地球連合軍の若き中将達、ユーリ・ザック、シュー・ツカサ、ヒーロ・ハル、そして現連合府首相親衛隊長コーヤス・エーイは、同じ士官学校を卒業した同級生である。選考学科はそれぞれ異なるものの、4人は士官寮で同部屋になり仲を深めていった。彼らの最初の実戦は、イオの討伐であった。よき友、よきライバルである4人が初めて共同し、見事な功績によってその実力を連合首脳に知らしめることになった。
士官学校時代の彼らは、それほど優秀ではなかった。ただ、それは能力全般を標準で評価した場合のことで、それぞれの得意分野においては群を抜いての才を発揮していた。シュー・ツカサは、現状把握することに長け、艦隊戦シミュレーションにおいて、勝敗はともかく艦隊運用で教官達を唸らした。ヒーロ・ハルは、艦隊戦シミュレーションにおいて、無敗を誇った。彼の戦術は艦隊の機動性を高め相手の先手を取っての先制攻撃にあった。常に相手よりも数的優位な状況を作り、各個撃破および戦力一転集中での圧倒的勝利をあげていった。コーヤス・エーイは、艦隊戦シミュレーションにおいては標準的な評価しか得られなかったが、戦闘訓練においては教官さえも負かす腕を見せ学校始まっての至上最高評価を得た。ユーリ・ザックは、艦隊戦シミュレーションと歴史分野には秀でる才を評価されていたが、他の分野において標準以下を記録し落第すれすれをなんとか乗り越え卒業を勝ち取った。
在学4年目のある日、ある事件が起こった。
その日は、士官学校の創立記念祭で、地域の住民や軍関係者各方面の人々を招待しての大規模なイベントが開催されていた。中でもシーマ・ティーチ首相の妹、マリー・ティーチが連合府代表として講演するイベントは全参加者の注目をひいていた。
士官学校の校舎群が囲む中に、講演会場が特設されていた。教官棟をバックに高さ15メートルの舞台が立てられ、約3000人が集まるイベント会場のどこからでも講演者が見えるように作られていた。警備要員は800名、いずれも連合府直属部隊のメンバーだった。総指揮は親衛隊長の枝見一紀、冷静沈着がもっとうな男であった。
マリー・ティーチの講演は、PM3:00を予定されていた。昼食を済ませた人々から徐々に中庭に集まりはじめ、PM2:00にはすでに2500人以上の人々が信愛なるマリー・ティーチの登場を待ち望んでいた。そしてその中に、士官学校の彼ら4人もいた。
「ユーリ。やはりマリー様となると人が集まるもんだな。」
シュー・ツカサは、周囲の騒音に耳をふさぎながらもユーリ・ザックに言った。彼は、マリー・ティーチの講演内容にも十分興味はあったが、それ以上に彼女の美貌を拝観することに興味があった。そしてそれは、ヒーロ・ハルも同様であった。新しく購入したムービーカメラでその美貌を記録することに必死になっていた。
「ユーリ。この警備は少し不味いように思えるが、どう思う。」
コーヤス・エーイは、周囲の状況を即座に読み取りユーリ・ザックに言った。
「確かに、まずいね。それに、さっきから妙な輩が目につくな。」
ユーリ・ザックは、コーヤス・エーイの耳もとで小さくなにかを囁いた。コーヤス・エーイは何度か頷き、小さな声で確認を済ませ人ごみに消えた。それを見ていたシュー・ツカサが言った。
「コーヤスはどうした。トイレにでも行ったのか。」
ユーリ・ザックは、表情を変えずにここでテロが起こると言った。もともと、返事を期待してなかったシュー・ツカサはその言葉の意味を理解せずに「そうか。」と言ったが、時間差でその意味に気付き驚いた。
「コーヤスは、警備配置の訂正を申出にイベント開催本部へ行った。」
ユーリ・ザックは、こう続けると腕を組み思考にふけっていった。
「テロ。テロだと。誰が。誰が企んでるんだ。」
ユーリ・ザックはすぐには返事をせず、彼にとってはそれほど難しくもないパズルを解き終えてから言った。
「シュー、ヒーロ。少し協力してくれ。マリー・ティーチ様に間近で会えるかもしれないから。」
シュー・ツカサとヒーロ・ハルは状況も理解できないまま驚いた。だが、マリー・ティーチが危険にさらされるらしいということと、間近で会えるということによって多少あった疑問は消し飛んだ。ユーリ・ザックがいつもと違いはっきりと物を言うときは必ずなにかあるということは二人には分かっていたし、感覚的にこれは予想以上に急なことだと察したからである。また、状況把握は動きながらでも十分できると踏んだからである。物を考えることよりもむしろ動くことによって最大のパフォーマンスを発揮する彼らだった。
ユーリ・ザックは、手短に2つのことを告げた。舞台をのっとり、そしてシュー・ツカサの例の特技を披露しろと。それを聞いた二人は顔を合わせイメージの共有をし、そして群衆をかき分けユーリ・ザックのもとを離れた。ユーリ・ザックは3人が去った後しばらくして、急に後ろを振り向いた。
「盗み聞きはよくない。」
突然ユーリ・ザックから声をかけられた女生徒はびっくりして動きが止まった。
「私は、ユーリ・ザック。なにか聞きたいことはあるかい。ま、その前に君は誰かな。」
ユーリ・ザックは、じっくりと彼女を見ている。女性徒は何にでも興味のある明朗活発な女性だった。また、女性であると同時に士官学校の優秀な生徒でもあった。学年でいえばユーリ・ザックよりも2年下の後輩にあたる、先ほど確かに耳にしたテロという言葉は聞き捨てならないものだった。まだ、びっくりして上がった心拍数は下がらないが、勇気を出して話始めた。
「私は、フミ・エリックと言います。決して盗み聞きするつもりはなかったのですが、一人でこの場所にいまして、たまたま耳に入ってきた言葉に興味をひかれました。」
「今のは本当のことですか。真剣な雰囲気でしたので気になりましたが、冗談ですよね。」
ユーリ・ザックは、彼女に質問をしろと言っておきながら、彼女の言葉を聞いてはいなかった。しばらくじっと見つめていた彼女から目を外し、彼女の顔に目を移し言った。
「君にも協力してもらおう。」
そしてユーリ・ザックは、彼女に第2の聴衆者を出さないよう周囲に気を配りながらテロの全容と依頼事を話した。話を聞いた彼女は、テロの全容に関してはまったく信じられなかったが、依頼事に関しては今日という記念イベントの協力になることだったので断る理由もなく協力する気になっていた。
「ユーリ。あなたはどういった方なのですか、イベント運用係かなにかの人ですか。なんだか理由付けはよくわかりませんが、頼み事の方は大事な事だと思いますので協力します。」
「私はただの戦術予報士さ。みんなの協力ですべて上手くいくさ。テロのことにしろイベントのことにしろね。」
ユーリ・ザックは、これから起こる真実を話したつもりだったが、彼女にとっては信じられそうにもないのも十分にわかったので、あえてテロの真偽は強要しなかった。そしてユーリ・ザックの僅かな遊び心で一言だけ付け加えた。
「君が協力してくれるなら、僕が艦隊司令になったら君を艦隊副司令に迎えるよ。」