バッテリーの未来 | TERUのブログ

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つれづれに

撮影の仕事がある前の晩、カメラのチェックをしようとスイッチを入れたら、まったく反応しない。

ドキッ!

としましたよ。なにせ、ほら、わたくしってば、いろんな物を破壊する電波を出してるって噂ですから(苦笑)。

原因は電池切れでした。前回の撮影で、バッテリーをほとんど使い切っていたのに気づかなかったんですね。それはそれで情けない話ですが(汗)。

言うまでもなく、現代のカメラに「電気」は必需品。電気がなければ、2キロほどあるダンベル状態ですよ。腕の筋肉を鍛えるくらいしか使い道がない(笑)。

冗談はともかく。そんなことで、「充電池」のことを書きたくなったので書きます。

いま、充電池として、われわれに馴染みがあるのは、エネループですよね。これはニッケル・水素と呼ばれるタイプの充電池です。読んで字の如し、正極に「ニッケル」を使います。もう一つは、リチウム・イオン電池。こちらは「リチウム」を使う。

用途としては、どちらも似たようなものなんですが、とくに高性能な電池を必要とする機器には、リチウム・イオン電池が使われます。代表的なのは、カメラやノートPCなどのモバイル向け電子機器と、大電力が必要な電気自動車など。

ノートPCは、そんなに大量の電気を必要としないのですが、持ち運びのために、電池は少しでも軽くしたい。リチウム・イオン電池は高性能なので、小さくてもたくさん電気を貯められますから、軽くしたいノートPCにはぴったりなんですね。カメラも同様です。

電気自動車は、1回の充電でたくさん走りたい。とはいえ電池をいくらでも積むわけにはいきませんから(人が乗れなくなっちゃう!)、やはり高性能なリチウム・イオン電池を必要とします。(その点ハイブリッド自動車は、エンジンで走るのが基本なのでバッテリーは安価なニッケル水素でもいいわけです)

このように、現在、最高の性能を持つリチウム・イオン電池は、なくてはならない存在ですが……2つほど大きな問題があります。

まず第1の問題。値段が高い!

なにせ、リチウムはレアメタルですから、とってもお高い材料なんですね。ニッケル・水素のニッケルが、シイタケだとしたら、リチウムはマツタケですよ。

もう1つの問題は、現在、最高の性能とは言いますが、じつは、まだまだ性能が足りないのです。

矢貫隆さんという、ちょっと強面の(失礼!)ノンフィクション作家が、電気自動車のリーフを使ったタクシーの乗務体験をコラムにしてらっしゃるんですが、冬に暖房を使うと、40キロしか走らないそうです。もちろん、満充電の状態から。

いまの性能の10倍……とは言わないまでも、最低でも、あと5倍程度の性能が、充電池には求められているようです。

それとね、あまり語られないのが不思議なんですが、クリーンエネルギーの代表選手みたいな「太陽電池発電」にも、充電池はとても重要です。

いまの太陽光発電は、まあ、おおむね、電気の垂れ流しです。ほとんど充電池と組み合わされていませんからね。太陽電池は、晴れた昼間しか発電しませんので、夜に使いたいと思っても無理なんですよね。おうちの屋根につけた太陽電池パネルは、夜の間は、屋根の「重し」です(苦笑)。

ですから、昼間発電した電気を、充電池に貯めて、夜にも使えるようにしたら、とーっても、効率的ですよね。

昼間発電した電気を、じゃんじゃん、電力会社に売電して儲けたいって人は話が別ですけど……自然エネルギーの買取価格は、いま現在、自然エネルギー産業を促進させるために、非常に高価に設定されていますから、いまだけの「特需」でございます。

もしも、いまの買取価格で全電力を賄うとすると、電気代が目玉の飛び出すような金額になってしまうので、自然エネルギーの普及にともなって、買取価格を下げていくような制度になっています。将来的には、いまの火力発電並みに下げるのが理想ですね。

すいません、話がそれました。

とにかく、太陽電池パネルの、電気の垂れ流しはもったいないわけですよ。もったいないだけならともかく、電気の安定供給という意味でも、垂れ流しは問題があります。お天気に左右されるので「不良電源」なんて呼ばれ方までされちゃう。でも、充電池と組み合わせて、つねに安定した電力が供給できるようになると、太陽光発電の利便性は飛躍的に高まります。

同じことが「風力」にも言えますね。風力発電も、風まかせの風来坊ですから、充電池と組み合わせるべきです。いま現実味がある自然ネルギーで、充電池が要らないのは、地熱発電くらいじゃないかなあ。

ところが!

さきほど話した通り、いまの充電池は、値段が高いし、そもそも性能が足りません。足りない性能を補うために、大量に導入すると、それこそ国家予算並みの財源が必要です。正確な試算ではありませんが、いま日本にある太陽電池パネルすべてに(家庭用含め)、小型の電気自動車に使われるくらいの充電池を取り付けるには、40兆円ほどかかるようです。

というわけで、充電池の性能向上(結果的にコストも下がる)は、世界中の研究機関が、いま必死に研究している分野なのです。

大げさに言うと、高性能な充電池を持つ国が、世界を支配するかもしれない。

で、いま期待されている、近未来の技術は「リチウム・空気電池」です。リチウムを使うところは、いまのリチウム・イオンと同じですけど、正極に空気を使うリチウム・空気電池は、性能をリチウム・イオンより、5倍から10倍くらいまで高められそうなんですよ。

そんなわけで、いま各国が、それこそ血眼で研究しています。有名なところでは、IBMの「Battery 500 Project」なんかがありますね。この間発表されたところでは、電気自動車を800キロ走らせる性能のリチウム・空気電池の開発に成功したとか。

IBMは、酸化しても分解しない電解質を、ご自慢のスーパーコンピューター「Blue Gene」を使って、探り当てたようです。その物質がどんなものか、また、スーパーコンピューターのプログラムなどは、言うまでもなく「極秘」です!

さらに、ローマ大学「ラ・サピエンツァ」は、ソウルの漢陽大学と協力して、リチウム・空気電池の充電サイクル向上の研究をしています。科学誌の『ネイチャー・ケミストリー』に掲載された論文によると、彼らのラボでは、100回の充電に耐えられるところまで来たようです。

あるいは、今年の『サイエンス』誌8月号に掲載された論文では、スコットランドのセント・アンドルーズ大学が、炭素を使っていた電極に、金を使って10倍の蓄電量を達成したそうです。また、セント・アンドルーズの研究では、充放電のサイクルを改良するために、電解液にジメチルスルホキシドを使ったそうです。

えー? 日本は? まさか出遅れてますぅ?

うーん。本当のところはよくわかりませんが(なにせ、最先端の研究なので)、ぼくら一般人が調べて分かる範囲では、日本も頑張ってますよ。

日本は、独立行政法人 産業技術総合研究所が、一所懸命に研究してます。やはり、今年の8月学術誌の『Energy & Environmental Science』に掲載された論文によると、日本は、そもそも、電解質に、有機溶剤を使わない方法を開発中のようです。(セント・アンドルーズ大学が使ったという、ジメチルスルホキシドも、まあ、よく知られた有機溶剤のようです)

産業技術総合研究所が言うには、有機電解液を使うと、液漏れや揮発、発火等の恐れがあるし、また、充放電中に分解・反応してしまうので、充電時と放電時の電圧差が大きくなる問題があるんだそうです。

そこで彼らは、無機化合物の固体だけで構成された、新型のリチウム・空気電池を開発したのだそうですよ。

でも、どの方法も、実用化には、まだまだ解決しなければならない問題が、山ほどあるようです。楽観的に見ても、実用化は2020年。現実的には、2030年ごろじゃないかと言われています。

なんだ、まだ先か……

と思われるかもしれませんけど、2030年に間に合えばすごいですよ。というのは、2030年というのは、原発をすべて廃炉にする決意が、日本国民にできる年になるんじゃないかという期待があるからです。(2030年をもって、すべてを廃炉にするのは無理だと思いますが、将来の完全廃炉が決定的になる年ではないかと)

その頃の日本は、火力と水力、そして地熱がベース電源になっていて、とくに地熱が、いまの原発並みに、20%くらいの電力を担っているかもしれません。

そこに、超高性能な充電池が実用化されれば、そのころまでに、かなり整備されているだろう(と期待してます)、太陽電池と風力を、本格的な「発電」に組み込むことができると思うのです。

もしそうなれば、ああ、これでもう、原発がなくても将来の電気は心配ないねと、トヨタの社長さんに(つまり産業界に)思ってもらえるんじゃないかと……期待できます。

まあ、いまのところは、夢の様な話ですけど、夢は寝てるときに見ればいいんだ! なんて、頭の硬い政治家みたいなことは言ってられませんので、リチウム・空気電池の開発に、今後も注目していたいと思います。

カメラの電池切れから、ずいぶん話が膨らんだなあ(笑)。



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