マリー暗殺テロ事件⑤(完) | YSNOVEL

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 そして、テロは実際に起こったのである。第一照射が起こり、メイン舞台のマリー・ティーチは狙われた。第一照射のすべて6か所をはっきりと把握することができた。ユーリは、二回の照射でと言っていたが、二度も見なくても一度で全ての照射箇所を見抜く自身はあった。ただ、第二照射の際に第一照射の照射箇所以外にさらに2か所から照射されるのを見て言葉の真の意味を理解した。そしてその新たな2か所の内一か所は、なんと枝見一紀がいるイベント本部の真上からだった。第一照射を逃れた場合、マリー・ティーチはイベント本部へ向かう警備計画になっていた。この計画通り行動していた場合、その移動の際に再び狙撃される危険があったのだ。あらゆる危険をこれほど簡単に回避できたのは、ユーリの先見眼なにものでもなかった。テロ発生時にイベント本部へ向かったのは、マリー・ティーチではなく、コーヤス・イーエになった。イベント本部の真上にいたテロ実行犯の鉄拳制裁を終えた後、ベランダ伝いにイベント本部まで降り、窓ガラスを蹴り割り一気に部屋に入った。驚きふためく枝見一紀へ一言言った。
『お前の狙いは既に軍によって明確になっている。もう観念しろ。』
 『なんだ、いきなり。お前は誰なんだ。こいつもテロの実行犯だ。取り押さえろ。』
 マリー・ティーチ親衛隊は、枝見一紀の指示でイベント本部にその全員が詰めていた。テロ発生にて隊員の何名かは出動しないことに疑問を感じていたが、上官の絶対の指示の為動けずにいた。そして、また今程の指示に無垢に従うべくコーヤス・イーエに襲いかかったのである。親衛隊15人と枝見一紀、そしてコーヤス・イーエ。イベント実行委員達はすでに会場内の騒動整備の為に全員が出てしまっていた。一見、コーヤス・イーエの絶対的不利に思える構図だが、当の本人は全く恐怖を感じていなかった。親衛隊は白兵戦において軍で選りすぐられた精鋭達である。そんな彼らを前に、コーヤスはむしろ楽しさを覚えていた。負ける気がしない。ここへ来るまでに既に4度戦っていたが、それでも体力はほぼ満タンに等しかった。
 最初に手を出しのは、親衛隊一の俊足を誇る男であった。コーヤス・イーエの懐に一気につめると拳を下からアッパーを放った。親衛隊員間では誰もかわせないはずのアッパーをなんの気なしにかわし、軽く拳を隊員のみぞおちに打ち付けた。それだけではない。さらにコーヤス・イーエ一円にいた隊員5人に同じみぞおちへの攻撃を加えた。ここまで10秒ほどしかたっていないが、6名を倒されて隊員達のスイッチもいよいよ本格的に入った。いや、入ったはずだった。倒れる隊員を踏み台にして飛び、さらに2名の隊員を開脚キックにて沈めた。残りは隊員7名と隊長1名。ここで思わぬことが起こった。隊員3名が残りの隊員4名をレーザーガンで打ち抜いたのだ。倒れ行く4名の隊員達には状況が把握できないまま即死が待っていた。コーヤス・イーエには一瞬で全てを理解できた。枝見一紀が本性を現したのだと。瞬時に柱の裏に隠れた。
 『君が誰だか知らんが、こいつらをかたずける手間が省けた。助かったよ。あとは君だけだな。』
 レーザーガンを持つ3名の隊員達が狙ったのは、先に倒れた6名の隊員達だった。放たれたレーザーはそれぞれ、目的の額に打ち込まれた。ただ、レーザーを放ったのは3名の方ではなくコーヤス・イーエだった。枝見一紀の言葉などには耳をかさず、隠れていた柱を蹴って部屋の中央に飛び出し、ためらいもなくレーザーガンを3名の隊員の額を狙い放った。さらにその勢いで枝見一紀に詰め寄り、手に持つレーザーガンをたたき落とし銃口を向けた。
 『今度こそ観念してもらおうか。お前には尋問を受けてもらう。』
 『まあ、よい。目的は果たした。マリーの死体をこの目で見てやろうと考えていたが、こうなってしまってはもうそんなことはどうでもいい。あとは最後の始末をするだけだ。』
 そう言って、枝見一紀は、奥歯に仕掛けておいた自爆用晩弾のスイッチを押そうとしたが、コーヤス・イーエはそれすらもさせる時間を与えなかった。またもや、枝見一紀の言葉など耳をかさず正面から顎に鉄拳を打ち込んでいた。倒れ、薄れゆく意識の中で枝見一紀が聞いたのは絶望の言葉だった。1年を費やし入念に計画したこの企てがなんの意味もなかったことを知ったからだった。
 『マリー様は、ご無事だよ。似非隊長殿。』
軍医療施設へ運ばれる際、ふと目を覚ましたユーリ・ザックが隣で泣いているフミ・エリックへ最後の冗談を言った。
『僕が艦体指令になったらまた会おう。』
そしてユーリ・ザックは集中治療が必要な為、現行最高レベルの医療を誇る軍の医療施設へ運ばれて行った。フミ・エリックは軍の事情聴取を受ける為、軍施設へ向かうことを強制された。カメラ塔で彼らを助けたシュー・ツカサは、フミ・エリックの気持ちをそれほど理解はしていなかったがとりあえず安心させる言葉をかけた。
 『彼なら大丈夫、命に別条はない。それに、、テロも無事鎮圧した。なにも心配することはない。随分大変な協力をしてもらったみたいだね。彼の代わりにありがとうを言っておくよ。』
 フミ・エリックは冷静ではいられなかった。急にいろんなことが起こってなにから整理すればいいかわからなかった。涙は止まった。彼の命に別条がないことを知り、僅かながら気が安らいだ。できれば彼と一緒に軍医療施設まで行きたかった。
 事態はすべて収拾されたが、その全貌は軍本部中枢のメンバーのみしか明かされず隠蔽された。テロを阻止したメンバー達も当然その全貌を知ることはなく、その代わりに名誉と勲章を授与された。また、卒業後の進路も大幅に修正され、卒業ながらにしてそれぞれが重要なポジションに就くことを任命された。中でもコーヤス・イーエは一番の評価を得、若いながらマリー・ティーチ親衛隊長に命じられた。
 重傷にて軍医療施設へ移送されたユーリ・ザックは、その後軍よりその所在を明らかにされることはなかった。卒業者名簿には載っている彼であったが、テロより後彼を学校内で見たものは誰もいなかった。本人曰く空白の半年と言っていたが、他のメンバーはそれが単なる余暇であることを知っていたので軽く流されていた。そんな中、忘れられたフミ・エリックは一途に日々を活きていった。