彼女はユーリ・ザックのことを単純に変わった面白い人だと思った。現時点では、ユーリ・ザックが言ったことをすべて信用した訳ではない。ただ、もし万一マリー様の命が狙われていたとしたら、それはフミ・エリックにとっても阻止すべき大事なことだった。フミ・エリックにとっても、マリー・ティーチは重要で大事な尊敬すべき人物であった。自分が協力することで、なにかの助けになるのなら協力は惜しまないつもりだった。ただ、あくまでもそれが事実だった場合に。
フミ・エリックは、ユーリ・ザックのことを実は知っていた。ただ、面識はなかった。彼女が彼を知っていたのは、彼が行った戦術シミュレーションのログが後輩達の教材になっていたので、彼の名前だけを覚えていた。彼の戦術眼に魅了され学校内にいるユーリ・ザックという人に一度は会ってみたいと思っていた。そんな、ユーリ・ザックがふと目の前に現れた。驚きを隠すのがせいいっぱいで、それ以上のことは考えられなかった。マリー様の暗殺にしても、2の次ぎになっていたほど冷静さを欠いていた。ユーリ・ザックは、どこにでもいる普通の外見を持った男だった。中肉中背でかっこよさやセンスなんて微塵も漂っていなかった。それでも、フミ・エリックには輝いて見えた。現時点において、恋愛感情はなく、ただ、尊敬する偉人といろいろと語り合いたいと思った。
PM3:00。講演の司会が舞台に立った。
それは、軍服からスーツに着替えたヒーロ・ハルだった。彼は3000人以上の群衆ざわめく中、形式的な進行を進め始めた。そして、一部プログラムの変更があることを宣言し、その内容を説明した。それは、マリー・ティーチ様に協力を仰ぎ大マジックをするというものだった。題して瞬間移動。講演舞台から指定した場所にマリー・ティーチ様が瞬間移動するというマジック。
「マジシャンは、本学の皆さんお馴染みのシュー・ツカサ。」
ヒーロ・ハルは、それほどお馴染みでもないシュー・ツカサを舞台上で紹介した。シュー・ツカサは典型的なマジシャンの衣装を着用し舞台に上がった。
瞬間移動用マジックボックスを登場させ、群衆にマジックを説明した。そして、マジック参加に快諾したマリー・ティーチが、ボックスに入った。そして群衆の歓声が沸いた。
「わたくし、シュー・ツカサもこのボックスに入ります。」
とシュー・ツカサは言い、二人でボックスに入ってしまった。その瞬間驚くべきことが起こった。マリー・ティーチとシュー・ツカサが入ったマジックボックスに向けて無数のレザーが突き刺さった。群衆の歓声は止み静けさが辺りを包んだ。舞台上の誰もが驚きの為だまり込んでいた。そして実際よりも長く感じる30秒が過ぎた。だんだんと会場がざわつき始めた。ヒーロ・ハルはゆっくりと舞台の真中に歩み、右手のマイクを持って話始めた。
『みなさん、驚きのことでしょう。でもご案ください。』
ヒーロ・ハルの右手にはマイク、左手には携帯通信機が握られていた。その通信機から直後に連絡が入り、ヒーロ・ハルは了解を告げ通信を終えた。そして、未だざわつく会場に向けさらに言った。
『では、マジックの本題に入りましょう。今から10秒を会場全体で数えてください。10秒後、私ヒーロが指す先にお二人が瞬間移動します。さあ、いきますよ。10。』
ヒーロ・ハルのカウントダウンでざわつく会場から徐々にカウントダウンが始まった。9、8、7。6、5、4。そして、3、2、1。ゆっくりとヒーロ・ハルは、聴衆の中央に右手に持つマイクを向けた。そして、カウントダウンを終えた聴衆は、ヒーロ・ハルがマイクで指した方向に目を向けた。そこには、テレビ中継用の高さ5メートル程度の特設台があった。そして、聴衆はその台の上を見上げると、そこにはさきほどまでカメラマンであったはずの二人がその衣装を脱ぎ、誰もが想像する二人に変わっていた。そうマリー・ティーチとシュー・ツカサがそこにいた。それを見た会場全体から割れんばかりの歓声が起こった。ただ、ヒーロ・ハルはまったく驚く様子もなく再びマイクを持って言った。
『みなさん、まだマジックは終わっていません。これから再度、この舞台にお二人が瞬間移動します。』
ヒーロ・ハルが言い終える前に再びレーザーが会場のテレビ中継特設台上の二人を突き刺した。