・ザックは再び昏睡した。フミ・エリックはなにも言わず血だらけのユーリ・ザックを抱きしめた。
『生きてるか。』
シュー・ツカサがその扉を開けたのは、その後すぐだった。
ユーリ・ザックとフミ・エリックは、辛うじてマジックのトリックの中に隠れることができた。カメラ塔のマジックボックスにいたのは、瞬間移動してきたシュー・ツカサとマリー・ティーチであるはずもなく、ユーリ・ザックとフミ・エリックであった。このシュー・ツカサの瞬間移動マジックは、至極単純なものであった。まず、瞬間移動する両端の2か所にそれぞれ同じに見えるターゲットを用意する。次に一方のみ登場させてマジックを開始する。一方をボックスに入れあらかじめ用意しておいたボックスの下にあるボックスに隠し、もう一方を登場させる。そしてこれを往復行えば終了となる。ちなみに、もう一方の箇所も上下二段のボックスを用意しておいて、移動先から移動元に戻る際に先と同じ方法を用いる。マジックボックスの下にあるボックスはシェルターであった。上のボックスと下のボックスを仕切っている扉はレーザーでは貫けないほど厚く、また下のボックス自体は、小型のシェルターのようなもので、塔が爆破されても衝撃に耐えられるようになっていた。ユーリ・ザックはフミ・エリックの手を取って、カメラ塔へのレーバー照射が行われた瞬間、マジックボックスを開けて観衆の前に出ることなく、迷わず下のシェルターボックスに飛び降りたのだ。これで多数に突き刺さったレーザーを回避することができたのだ。
『ギリギリだったね。正直、今のは少しまずかった。』
ユーリ・ザックは、その下のボックスの中で本音を漏らした。
『今のは、本物のレーザーでしたよね。しかもトリックとのタイミングもなにもなかった。明らかに私たちを狙っていました。』
フミ・エリックは、一般人ではない。軍学校の生徒である。それでも、状況判断としては申し分ないほどのことを言ったが、心も体もその状況に怯え切っていた。マリー・ティーチ様がテロに命を狙われているだろうことは既に知っている。そして、そのテロを阻止するために自分が身代わりになっていることも分かっている。ただ、実際に命の危険を感じ、死と隣り合わせになった状況で勇気が恐怖に変わりつつあった。軍学校に入り、戦う為の訓練もしてきたはずなのに、この状況にはそれらは全く役に立たなかった。真っ黒なシェルターの中に居て頼るものもなく、恐怖だけが大きくなった。それでも冷静を装っていたつもりだったが、体が小刻みに震えていることさえ本人は知らずにいた。
『大丈夫。もう少しの辛抱さ。頼りになるんだ私の友人達は。』
暗闇の中でユーリ・ザックはそう言い手探りでフミ・エリックの頭を軽く撫でた。そして、右肩を押さえてボックスの壁にもたれ座り込んだ。
『不安ならこっちにおいで、私が君を守ってあげよう。怖くはないよ。だからもっと近くにおいで。』
ユーリ・ザックは、今いるシェルターが強固であり、この中にいればそう簡単には殺られることはないと分かっていた。この強固のシェルターの中にいて、ただ、友人達を待つだけでよかった。この状況下で彼が唯一できることは協力してくれたフミ・エリックの心を少しでも和らげてあげることだけだった。気の効いた言葉を選ぶつもりだったが、ユーリ・ザックにはその余裕はなかった。戦術予報士として軍学校で有名になった彼が、なんの考えもなしに言葉を発した貴重な瞬間だった。
『・・・。』
フミ・エリックは、瞬間ためらい、それでもユーリ・ザックの右横に軽く触れる感じで座った。
『有難うございます。少し冷静になれたような気がします。』
『・・・。』
『先ほどの話ではここまでしか聞いていませんでしたが、よろしければこの先を話していただけますでしょうか。』
『・・・。』
フミ・エリックが話しかけても、ユーリ・ザックは黙ったままだった。なにか考えているのだろうと最初は思っていたが、少し不安が過った。それでもまずは閉ざされた会話を再開することに注力した。
『私、通信機を持っています。これでボックス内を明るくしましょう。』
フミ・エリックはそう言って、腰からぶら下げているポーチの中から通信機を取り出しライト機能を最大出力にしてスイッチを入れようとした。その瞬間、ユーリ・ザックが、フミ・エリック側にもたれた。
『ユーリ。ちょっとなにしてるんですか。』
そういったフミ・エリックの鼻に血の匂いが香った。フミ・エリックの不安は当たった。というよりも不安ではなく、彼女は知っていたのだが忘れていただけだった。急いで通信機のライト機能を使うと、右肩を打たれたユーリ・ザックが目に入ってくるとともに、彼女はさきほどの記憶を鮮明に思い出した。
『な、なんてこと・・・。』
この真っ暗なボックスに入る前、八方から照射されたレーザーの内一本が、閉まる扉の隙間から洩れてくることがわかり、それが自分に当たった記憶を思い出した。ただ、レーザーが当たったのは自分ではなく、それをかばったユーリ・ザックだったことも思いだした。ユーリ・ザックが暗闇の中で何事もなかったかのように話していたので、ついそれを忘れてしまっていた。
『ユーリ。早く、早く、病院へ行かなくちゃ。』
暗闇の中心が通信機のライトでぼんやりと照らされてその中にフミ・エリックとユーリ・ザックがいた。フミ・エリックは軍学校では男勝りに男子に負けないようにすべての訓練をこなしてきた。ただ、今のこの状況下ではなにもすることはできず、止血さえできずにいた。カリキュラムには医療の分野もあったのだが、その時間を銃撃訓練の時間に充てていたのを今になって悔んだ。
『人を守る為に軍人になろうとしているのに。人に守られ、その守ってくれた人の命さえ救うことができないなんて・・・どうしようもない。』
悔しさやら不安やらどうしていいかわからず、フミ・エリックは迂闊にも声を出して泣いてしまっていた。
『・・・大丈夫。私がいる限り・・・君は待つだけでいい。ここに・・・。ほら、もうその時は・・・きた。』
泣き声で気が戻ったユーリ・ザックは、泣き顔のフミ・エリックをやさしい目で見ながらこのシェルター内の10分間の終わりを告げた。そして、ユーリ・ザックは再び昏睡した。フミ・エリックはなにも言わず血だらけのユーリ・ザックを抱きしめた。
『生きてるか。』
シュー・ツカサがその扉を開けたのは、その後すぐだった。
彼女はユーリ・ザックのことを単純に変わった面白い人だと思った。現時点では、ユーリ・ザックが言ったことをすべて信用した訳ではない。ただ、もし万一マリー様の命が狙われていたとしたら、それはフミ・エリックにとっても阻止すべき大事なことだった。フミ・エリックにとっても、マリー・ティーチは重要で大事な尊敬すべき人物であった。自分が協力することで、なにかの助けになるのなら協力は惜しまないつもりだった。ただ、あくまでもそれが事実だった場合に。
フミ・エリックは、ユーリ・ザックのことを実は知っていた。ただ、面識はなかった。彼女が彼を知っていたのは、彼が行った戦術シミュレーションのログが後輩達の教材になっていたので、彼の名前だけを覚えていた。彼の戦術眼に魅了され学校内にいるユーリ・ザックという人に一度は会ってみたいと思っていた。そんな、ユーリ・ザックがふと目の前に現れた。驚きを隠すのがせいいっぱいで、それ以上のことは考えられなかった。マリー様の暗殺にしても、2の次ぎになっていたほど冷静さを欠いていた。ユーリ・ザックは、どこにでもいる普通の外見を持った男だった。中肉中背でかっこよさやセンスなんて微塵も漂っていなかった。それでも、フミ・エリックには輝いて見えた。現時点において、恋愛感情はなく、ただ、尊敬する偉人といろいろと語り合いたいと思った。
PM3:00。講演の司会が舞台に立った。
それは、軍服からスーツに着替えたヒーロ・ハルだった。彼は3000人以上の群衆ざわめく中、形式的な進行を進め始めた。そして、一部プログラムの変更があることを宣言し、その内容を説明した。それは、マリー・ティーチ様に協力を仰ぎ大マジックをするというものだった。題して瞬間移動。講演舞台から指定した場所にマリー・ティーチ様が瞬間移動するというマジック。
「マジシャンは、本学の皆さんお馴染みのシュー・ツカサ。」
ヒーロ・ハルは、それほどお馴染みでもないシュー・ツカサを舞台上で紹介した。シュー・ツカサは典型的なマジシャンの衣装を着用し舞台に上がった。
瞬間移動用マジックボックスを登場させ、群衆にマジックを説明した。そして、マジック参加に快諾したマリー・ティーチが、ボックスに入った。そして群衆の歓声が沸いた。
「わたくし、シュー・ツカサもこのボックスに入ります。」
とシュー・ツカサは言い、二人でボックスに入ってしまった。その瞬間驚くべきことが起こった。マリー・ティーチとシュー・ツカサが入ったマジックボックスに向けて無数のレザーが突き刺さった。群衆の歓声は止み静けさが辺りを包んだ。舞台上の誰もが驚きの為だまり込んでいた。そして実際よりも長く感じる30秒が過ぎた。だんだんと会場がざわつき始めた。ヒーロ・ハルはゆっくりと舞台の真中に歩み、右手のマイクを持って話始めた。
『みなさん、驚きのことでしょう。でもご案ください。』
ヒーロ・ハルの右手にはマイク、左手には携帯通信機が握られていた。その通信機から直後に連絡が入り、ヒーロ・ハルは了解を告げ通信を終えた。そして、未だざわつく会場に向けさらに言った。
『では、マジックの本題に入りましょう。今から10秒を会場全体で数えてください。10秒後、私ヒーロが指す先にお二人が瞬間移動します。さあ、いきますよ。10。』
ヒーロ・ハルのカウントダウンでざわつく会場から徐々にカウントダウンが始まった。9、8、7。6、5、4。そして、3、2、1。ゆっくりとヒーロ・ハルは、聴衆の中央に右手に持つマイクを向けた。そして、カウントダウンを終えた聴衆は、ヒーロ・ハルがマイクで指した方向に目を向けた。そこには、テレビ中継用の高さ5メートル程度の特設台があった。そして、聴衆はその台の上を見上げると、そこにはさきほどまでカメラマンであったはずの二人がその衣装を脱ぎ、誰もが想像する二人に変わっていた。そうマリー・ティーチとシュー・ツカサがそこにいた。それを見た会場全体から割れんばかりの歓声が起こった。ただ、ヒーロ・ハルはまったく驚く様子もなく再びマイクを持って言った。
『みなさん、まだマジックは終わっていません。これから再度、この舞台にお二人が瞬間移動します。』
ヒーロ・ハルが言い終える前に再びレーザーが会場のテレビ中継特設台上の二人を突き刺した。
フミ・エリックは、ユーリ・ザックのことを実は知っていた。ただ、面識はなかった。彼女が彼を知っていたのは、彼が行った戦術シミュレーションのログが後輩達の教材になっていたので、彼の名前だけを覚えていた。彼の戦術眼に魅了され学校内にいるユーリ・ザックという人に一度は会ってみたいと思っていた。そんな、ユーリ・ザックがふと目の前に現れた。驚きを隠すのがせいいっぱいで、それ以上のことは考えられなかった。マリー様の暗殺にしても、2の次ぎになっていたほど冷静さを欠いていた。ユーリ・ザックは、どこにでもいる普通の外見を持った男だった。中肉中背でかっこよさやセンスなんて微塵も漂っていなかった。それでも、フミ・エリックには輝いて見えた。現時点において、恋愛感情はなく、ただ、尊敬する偉人といろいろと語り合いたいと思った。
PM3:00。講演の司会が舞台に立った。
それは、軍服からスーツに着替えたヒーロ・ハルだった。彼は3000人以上の群衆ざわめく中、形式的な進行を進め始めた。そして、一部プログラムの変更があることを宣言し、その内容を説明した。それは、マリー・ティーチ様に協力を仰ぎ大マジックをするというものだった。題して瞬間移動。講演舞台から指定した場所にマリー・ティーチ様が瞬間移動するというマジック。
「マジシャンは、本学の皆さんお馴染みのシュー・ツカサ。」
ヒーロ・ハルは、それほどお馴染みでもないシュー・ツカサを舞台上で紹介した。シュー・ツカサは典型的なマジシャンの衣装を着用し舞台に上がった。
瞬間移動用マジックボックスを登場させ、群衆にマジックを説明した。そして、マジック参加に快諾したマリー・ティーチが、ボックスに入った。そして群衆の歓声が沸いた。
「わたくし、シュー・ツカサもこのボックスに入ります。」
とシュー・ツカサは言い、二人でボックスに入ってしまった。その瞬間驚くべきことが起こった。マリー・ティーチとシュー・ツカサが入ったマジックボックスに向けて無数のレザーが突き刺さった。群衆の歓声は止み静けさが辺りを包んだ。舞台上の誰もが驚きの為だまり込んでいた。そして実際よりも長く感じる30秒が過ぎた。だんだんと会場がざわつき始めた。ヒーロ・ハルはゆっくりと舞台の真中に歩み、右手のマイクを持って話始めた。
『みなさん、驚きのことでしょう。でもご案ください。』
ヒーロ・ハルの右手にはマイク、左手には携帯通信機が握られていた。その通信機から直後に連絡が入り、ヒーロ・ハルは了解を告げ通信を終えた。そして、未だざわつく会場に向けさらに言った。
『では、マジックの本題に入りましょう。今から10秒を会場全体で数えてください。10秒後、私ヒーロが指す先にお二人が瞬間移動します。さあ、いきますよ。10。』
ヒーロ・ハルのカウントダウンでざわつく会場から徐々にカウントダウンが始まった。9、8、7。6、5、4。そして、3、2、1。ゆっくりとヒーロ・ハルは、聴衆の中央に右手に持つマイクを向けた。そして、カウントダウンを終えた聴衆は、ヒーロ・ハルがマイクで指した方向に目を向けた。そこには、テレビ中継用の高さ5メートル程度の特設台があった。そして、聴衆はその台の上を見上げると、そこにはさきほどまでカメラマンであったはずの二人がその衣装を脱ぎ、誰もが想像する二人に変わっていた。そうマリー・ティーチとシュー・ツカサがそこにいた。それを見た会場全体から割れんばかりの歓声が起こった。ただ、ヒーロ・ハルはまったく驚く様子もなく再びマイクを持って言った。
『みなさん、まだマジックは終わっていません。これから再度、この舞台にお二人が瞬間移動します。』
ヒーロ・ハルが言い終える前に再びレーザーが会場のテレビ中継特設台上の二人を突き刺した。
地球連合軍の若き中将達、ユーリ・ザック、シュー・ツカサ、ヒーロ・ハル、そして現連合府首相親衛隊長コーヤス・エーイは、同じ士官学校を卒業した同級生である。選考学科はそれぞれ異なるものの、4人は士官寮で同部屋になり仲を深めていった。彼らの最初の実戦は、イオの討伐であった。よき友、よきライバルである4人が初めて共同し、見事な功績によってその実力を連合首脳に知らしめることになった。
士官学校時代の彼らは、それほど優秀ではなかった。ただ、それは能力全般を標準で評価した場合のことで、それぞれの得意分野においては群を抜いての才を発揮していた。シュー・ツカサは、現状把握することに長け、艦隊戦シミュレーションにおいて、勝敗はともかく艦隊運用で教官達を唸らした。ヒーロ・ハルは、艦隊戦シミュレーションにおいて、無敗を誇った。彼の戦術は艦隊の機動性を高め相手の先手を取っての先制攻撃にあった。常に相手よりも数的優位な状況を作り、各個撃破および戦力一転集中での圧倒的勝利をあげていった。コーヤス・エーイは、艦隊戦シミュレーションにおいては標準的な評価しか得られなかったが、戦闘訓練においては教官さえも負かす腕を見せ学校始まっての至上最高評価を得た。ユーリ・ザックは、艦隊戦シミュレーションと歴史分野には秀でる才を評価されていたが、他の分野において標準以下を記録し落第すれすれをなんとか乗り越え卒業を勝ち取った。
在学4年目のある日、ある事件が起こった。
その日は、士官学校の創立記念祭で、地域の住民や軍関係者各方面の人々を招待しての大規模なイベントが開催されていた。中でもシーマ・ティーチ首相の妹、マリー・ティーチが連合府代表として講演するイベントは全参加者の注目をひいていた。
士官学校の校舎群が囲む中に、講演会場が特設されていた。教官棟をバックに高さ15メートルの舞台が立てられ、約3000人が集まるイベント会場のどこからでも講演者が見えるように作られていた。警備要員は800名、いずれも連合府直属部隊のメンバーだった。総指揮は親衛隊長の枝見一紀、冷静沈着がもっとうな男であった。
マリー・ティーチの講演は、PM3:00を予定されていた。昼食を済ませた人々から徐々に中庭に集まりはじめ、PM2:00にはすでに2500人以上の人々が信愛なるマリー・ティーチの登場を待ち望んでいた。そしてその中に、士官学校の彼ら4人もいた。
「ユーリ。やはりマリー様となると人が集まるもんだな。」
シュー・ツカサは、周囲の騒音に耳をふさぎながらもユーリ・ザックに言った。彼は、マリー・ティーチの講演内容にも十分興味はあったが、それ以上に彼女の美貌を拝観することに興味があった。そしてそれは、ヒーロ・ハルも同様であった。新しく購入したムービーカメラでその美貌を記録することに必死になっていた。
「ユーリ。この警備は少し不味いように思えるが、どう思う。」
コーヤス・エーイは、周囲の状況を即座に読み取りユーリ・ザックに言った。
「確かに、まずいね。それに、さっきから妙な輩が目につくな。」
ユーリ・ザックは、コーヤス・エーイの耳もとで小さくなにかを囁いた。コーヤス・エーイは何度か頷き、小さな声で確認を済ませ人ごみに消えた。それを見ていたシュー・ツカサが言った。
「コーヤスはどうした。トイレにでも行ったのか。」
ユーリ・ザックは、表情を変えずにここでテロが起こると言った。もともと、返事を期待してなかったシュー・ツカサはその言葉の意味を理解せずに「そうか。」と言ったが、時間差でその意味に気付き驚いた。
「コーヤスは、警備配置の訂正を申出にイベント開催本部へ行った。」
ユーリ・ザックは、こう続けると腕を組み思考にふけっていった。
「テロ。テロだと。誰が。誰が企んでるんだ。」
ユーリ・ザックはすぐには返事をせず、彼にとってはそれほど難しくもないパズルを解き終えてから言った。
「シュー、ヒーロ。少し協力してくれ。マリー・ティーチ様に間近で会えるかもしれないから。」
シュー・ツカサとヒーロ・ハルは状況も理解できないまま驚いた。だが、マリー・ティーチが危険にさらされるらしいということと、間近で会えるということによって多少あった疑問は消し飛んだ。ユーリ・ザックがいつもと違いはっきりと物を言うときは必ずなにかあるということは二人には分かっていたし、感覚的にこれは予想以上に急なことだと察したからである。また、状況把握は動きながらでも十分できると踏んだからである。物を考えることよりもむしろ動くことによって最大のパフォーマンスを発揮する彼らだった。
ユーリ・ザックは、手短に2つのことを告げた。舞台をのっとり、そしてシュー・ツカサの例の特技を披露しろと。それを聞いた二人は顔を合わせイメージの共有をし、そして群衆をかき分けユーリ・ザックのもとを離れた。ユーリ・ザックは3人が去った後しばらくして、急に後ろを振り向いた。
「盗み聞きはよくない。」
突然ユーリ・ザックから声をかけられた女生徒はびっくりして動きが止まった。
「私は、ユーリ・ザック。なにか聞きたいことはあるかい。ま、その前に君は誰かな。」
ユーリ・ザックは、じっくりと彼女を見ている。女性徒は何にでも興味のある明朗活発な女性だった。また、女性であると同時に士官学校の優秀な生徒でもあった。学年でいえばユーリ・ザックよりも2年下の後輩にあたる、先ほど確かに耳にしたテロという言葉は聞き捨てならないものだった。まだ、びっくりして上がった心拍数は下がらないが、勇気を出して話始めた。
「私は、フミ・エリックと言います。決して盗み聞きするつもりはなかったのですが、一人でこの場所にいまして、たまたま耳に入ってきた言葉に興味をひかれました。」
「今のは本当のことですか。真剣な雰囲気でしたので気になりましたが、冗談ですよね。」
ユーリ・ザックは、彼女に質問をしろと言っておきながら、彼女の言葉を聞いてはいなかった。しばらくじっと見つめていた彼女から目を外し、彼女の顔に目を移し言った。
「君にも協力してもらおう。」
そしてユーリ・ザックは、彼女に第2の聴衆者を出さないよう周囲に気を配りながらテロの全容と依頼事を話した。話を聞いた彼女は、テロの全容に関してはまったく信じられなかったが、依頼事に関しては今日という記念イベントの協力になることだったので断る理由もなく協力する気になっていた。
「ユーリ。あなたはどういった方なのですか、イベント運用係かなにかの人ですか。なんだか理由付けはよくわかりませんが、頼み事の方は大事な事だと思いますので協力します。」
「私はただの戦術予報士さ。みんなの協力ですべて上手くいくさ。テロのことにしろイベントのことにしろね。」
ユーリ・ザックは、これから起こる真実を話したつもりだったが、彼女にとっては信じられそうにもないのも十分にわかったので、あえてテロの真偽は強要しなかった。そしてユーリ・ザックの僅かな遊び心で一言だけ付け加えた。
「君が協力してくれるなら、僕が艦隊司令になったら君を艦隊副司令に迎えるよ。」
士官学校時代の彼らは、それほど優秀ではなかった。ただ、それは能力全般を標準で評価した場合のことで、それぞれの得意分野においては群を抜いての才を発揮していた。シュー・ツカサは、現状把握することに長け、艦隊戦シミュレーションにおいて、勝敗はともかく艦隊運用で教官達を唸らした。ヒーロ・ハルは、艦隊戦シミュレーションにおいて、無敗を誇った。彼の戦術は艦隊の機動性を高め相手の先手を取っての先制攻撃にあった。常に相手よりも数的優位な状況を作り、各個撃破および戦力一転集中での圧倒的勝利をあげていった。コーヤス・エーイは、艦隊戦シミュレーションにおいては標準的な評価しか得られなかったが、戦闘訓練においては教官さえも負かす腕を見せ学校始まっての至上最高評価を得た。ユーリ・ザックは、艦隊戦シミュレーションと歴史分野には秀でる才を評価されていたが、他の分野において標準以下を記録し落第すれすれをなんとか乗り越え卒業を勝ち取った。
在学4年目のある日、ある事件が起こった。
その日は、士官学校の創立記念祭で、地域の住民や軍関係者各方面の人々を招待しての大規模なイベントが開催されていた。中でもシーマ・ティーチ首相の妹、マリー・ティーチが連合府代表として講演するイベントは全参加者の注目をひいていた。
士官学校の校舎群が囲む中に、講演会場が特設されていた。教官棟をバックに高さ15メートルの舞台が立てられ、約3000人が集まるイベント会場のどこからでも講演者が見えるように作られていた。警備要員は800名、いずれも連合府直属部隊のメンバーだった。総指揮は親衛隊長の枝見一紀、冷静沈着がもっとうな男であった。
マリー・ティーチの講演は、PM3:00を予定されていた。昼食を済ませた人々から徐々に中庭に集まりはじめ、PM2:00にはすでに2500人以上の人々が信愛なるマリー・ティーチの登場を待ち望んでいた。そしてその中に、士官学校の彼ら4人もいた。
「ユーリ。やはりマリー様となると人が集まるもんだな。」
シュー・ツカサは、周囲の騒音に耳をふさぎながらもユーリ・ザックに言った。彼は、マリー・ティーチの講演内容にも十分興味はあったが、それ以上に彼女の美貌を拝観することに興味があった。そしてそれは、ヒーロ・ハルも同様であった。新しく購入したムービーカメラでその美貌を記録することに必死になっていた。
「ユーリ。この警備は少し不味いように思えるが、どう思う。」
コーヤス・エーイは、周囲の状況を即座に読み取りユーリ・ザックに言った。
「確かに、まずいね。それに、さっきから妙な輩が目につくな。」
ユーリ・ザックは、コーヤス・エーイの耳もとで小さくなにかを囁いた。コーヤス・エーイは何度か頷き、小さな声で確認を済ませ人ごみに消えた。それを見ていたシュー・ツカサが言った。
「コーヤスはどうした。トイレにでも行ったのか。」
ユーリ・ザックは、表情を変えずにここでテロが起こると言った。もともと、返事を期待してなかったシュー・ツカサはその言葉の意味を理解せずに「そうか。」と言ったが、時間差でその意味に気付き驚いた。
「コーヤスは、警備配置の訂正を申出にイベント開催本部へ行った。」
ユーリ・ザックは、こう続けると腕を組み思考にふけっていった。
「テロ。テロだと。誰が。誰が企んでるんだ。」
ユーリ・ザックはすぐには返事をせず、彼にとってはそれほど難しくもないパズルを解き終えてから言った。
「シュー、ヒーロ。少し協力してくれ。マリー・ティーチ様に間近で会えるかもしれないから。」
シュー・ツカサとヒーロ・ハルは状況も理解できないまま驚いた。だが、マリー・ティーチが危険にさらされるらしいということと、間近で会えるということによって多少あった疑問は消し飛んだ。ユーリ・ザックがいつもと違いはっきりと物を言うときは必ずなにかあるということは二人には分かっていたし、感覚的にこれは予想以上に急なことだと察したからである。また、状況把握は動きながらでも十分できると踏んだからである。物を考えることよりもむしろ動くことによって最大のパフォーマンスを発揮する彼らだった。
ユーリ・ザックは、手短に2つのことを告げた。舞台をのっとり、そしてシュー・ツカサの例の特技を披露しろと。それを聞いた二人は顔を合わせイメージの共有をし、そして群衆をかき分けユーリ・ザックのもとを離れた。ユーリ・ザックは3人が去った後しばらくして、急に後ろを振り向いた。
「盗み聞きはよくない。」
突然ユーリ・ザックから声をかけられた女生徒はびっくりして動きが止まった。
「私は、ユーリ・ザック。なにか聞きたいことはあるかい。ま、その前に君は誰かな。」
ユーリ・ザックは、じっくりと彼女を見ている。女性徒は何にでも興味のある明朗活発な女性だった。また、女性であると同時に士官学校の優秀な生徒でもあった。学年でいえばユーリ・ザックよりも2年下の後輩にあたる、先ほど確かに耳にしたテロという言葉は聞き捨てならないものだった。まだ、びっくりして上がった心拍数は下がらないが、勇気を出して話始めた。
「私は、フミ・エリックと言います。決して盗み聞きするつもりはなかったのですが、一人でこの場所にいまして、たまたま耳に入ってきた言葉に興味をひかれました。」
「今のは本当のことですか。真剣な雰囲気でしたので気になりましたが、冗談ですよね。」
ユーリ・ザックは、彼女に質問をしろと言っておきながら、彼女の言葉を聞いてはいなかった。しばらくじっと見つめていた彼女から目を外し、彼女の顔に目を移し言った。
「君にも協力してもらおう。」
そしてユーリ・ザックは、彼女に第2の聴衆者を出さないよう周囲に気を配りながらテロの全容と依頼事を話した。話を聞いた彼女は、テロの全容に関してはまったく信じられなかったが、依頼事に関しては今日という記念イベントの協力になることだったので断る理由もなく協力する気になっていた。
「ユーリ。あなたはどういった方なのですか、イベント運用係かなにかの人ですか。なんだか理由付けはよくわかりませんが、頼み事の方は大事な事だと思いますので協力します。」
「私はただの戦術予報士さ。みんなの協力ですべて上手くいくさ。テロのことにしろイベントのことにしろね。」
ユーリ・ザックは、これから起こる真実を話したつもりだったが、彼女にとっては信じられそうにもないのも十分にわかったので、あえてテロの真偽は強要しなかった。そしてユーリ・ザックの僅かな遊び心で一言だけ付け加えた。
「君が協力してくれるなら、僕が艦隊司令になったら君を艦隊副司令に迎えるよ。」
冥王星要塞メインブリッジには、柴田首相、ツー・中村大将、ユウカ・ビート大将、ユイ・フォン大将の4名の他に2名がいた。一人は、首相補佐官であるミン・ロネン。もう一人は、海賊団の団長の一人で名をウーミ・ライといった。ミン・ロネンは、冥王星国家設立時に首相補佐官に任命されたわけだが、彼女の仕事は依然変わらず柴田幸の雑務だった。しかもどの雑務も柴田自身ができるはずであろう簡単なものばかりであった。ミン・ロネンは真面目な女性だった。雑務に対して不満を感じながらも淡々とこなしていった。30前半の年齢の割には若く見える容姿が柴田幸の目にとまったらしい。大物は秘書がいて当然という間違った先入感から彼女を雇い始め、首相には補佐官がいて当然というやはり間違った先入感から彼女を高級官に引き上げた。
単純に組織図でみれば、首相補佐官は大将よりも上役になっていた。彼女の本性はわがままであったが、その補佐官特権を使って下級士官になにかをさせるということはしなかった。彼女がそうあらずに済んだのは、柴田幸という反面教師がいたからであった。彼の家臣への横暴は目に余った。彼女にとって、この補佐官という任は非常に重かったが、高給な仕事だと割り切っていた。
海賊団団長ウーミ・ライは、開戦前の海賊団作戦会議から柴田幸らと共に要塞に入っていた。作戦会議後、海賊団が主砲で撃ち落とされない為の保険として3人の団長の内一人は、要塞内で観戦させてもらうという条件が付けられたからであった。要塞に入るとすぐに柴田幸は自室にもどってしまった。ウーミ・ライの扱いはツー・中村が行うことになった。ウーミ・ライは、ツー・中村に事前にいくつか作戦の詳細を確認しておきたいと言った。作戦詳細はサブブリッジのメンバが担当しているとツー・中村は伝え、サブブリッジでウーミ・ライを紹介した。バリ・ストームとワッツ・ツインが加わり4人で詳細を確認した。ただ、開始5分後に柴田幸からツー・中村に至急の呼び出しがかかりそれ以降は3人で確認を続けた。さらに、ウーミ・ライはバリ・ストームに許可を取り、ワッツ・ツインと2人で主砲射程の詳細確認を行った。結果、ウーミ・ライがメインブリッジに入ってきたのは、開戦後すぐの混乱が止んだ頃だった。柴田幸とツー・中村はメインスクリーンに集中していたのでウーミ・ライに気づいていなかったが、それ以外の3名は気づいた。
ミン・ロネンは、ウーミ・ライを見たとき違和感を感じた。洗練された美貌、まるで同性ではないかと思えるほど綺麗だった。ただ、立ち振る舞いは男性のそれであったので、それ以上気にはならなかった。ユイ・フォン大将、ユウカ・ビート大将、ミン・ロネン補佐官とも、事前にツー・中村からウーミ・ライ団長が来ることを知っていたので、彼にわずかに魅かれる以外には驚きはなかった。
連合軍と冥王星軍の戦闘宙域は、冥王星軍の誘導作戦どおり徐々に冥王星要塞主砲の射程距離に近づいていた。そして、両軍のレーダーにはまだ検知されていないが、海賊団の包囲隊が連合艦隊に近づいていた。両軍ともに通信状況は未だ回復せず、冥王星要塞から冥王星艦隊軍への通信が困難な状況になっていた。海賊団の通信は独自の技術を利用していたので、要塞内との連絡も問題なく行われていた。ただ、実際にやりとりをしていたのは、要塞内にて観戦しているウーミ・ライ団長だけであったので、実際の通信状況および内容は誰も把握できなかった。
『柴田首相、こちらは包囲作戦を開始しました。』
海賊船団と通信を終えたウーミ・ライ団長が言った。メインブリッジのメインスクリーンのみに注意を払っていた柴田幸が、いつのまにかメインブリッジ内に来ていたウーミ・ライに驚きながらも、作戦開始報告を聞いて「了解した。」と言った。本来ならこの段階で、冥王星艦隊に退避命令を出す予定だった。通信不良の為この指示が出せずにいた柴田幸は苛立ったが、それでもしばらく後、メインスクリーンに映る冥王星艦隊が退避行動に移ったのを確認し安堵した。冥王星艦隊が退避した後、連合艦隊が後退を開始しようとした。そこへ、予定どおり海賊船団が到着し、要塞主砲宙域へ追い込むように包囲攻撃を開始した。奇襲攻撃を受けた連合艦隊は、戦線離脱をあせり要塞主砲射程領域になだれこんでいった。
『よし、未だ打て。』
要塞メインブリッジで柴田幸が叫んだ。その声にツー・中村は焦っていた。彼が発射命令を出すのが早すぎると思ったからであった。いくら柴田が実践に疎いとはいえ、この状況で発射命令を出すとは思っていなかった。柴田が主砲発射指示を出す段取りは、実務を担当するサブブリッジには伝えていない。微妙なタイミング必要となるこの作戦において、指示系統の混乱が失敗を招くことを恐れていたから敢えて伝えずにいた。予想では、柴田の発射タイミングとサブブリッジの発射タイミングがわずかにずれてもどうとでも言い訳はできると思っていた。しかし、これではあまりにずれ過ぎている。この指示普通に柴田が苛立ち、今他の部門へ騒動をまきちらされては戦況すら悪化しかねない。どうしたものか。ツー・中村はうまい言い訳も見いだせずに沈黙していた。
『おい、発射だ。主砲発射だぞ。聞こえないのか。』
『・・・。』
柴田幸は、黙ってしまったツー・中村をじっと睨んだ。そして、机を叩き怒鳴り始めようとした。
『柴田首相、すでに発射指示は伝わっていると思いますよ。私が言うのもなんですが、発射指示後からエネルギー充填が行われ、充填完了後のエネルギー粒子放出になるので、今指示されたので5分後かと。』
話に割り込んだのは、ウーミ・ライ団長だった。発射指示から放出まで5分なんでいう常識は実際はない。エネルギー充填など実射が伴う作戦なので、当然準備段階で終了している。ウーミ・ライがそう言ったのは、柴田幸を黙らせる為だけの文句でしかなかった。ツー・中村はそれがわかっていた。普段ならいざ知らず今回はウーミ・ライのこの機転に感謝した。
『ウーミ・ライ団長。そんなことはもちろん知っていた。ただ、エネルギー充填確認をしたかっただけだ。』
柴田幸は言ったが、誰も聞いてはいなかった。そうするうちに、要塞内に艦隊が帰還完了という報告が入った。報告を受けたツー・中村は、もうすぐ5分経つのを見計らい合わせて言った。
『柴田首相、艦隊が帰還しました。またエネルギー充填完了、放射開始とのことです。』
ウーミ・ライが言った放射5分後に関して、ツー・中村は妥当だと考えていた。艦隊帰還も確認できたしもう放射されるだろうと踏んで柴田幸にそう報告した。
冥王星要塞主砲は5分後無事放射された。
主砲射程に包囲され閉じ込められていた連合軍は、どうすることもできず主砲の直撃を受けた。主砲射程宙域は大きな光に包まれた。
要塞内メインブリッジのメインスクリーンは大きな光で満たされていた。その後、スクリーンが映したものは何事もなかったかのような宇宙空間だった。それでも柴田幸を始め、ツー・中村、ユイ・フォン、ユウカ・ビート、ミン・ロネンは柴田幸の歓喜に注意をそらされていた。
『みなのもの。まずは初戦。大勝利だったな。』
『そのようですね。』
柴田幸はすべて自分の手柄のように勝ち誇って言った。そして、ツー・中村はもう後戻りできないことを改めて知り、ただ柴田に合わせる以外なかった。それを見ていたウーミ・ライは口元で苦笑いをしていた。そして、次にここで起こることに対しての段取りを始じめる為、柴田に祝辞を述べメインブリッジをあとにした。
単純に組織図でみれば、首相補佐官は大将よりも上役になっていた。彼女の本性はわがままであったが、その補佐官特権を使って下級士官になにかをさせるということはしなかった。彼女がそうあらずに済んだのは、柴田幸という反面教師がいたからであった。彼の家臣への横暴は目に余った。彼女にとって、この補佐官という任は非常に重かったが、高給な仕事だと割り切っていた。
海賊団団長ウーミ・ライは、開戦前の海賊団作戦会議から柴田幸らと共に要塞に入っていた。作戦会議後、海賊団が主砲で撃ち落とされない為の保険として3人の団長の内一人は、要塞内で観戦させてもらうという条件が付けられたからであった。要塞に入るとすぐに柴田幸は自室にもどってしまった。ウーミ・ライの扱いはツー・中村が行うことになった。ウーミ・ライは、ツー・中村に事前にいくつか作戦の詳細を確認しておきたいと言った。作戦詳細はサブブリッジのメンバが担当しているとツー・中村は伝え、サブブリッジでウーミ・ライを紹介した。バリ・ストームとワッツ・ツインが加わり4人で詳細を確認した。ただ、開始5分後に柴田幸からツー・中村に至急の呼び出しがかかりそれ以降は3人で確認を続けた。さらに、ウーミ・ライはバリ・ストームに許可を取り、ワッツ・ツインと2人で主砲射程の詳細確認を行った。結果、ウーミ・ライがメインブリッジに入ってきたのは、開戦後すぐの混乱が止んだ頃だった。柴田幸とツー・中村はメインスクリーンに集中していたのでウーミ・ライに気づいていなかったが、それ以外の3名は気づいた。
ミン・ロネンは、ウーミ・ライを見たとき違和感を感じた。洗練された美貌、まるで同性ではないかと思えるほど綺麗だった。ただ、立ち振る舞いは男性のそれであったので、それ以上気にはならなかった。ユイ・フォン大将、ユウカ・ビート大将、ミン・ロネン補佐官とも、事前にツー・中村からウーミ・ライ団長が来ることを知っていたので、彼にわずかに魅かれる以外には驚きはなかった。
連合軍と冥王星軍の戦闘宙域は、冥王星軍の誘導作戦どおり徐々に冥王星要塞主砲の射程距離に近づいていた。そして、両軍のレーダーにはまだ検知されていないが、海賊団の包囲隊が連合艦隊に近づいていた。両軍ともに通信状況は未だ回復せず、冥王星要塞から冥王星艦隊軍への通信が困難な状況になっていた。海賊団の通信は独自の技術を利用していたので、要塞内との連絡も問題なく行われていた。ただ、実際にやりとりをしていたのは、要塞内にて観戦しているウーミ・ライ団長だけであったので、実際の通信状況および内容は誰も把握できなかった。
『柴田首相、こちらは包囲作戦を開始しました。』
海賊船団と通信を終えたウーミ・ライ団長が言った。メインブリッジのメインスクリーンのみに注意を払っていた柴田幸が、いつのまにかメインブリッジ内に来ていたウーミ・ライに驚きながらも、作戦開始報告を聞いて「了解した。」と言った。本来ならこの段階で、冥王星艦隊に退避命令を出す予定だった。通信不良の為この指示が出せずにいた柴田幸は苛立ったが、それでもしばらく後、メインスクリーンに映る冥王星艦隊が退避行動に移ったのを確認し安堵した。冥王星艦隊が退避した後、連合艦隊が後退を開始しようとした。そこへ、予定どおり海賊船団が到着し、要塞主砲宙域へ追い込むように包囲攻撃を開始した。奇襲攻撃を受けた連合艦隊は、戦線離脱をあせり要塞主砲射程領域になだれこんでいった。
『よし、未だ打て。』
要塞メインブリッジで柴田幸が叫んだ。その声にツー・中村は焦っていた。彼が発射命令を出すのが早すぎると思ったからであった。いくら柴田が実践に疎いとはいえ、この状況で発射命令を出すとは思っていなかった。柴田が主砲発射指示を出す段取りは、実務を担当するサブブリッジには伝えていない。微妙なタイミング必要となるこの作戦において、指示系統の混乱が失敗を招くことを恐れていたから敢えて伝えずにいた。予想では、柴田の発射タイミングとサブブリッジの発射タイミングがわずかにずれてもどうとでも言い訳はできると思っていた。しかし、これではあまりにずれ過ぎている。この指示普通に柴田が苛立ち、今他の部門へ騒動をまきちらされては戦況すら悪化しかねない。どうしたものか。ツー・中村はうまい言い訳も見いだせずに沈黙していた。
『おい、発射だ。主砲発射だぞ。聞こえないのか。』
『・・・。』
柴田幸は、黙ってしまったツー・中村をじっと睨んだ。そして、机を叩き怒鳴り始めようとした。
『柴田首相、すでに発射指示は伝わっていると思いますよ。私が言うのもなんですが、発射指示後からエネルギー充填が行われ、充填完了後のエネルギー粒子放出になるので、今指示されたので5分後かと。』
話に割り込んだのは、ウーミ・ライ団長だった。発射指示から放出まで5分なんでいう常識は実際はない。エネルギー充填など実射が伴う作戦なので、当然準備段階で終了している。ウーミ・ライがそう言ったのは、柴田幸を黙らせる為だけの文句でしかなかった。ツー・中村はそれがわかっていた。普段ならいざ知らず今回はウーミ・ライのこの機転に感謝した。
『ウーミ・ライ団長。そんなことはもちろん知っていた。ただ、エネルギー充填確認をしたかっただけだ。』
柴田幸は言ったが、誰も聞いてはいなかった。そうするうちに、要塞内に艦隊が帰還完了という報告が入った。報告を受けたツー・中村は、もうすぐ5分経つのを見計らい合わせて言った。
『柴田首相、艦隊が帰還しました。またエネルギー充填完了、放射開始とのことです。』
ウーミ・ライが言った放射5分後に関して、ツー・中村は妥当だと考えていた。艦隊帰還も確認できたしもう放射されるだろうと踏んで柴田幸にそう報告した。
冥王星要塞主砲は5分後無事放射された。
主砲射程に包囲され閉じ込められていた連合軍は、どうすることもできず主砲の直撃を受けた。主砲射程宙域は大きな光に包まれた。
要塞内メインブリッジのメインスクリーンは大きな光で満たされていた。その後、スクリーンが映したものは何事もなかったかのような宇宙空間だった。それでも柴田幸を始め、ツー・中村、ユイ・フォン、ユウカ・ビート、ミン・ロネンは柴田幸の歓喜に注意をそらされていた。
『みなのもの。まずは初戦。大勝利だったな。』
『そのようですね。』
柴田幸はすべて自分の手柄のように勝ち誇って言った。そして、ツー・中村はもう後戻りできないことを改めて知り、ただ柴田に合わせる以外なかった。それを見ていたウーミ・ライは口元で苦笑いをしていた。そして、次にここで起こることに対しての段取りを始じめる為、柴田に祝辞を述べメインブリッジをあとにした。
